IBMが8月24日(現地時間)、半導体の技術会議Hot Chipsで、メインフレーム向けとしては業界初となるデュアルアーキテクチャ プロセッサを公開しました。次世代のIBM ZとLinuxONEに載る予定のチップで、Arm向けに書かれたLinux環境と、従来のz/OSやIBM Z上のLinuxを同じ筐体で同時に動かせるようになります。2026年4月に発表されたIBMとArmの協業から出てきた、最初の製品レベルの成果です。

1つのコアが2つの命令セットを話す

今回の設計でいちばん変わっているのは、チップの中にArm用のコアとIBM Z用のコアを別々に置いていない点です。異種コアを1枚のダイに同居させる作りは珍しくありませんが、IBMはそれをやめて、1つ1つのコアがArmとIBM Z、あるいはArmとLinuxONEの命令を並行して実行できるようにしました。つまり11基の物理コアがすべて2つの言語を話し、投げ込まれた仕事に応じて使い分けます。

この作り方であれば、Armのワークロードだけが隔離された一角に押し込められることはありません。ハードウェアレベルの障害検出と自動復旧、高度な暗号化、鍵の安全な管理、トランザクション処理向けのAIアクセラレーションといった、IBM Zが売りにしてきた性質をArm側の処理もそのまま受け取れる、というのがIBMの説明です。IBM ZとLinuxONEは数百コア規模、メモリは数十テラバイト規模まで伸ばせるため、そこにArmの実行環境が丸ごと乗る計算になります。

2nmで11コア、5.7GHz超

シリコンの仕様も公表されています。製造は2nm世代のプロセスで、高性能コアを11基搭載し、動作周波数は5.7GHzを超えます。汎用サーバー向けCPUがコア数を増やす方向に振れているのに対し、こちらは1コアあたりの速度を優先する古典的なメインフレームらしい構成です。

演算コア以外の作りも用途がはっきりしています。取引処理の最中に不正検知を走らせるためのAI推論アクセラレーター、入出力の負荷を肩代わりする専用のデータ処理ユニットをチップ上に載せ、企業システムの重い処理を支える大容量のキャッシュ構成を組み合わせています。金融や保険の勘定系のように、1件ごとの応答時間と止まらないことが同時に求められる領域を狙った配置と言えます。

2,200万人の開発者を呼び込む

IBMがArmを取り込む理由は、ソフトウェアの側にあります。Armのエコシステムには世界で2,200万人を超える開発者がいて、クラウドからエッジまで幅広いアプリケーションが動いています。ここ数年はクラウドネイティブのミドルウェアやAI関連のツールチェーンがArm対応を当たり前に進めてきたため、Armで動くことが最新のソフトウェアに触れる条件になりつつあります。

一方でメインフレームは、銀行の取引や保険の契約管理、政府系のシステムといった、簡単に載せ替えられない業務を抱え続けています。この2つの世界は長らく別々に運用されてきました。同じコアの上でArm由来のソフトウェアと既存の基幹業務が並走できれば、企業は基盤を捨てずにアプリケーションの近代化を進められます。IBMが狙っているのは、この乗り換えコストの引き下げです。

両社の言い分

IBM Systems Developmentで最高技術責任者を務めるChristian Jacobi氏は、アプリケーション資産の近代化とAIの業務組み込みが同時に進むなかで、企業には選択肢を広げるインフラが必要だと述べています。Armをネイティブに取り込むことは、IBM ZとLinuxONEにとって大きなアーキテクチャ上の前進であり、成長の速いソフトウェアエコシステムへのアクセスと、これまでの信頼性を両立させる試みだという位置づけです。

ArmでクラウドAI部門のエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるMohamed Awad氏は、AIの拡大に伴ってコンピューティングがArmへ寄ってきていると指摘しました。規制の厳しい業界で重い処理を担うIBM ZとLinuxONEにArmの計算基盤とソフトウェア資産を持ち込むことで、ミッションクリティカルな領域にもAIの展開先が広がるとしています。

なお、この発表はチップの設計方針を示したもので、搭載製品の時期や価格は明らかにされていません。IBM自身も、将来の方向性に関する記述は予告なく変更されうる目標であると注記しています。

まとめ

異なる命令セットを1つのコアで同時に実行するという発想は、メインフレームの世界ではかなり大胆な部類に入ります。2nm・11コア・5.7GHz超という数字よりも、Armの開発者資産を基幹システムの内側へ引き込むという狙いのほうが、この発表の重心です。実機がいつ、どの構成で出てくるかは今後の発表を待つことになりますが、企業システムの近代化の進め方に、選択肢が1つ増えたことは確かです。