MediaTekは2026年9月15日、スマートフォン向けフラッグシップSoC「Dimensity 9600 Pro」を発表しました。Dimensityシリーズとして初めて2nmプロセスを採用したチップで、CPUは新世代のArm C2コアだけで組む「2+3+3」構成です。前世代と比べてマルチコア性能を15パーセント高めながら消費電力を61パーセント削減したとしており、LPDDR6メモリーとUFS 5.0ストレージにも業界の第一陣として対応します。同時に、下位モデルの「Dimensity 9600M」も発表されました。搭載スマートフォンは2026年7〜9月期中に登場する見込みです。

2nm世代に踏み込んだ「All Big Core」CPU

Dimensity 9600 Proの土台になっているのが、新しい2nmプロセスです。MediaTekは2nm世代のチップ開発に到達したことを業界で最初に表明した企業で、今回その成果がフラッグシップ製品として形になりました。

CPUは第4世代の「All Big Core」設計で、高効率コアを持たない8コア構成です。内訳は最大4.55GHzで動くArm C2-Ultraが2基(L2キャッシュ2MB)、4.35GHzのC2-Proが3基(同1MB)、3.1GHzのC2-Proが3基(同512KB)で、L3キャッシュ16MBとシステムレベルキャッシュ10MBを備えます。キャッシュ容量は合計34.5MBに達し、L2キャッシュ全体では前世代から21パーセント増えました。

MediaTekが示す前世代比の数値は、シングルコア性能が17パーセント向上で消費電力が37パーセント減、マルチコア性能が15パーセント向上で消費電力が61パーセント減です。性能の伸び幅そのものは控えめですが、電力面の改善幅が大きく、2nmへの移行を「速さ」よりも「発熱と電池持ち」に振り向けた印象を受けます。なお、これらの数値はMediaTek社内のデモ機での計測値です。

メモリーとストレージも新世代に切り替わりました。LPDDR6(10667)は同じ周波数で実効帯域幅が33パーセント広がり、UFS 5.0は読み書き速度が前世代の2倍になるとしています。LPDDR5X(10667)も引き続きサポートされるため、メーカー側はコストに応じて構成を選べます。

NPUを2基積み、300億パラメーター級のLLMを端末内で

AI処理では、性格の異なる2つのNPUを載せる「デュアルNPU」構成を採りました。1つは生成AIやエージェント処理の重い負荷を受け持つ「NPU 1090」、もう1つは常時稼働の軽い処理を担う「Super Efficient NPU 2.0」です。後者は常時オンのAI処理にかかる消費電力を40パーセント減らしたとしています。

NPU 1090の性能は、LLMのプリフィル(入力文を読み込む処理)が51パーセント高速化し、1ワットあたりのトークン生成数は55パーセント増えました。INT4演算の性能は前世代の2倍で、最大300億パラメーターのモデルを端末内で動かせるほか、MoE(Mixture of Experts)型LLMのオンデバイス推論や、KVキャッシュを圧縮する専用ハードウェアも備えます。

CPUとNPUを協調させる「AI Compute Fusion Architecture」と、第3世代の「Dimensity Scheduling Engine」の組み合わせでは、LLMのトークン生成が40パーセント速くなり、AIモデルの起動も27パーセント短縮したといいます。MediaTekはこれらを束ねて「Agentic AI Engine」と呼び、端末内のデータを解析して先回りで提案したり、ユーザーの好みを学んで応答を変えたりする、いわゆるエージェント型の使い方を想定しています。

GPUはMali-G2 Ultra NX、レイトレーシングは18%高速

GPUには「Arm Mali-G2 Ultra NX」を搭載します。ピーク性能は27パーセント向上、ピーク時の消費電力は24パーセント削減、レイトレーシング性能は18パーセント向上で、最大185fpsでのゲームプレイに対応します。GPUとNPUを直結してAIによる超解像を行う「Dimensity Neural Graphics Architecture」も新たに導入され、OMM(Opacity Micromap)を使ったレイトレーシングのハードウェア支援や、複数素材の反射表現にも対応しました。

4K240のスローモーションとH.266のハードウェアデコード

画像処理エンジンは「Imagiq 1290」です。ISPとNPUを連携させる「AI Imaging Fusion Architecture」により、被写体を60fpsで追い続けるフォーカス追従や、17EVのダイナミックレンジを持つHDR動画撮影に対応します。動画は4K240のスローモーションをネイティブに直接出力できるほか、4K120のシネマティックLog撮影、4K60でのAI True Color Toneも利用できます。対応するカメラセンサーは最大200MPで、8K60の動画撮影も可能です。

メディア再生では、スマートフォン向けプロセッサーとして世界で初めてH.266(VVC)のハードウェアデコードに対応した点が目を引きます。空間ビデオ向けのMV-HEVCもサポートし、ディスプレイはWQHD+で180Hz駆動、BT.2020の色域パイプライン、3つ折り端末向けのトリプルポートMIPIまで備えます。

通信とセキュリティ

内蔵モデムは5G Advanced対応で、Sub-6GHzの5CCキャリアアグリゲーション(最大350MHz幅)により下り7.4Gbps超に対応します。Wi-Fi 7は最大7.3Gbps、Bluetoothは最新の6.2です。セキュリティ面では、ハードウェアのRoot of Trust、耐量子暗号(PQC)への対応、pKVMを使ってAI処理を隔離する「AISeal」を用意しています。

下位モデル「Dimensity 9600M」も同時発表

上位機だけでなく、より多くの端末にフラッグシップ級の体験を届ける位置づけの「Dimensity 9600M」も発表されました。こちらはArm C1-Ultraが1基、C1-Premiumが3基、C1-Proが4基の8コア構成で、メモリーはLPDDR5X、ストレージはUFS 4.1(4レーン)、GPUはArm Mali-G1 Ultra MC12、NPUは「NPU 990」と、9600 Proから一段階前の世代の部品を組み合わせています。それでもHyperEngineによる最大185fpsのゲーム対応や、320MPセンサーへの対応、Gemini Nano 4やQwen 3.5 Omni 4Bといった最新モデルのサポートを謳っており、価格帯の少し下の端末で存在感を出しそうです。

搭載端末はOPPOの新フラッグシップから

MediaTekは、Dimensity 9600 ProとDimensity 9600Mを搭載した最初のスマートフォンが2026年7〜9月期中に登場するとしています。OPPOは9月22日に中国で「Find X10」シリーズを発表する予定で、上位モデルの「Find X10 Pro Max」がDimensity 9600 Proを最初期に採用する1台になると見られています。

まとめ

Dimensity 9600 Proは、2nmプロセスへの移行を電力効率の改善に大きく振り向けたフラッグシップSoCです。CPUはC2コアのみの2+3+3構成でマルチコアの消費電力を61パーセント減らし、LPDDR6とUFS 5.0にいち早く対応しました。デュアルNPUで300億パラメーター級のLLMを端末内で動かし、4K240スローモーションやH.266ハードウェアデコードといった機能も加わっています。最初の搭載機は今四半期中に登場する見込みで、9月22日発表のOPPO Find X10 Pro Maxがその筆頭候補です。