2015年の台湾積体電路製造(TSMC)は、売上高266億ドル、株価143台湾ドルの「みんなの工場」でした。それから約10年、同社は7nm、5nm、3nm、2nmと世代交代を止めずに続け、2025年の売上高は1,220億ドル、2026年9月4日の株価は2,410台湾ドルに達しています。この記事では、この10年で何を作り、何が起きて、株価と業績がどう動いたかを数字でたどります。
2015年のTSMC:16nmを立ち上げた「みんなの工場」
2015年のTSMCは、すでに世界最大のファウンドリでした。連結売上高は8,435億台湾ドル(266億1,000万ドル、約4兆1,000億円)、純利益は3,065億7,000万台湾ドルで、ともに過去最高を更新しています。粗利益率は48.7パーセント、顧客数は470社、ファウンドリ市場のシェアは55パーセントという水準でした[1]。
技術面の主役は16nm FinFET(16FF+)でした。同社の年次報告書は、この年に16nmを記録的な速さで立ち上げたと記しており、16nmと20nmを合わせたウエハ売上比率は前年の9パーセントから20パーセントに伸びています。一方で稼ぎ頭はまだ28nmで、この世代では70パーセント超のシェアを維持できると見込んでいました。10nmは2015年中に技術認定を終え、7nmは2017年上半期のリスク生産に向けて開発中、5nmは仕様を固めている段階でした[1]。
象徴的だったのがAppleのA9チップです。iPhone 6sに載ったこのチップは、SAMSUNGの14nmとTSMCの16nmで並行して生産されました。SAMSUNG製のほうが小さく、TSMC製のほうが性能面で優れているとされ、Apple向けの売上は約37億ドルにのぼると報じられています[2]。
このころのTSMCは、チップを作る以外の事業を畳んでいた時期でもあります。2015年にはLED子会社を売却し、太陽電池事業も8月に製造を終了しました[1]。台湾証券取引所での株価は年末終値で143台湾ドル、その年の上昇率は1.4パーセントにとどまっています[3]。
7nmから2nmへ、経営交代と地政学の10年
2018年6月、創業者のMorris Chang氏が株主総会をもって退任し、Mark Liu氏が会長、C.C. Wei氏がCEOという2頭体制に移りました[4]。2020年5月には米国の輸出規制強化を受けてHuawei向けの新規受注を停止するという転機もありました[5]。それでも同年、台湾の株価は60パーセント上昇しています[3]。
2022年12月29日、TSMCは台南のFab 18で3nmの量産と拡張を祝う式典を開き、良好な歩留まりで量産に入ったと発表しました[6]。もっとも株式市場にとって2022年は逆風の年で、台湾の株価は27.1パーセント下落しました[3]。
生産拠点の海外展開もこの期間に本格化します。日本では、ソニーセミコンダクタソリューションズ、デンソー、トヨタ自動車が出資する熊本の子会社JASMの第1工場が2024年2月24日に開所式を迎え、同年2月には第2工場の建設も発表されました。2工場合わせた総投資額は200億ドル(約3兆1,000億円)超、生産能力は12インチウエハ換算で月産10万枚超、40nmから6/7nmまでを手掛ける計画です[7]。米国では、アリゾナ州の第1工場が2024年第4四半期に4nmの量産に入り、2025年3月には投資額を1,000億ドル積み増して合計1,650億ドル(約25兆6,000億円)にすると発表しました。新たに工場3棟、先端パッケージング施設2棟、研究開発センターを建てる計画です[8]。
AIブームは株式市場の評価を一変させました。2024年7月、TSMCの時価総額は1兆ドルを超え、2007年のPetroChina以来となるアジア企業の大台到達になりました[9]。そして2025年第4四半期には、同社初のGAA(ゲート・オール・アラウンド)トランジスタを採用した2nm(N2)が高雄のFab 22で量産に入りました。N2はN3E比で同じ電力なら10〜15パーセント高速とされ、性能強化版のN2Pと裏面電源供給を採用したA16は2026年後半の量産予定です[10]。
売上4.6倍、株価17倍:数字で見る現在地
2025年通年の売上高は前年比35.9パーセント増の1,220億ドル(約18兆9,000億円)、台湾ドル建てでは3兆8,000億台湾ドルでした。AIアクセラレータだけで売上の10パーセント台後半を占め、同社は2024年から2029年までの5年間で年平均25パーセント近い成長を見込んでいます[11]。2015年の266億ドルと比べれば約4.6倍です。
製造技術の中身も入れ替わりました。2015年に16nmと20nmで20パーセントだったウエハ売上は、2025年第4四半期には3nmが28パーセント、5nmが35パーセント、7nmが14パーセントとなり、7nm以下の先端世代で77パーセントを占めています。粗利益率は62.3パーセントまで上がりました[12]。
