ASMLと台湾積体電路製造(TSMC)が、EUV(極端紫外線)露光で使うフォトマスクを現行の6インチから12インチへ広げる業界横断の取り組みを立ち上げました。2031年に12インチマスクの試作ラインを構築し、2033年には先端ノードの量産に投入できるリソグラフィ装置を整えるという計画です。狙いは、High NA EUVの導入で半分に縮んでしまった露光野の制約を外すことにあります。
半分になった露光野という宿題
High NA EUVは、開口数を従来の0.33から0.55へ引き上げた次世代の露光技術です。解像度は上がるのですが、そのために採用されたアナモルフィック光学系が厄介な副作用を持ち込みました。縦方向と横方向で縮小倍率が異なるため、マスクの大きさが6インチのままだと、ウェハー上に一度に焼ける範囲が最大26×16.5ミリメートルにとどまります。従来の26×33ミリメートルのちょうど半分です。
半分に収まらない大きなダイを作りたいときは、2つの半分の露光野に分けて焼き、境目をつなぐことになります。ステッチングと呼ばれる手法で、実際に成立することは検証済みですが、設計・OPC(光近接効果補正)・マスク・装置の全部が絡む面倒な工程です。露光回数も増えるので、装置の生産性はそのぶん落ちます。AI向けの巨大なチップほどこの制約に当たりやすい、という点が話をややこしくしていました。
マスクを大きくすれば元に戻る
12インチマスクへの移行は、この宿題を光学系ではなく材料側から解こうという発想です。マスクが大きくなれば、アナモルフィック光学系のままでも従来並みの露光野を確保できます。ステッチングが不要になり、露光回数が減るぶんスキャナーの生産性が上がり、チップの製造コストも下がる、というのがASMLとTSMCの説明です。
ASMLのクリストフ・フーケ社長兼CEOは、High NA EUVの採用はまず現行の6インチマスクで始まり、その後12インチマスクが支えることでスキャナーの生産性が高まる、という順序を示しています。TSMCの魏哲家(C.C. Wei)会長兼CEOは、業界が一緒に複雑な問題を解けば単独では届かない可能性が開ける、と述べました。
もっとも、マスクブランクもペリクルも検査装置も描画装置も、6インチを前提に作られてきた資産です。単に大きくすればいいという話ではなく、サプライチェーンをまるごと作り替える必要があります。今回わざわざ業界連携という形を取ったのは、そこが1社では動かせない領域だからです。
2031年に試作ライン、2033年に量産へ
工程表は2つの節目で区切られています。2031年までに12インチマスクの試作ラインを立ち上げること。そして2033年までに、先端ノードの量産に投入できる12インチ対応のリソグラフィ装置を整えることです。
TSMC自身は、2030年から先端ノードの量産でASMLのHigh NA技術を使う意向を示しています。つまり最初の数年は6インチマスクで走り、そこへ12インチが後から合流する形になります。TSMCは、AI向けに複雑さを増すトランジスタ構造が主因となって、High NA EUVを必要とする層の数が今後増えていくと見ています。
3年先行していたIntelと、そろい始めた足並み
大判マスクという発想自体は新しいものではありません。Intel Foundryは、大判マスクに向けた取り組みを3年以上にわたって単独で進めてきたことを明らかにしています。同社はHigh NA EUVで処理したウェハーが100万枚を超えたとも公表しており、この分野では実装量で先行してきました。今回の連携は、その主張に業界全体が追いついた格好です。
発表は2026年9月8日付で、両社は前日の9月7日、カリフォルニア州モントレーで開かれるSPIE BACUSカンファレンスに先立って関係者を集めています。SAMSUNGも参加の意向を表明しており、High NA EUVの採用企業やマスク関連の主要サプライヤーからも参加への関心が示されました。露光装置を1社が独占的に供給する構造のなかで、周辺の規格まで含めて足並みをそろえる動きが具体化した形です。
まとめ
High NA EUVは解像度と引き換えに露光野を半分にしてしまい、その穴埋めにステッチングという手間を強いてきました。12インチマスクは、この構造的な制約を素直に解消する案です。試作ラインが2031年、量産装置が2033年という工程表は、先端ノードの投資判断としてはかなり先の話ですが、それだけマスクの規格変更が重い作業だということでもあります。TSMCが2030年にHigh NAの量産を始め、その数年後に12インチが合流する。この2段構えが計画通り進むかどうかが、2030年代前半の微細化のペースを左右しそうです。
