ファナックが、部品の図面を読み取ってアーク溶接を自動で行う新商品「AI溶接エージェント」を開発しました。Googleとの協業で、法人向け生成AIのGemini Enterpriseを産業用ロボットに組み込んだ形です。9月16日から東京ビッグサイトで開かれる国際ウエルディングショーで実演され、出荷開始は2026年12月末を予定しています。
図面を見せると溶接条件と動作が出てくる
AI溶接エージェントの中身を一言でいえば、設計図の読解役です。アーク溶接で作る部品の図面を読み取り、使う材料と作ろうとしている部品を理解したうえで、電流や電圧といった溶接条件と、ロボットの動作の2つを自動で生成します。
ここで効いてくるのが、ファナックがゼロ設定、ゼロ教示と表現している点です。従来のアーク溶接ロボットは、条件出しとティーチング(ロボットに動作を教え込む作業)という2つの工程を人が担ってきました。どちらも経験がものを言う領域で、そこが自動化のボトルネックになっていたわけです。AI溶接エージェントは、この2工程をまとめてAI側に寄せています。
とはいえ、生成されたものをそのまま流すしかない作りではありません。オペレータは出てきた溶接条件や動作をそのまま実行することも、微調整してから溶接させることもできます。現場の勘所を後から差し込める余地が残されているのは、実運用を考えると現実的な設計だと言えます。
タブレットのカメラだけで完結する導入のしやすさ
図面の読み取りに使うのは、協働ロボットCRXのタブレット型ティーチングペンダントに内蔵されたカメラです。読み取り専用のカメラやスキャナを現場に持ち込む必要がなく、手元の端末で図面をかざせば処理が始まります。既存のラインに後付けするタイプの機能としては、追加投資のハードルが低い部類でしょう。
契約まわりも同じ発想で整理されています。CRXとAI溶接エージェントを使うユーザーは、Google Cloudと個別に法人契約を新しく結ぶ必要が必ずしもなく、ファナックとの既存契約の枠組みのなかでサブスクリプション形式として利用できます。クラウドサービスを工場に入れるときに立ちはだかりがちな社内手続きを、1段階飛ばせる格好です。
さらに、この機能は特定の溶接電源に依存しません。ファナックのロボットに接続されたものであれば、どの溶接電源でも使えるとしています。既存設備を入れ替えずに済むという意味では、これがいちばん現場に刺さる仕様かもしれません。
セキュリティについては、Gemini Enterpriseの法人向けの仕組みがそのまま効きます。読み取った部品図面などのデータは保護され、他のユーザーのAI学習に流用されることはないと説明されています。図面は製造業にとって核心に近い情報ですから、ここが担保されていないと現場は動けません。
熟練者不足という、避けて通れない背景
なぜ溶接なのか、という話もしておきます。アーク溶接は自動車やトラックの部品、建設資材、造船といった分野を支える基盤技術で、重要性はむしろ増しています。ところが、溶接条件を詰められる、あるいはロボットに教示できる熟練の作業者は、日本でも世界でも足りていません。ファナックはこれが資材の長納期化の一因にもなっていると指摘しています。
つまりAI溶接エージェントは、ロボットを速くする話ではなく、ロボットを動かせる人が足りない問題に手を入れる商品だという整理になります。設備は買えても使いこなせる人がいない、という悩みは溶接に限らずどの現場にもありますが、そこにAIを当てにいったのが今回の一手です。
ファナックは2025年12月の国際ロボット展で、オープンプラットフォーム対応とフィジカルAIシステムを披露しています。フィジカルAIは、ロボットがセンサーで周囲を認識し、環境に応じて自ら判断して動くという考え方です。今回の商品は、その流れをアーク溶接という具体的な工程に落とし込んだものと位置づけられます。展示のあと多くの引き合いがあったという説明とも符合します。
まとめ
AI溶接エージェントは、図面を読ませるだけで溶接条件とロボット動作が生成される、ゼロ設定・ゼロ教示のシステムです。CRXのタブレット内蔵カメラで完結し、溶接電源も選ばず、契約もファナックとの既存枠で済むという点で、導入の摩擦をかなり削ってきた印象があります。実演は9月16日からの国際ウエルディングショーで、出荷は2026年12月末から。熟練者不足に対してAIがどこまで実務的な答えを出せるのか、その最初の実装例として見ておきたい商品です。