直近の2026年第2四半期はさらに数字が跳ねています。売上高は1兆2,703億8,000万台湾ドル(402億ドル、約6兆2,000億円)で前年同期比36パーセント増、純利益は7,065億6,000万台湾ドル(約3兆5,000億円)で77.4パーセント増、粗利益率67.7パーセント、営業利益率60.3パーセントという水準です。この四半期には2nmが早くもウエハ売上の3パーセントを占めました。第3四半期の売上見通しは446億〜458億ドル(約6兆9,000億〜7兆1,000億円)です[13]。用途別ではHPCが売上の66パーセント、スマートフォンが22パーセントで、2026年の設備投資計画は600億〜640億ドル(約9兆3,000億〜9兆9,000億円)に引き上げられました。同じ決算でC.C. Wei氏はアリゾナへ追加で1,000億ドル(約15兆5,000億円)を投じると表明し、同州への投資総額は2,650億ドル(約41兆円)に膨らんでいます[14]。月次でも7月の売上高は4,675億8,000万台湾ドル(約2兆3,000億円)で前年同月比44.7パーセント増でした。2026年通年はドル建てで40パーセント強の成長という会社見通しです[15]。
株価はこの業績を映しています。台湾証券取引所の年末終値は2015年の143台湾ドル(約715円)から、2020年に530台湾ドル、2024年に1,075台湾ドル、2025年に1,550台湾ドルと切り上がり、2026年9月4日の終値は2,410台湾ドル(約1万2,000円)でした。年初来で55.5パーセント高、直近10年の上昇率は1,281パーセントです。もっとも一本調子ではなく、2018年は1.7パーセント安、2022年は27.1パーセント安の年でした[3]。ニューヨーク上場のADRは9月4日終値で428.91ドル(約6万6,000円)、時価総額は1兆9,800億ドル(約307兆円)です[16]。配当調整後のADRの2015年平均株価が17.5ドル前後だったことを考えると、こちらも20倍を超える水準に来ています[17]。
まとめ
2015年のTSMCは、16nmを立ち上げたばかりの、粗利益率48.7パーセントの受託製造会社でした。10年後の姿は、2nmを量産し、粗利益率が67.7パーセントに達し、AI向けの需要を一手に引き受ける企業です。その間に創業者は退き、Huawei向けの供給は止まり、工場は熊本とアリゾナへ広がりました。売上は約4.6倍、台湾の株価は約17倍になりましたが、2018年と2022年のように下げた年もあります。次の10年を占う材料は、2026年後半のA16と、2,650億ドルに膨らんだアリゾナ投資の行方でしょう。
※為替レート(2026年9月4日時点):1米ドル=155円、1台湾ドル=5.0円換算
出典:https://investor.tsmc.com/static/annualReports/2015/english/e_1_1.html
出典:https://appleinsider.com/articles/16/01/14/apple-a9-chip-fab-tsmc-reports-record-earnings-casts-doubt-on-peak-iphone
出典:https://goodinfo.tw/tw/ShowK_Chart.asp?STOCK_ID=2330&CHT_CAT=YEAR
出典:https://pr.tsmc.com/english/news/1938
出典:https://techcrunch.com/2020/05/18/tsmc-reportedly-stops-taking-orders-from-huawei-after-new-u-s-export-controls/
出典:https://pr.tsmc.com/english/news/2986
出典:https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/02/c371d942ba3a0472.html
出典:https://pr.tsmc.com/english/news/3210
出典:https://qz.com/tsmc-trillion-market-cap-ai-chips-taiwan-earnings-semiconductor
出典:https://www.tomshardware.com/tech-industry/semiconductors/tsmc-begins-quietly-volume-production-of-2nm-class-chips-first-gaa-transistor-for-tsmc-claims-up-to-15-percent-improvement-at-iso-power
出典:https://investor.tsmc.com/english/encrypt/files/encrypt_file/reports/2026-01/51d09df96cd89ac19d65af39032b038dc2896a24/TSMC%204Q25%20Transcript.pdf
出典:https://pr.tsmc.com/english/news/3281
出典:https://pr.tsmc.com/english/news/3326
出典:https://finance.yahoo.com/markets/stocks/articles/tsmc-q2-2026-earnings-record-112109987.html
出典:https://finance.yahoo.com/technology/ai/articles/tsmc-july-2026-revenue-jumps-110802277.html
出典:https://stockanalysis.com/stocks/tsm/
出典:https://www.macrotrends.net/stocks/charts/TSM/taiwan-semiconductor-manufacturing/stock-price-history
