Intelの最高経営責任者(CEO)リップブー・タン氏が、ポッドキャスト番組でメモリ事業への関心をあらためて口にしました。1985年にDRAMから撤退した会社の発言としては、なかなか重い一言です。しかも同社の周辺では、XBMという新方式の特許、ソフトバンク系企業とのZAM共同開発、元SK hynix CEOの招聘という3つの動きが、2026年前半だけで同時に進んでいます。

※1ドル158円換算

自ら降りた市場に、40年後に戻ろうとしている

Intelは1968年の創業時、メモリしか作っていない会社でした。1969年に世界初の商用SRAMである3101を、翌1970年には初の商用DRAMである1103を送り出しています。今でこそCPUの会社ですが、出自はメモリメーカーです。

流れが変わったのは1980年代前半です。日本のメーカーが圧倒的な量産力で押し寄せ、DRAM価格は下がり続けました。採算が合わなくなったIntelは1985年に撤退を決めます。この判断は長らく、コモディティから逃げてマイクロプロセッサに資源を集中させた正しい選択として語られてきました。経営学の教材にまでなった、有名な撤退劇です。

AIがメモリを「戦略物資」に変えてしまった

その前提が、AIによって崩れました。AIアクセラレータが要求する帯域は跳ね上がり、広帯域メモリ(HBM)はあらゆるAIチップのボトルネックになっています。HBMはDRAMのビット出荷量で見れば約8パーセントにすぎませんが、DRAMの売上高では約30パーセントを稼ぎ出す存在です。供給はSK hynix、Samsung、Micronの3社にほぼ握られています。

価格の見通しも穏やかではありません。Gartnerは、DRAMとSSDの価格が2026年末までに130パーセント上昇すると予測しています。タン氏自身、2026年2月の時点で、主要なメモリメーカーから2028年まで供給は緩まないと聞かされていると語っていました。メモリはもう、安く買ってきて基板に載せる部品ではなくなっています。

XBM:シリコンインターポーザーを丸ごと捨てる

Intelが2024年12月26日に出願し、2026年7月2日に公開された特許が描くのが、クロスバッチメモリ(XBM)と呼ばれる構造です。

従来のHBMは、シリコンインターポーザーの上にDRAMダイを積み、1,024ビットという極端に広い並列インターフェースでプロセッサとやり取りします。XBMはこのインターポーザーそのものを使いません。DRAMセルを、トランジスタ層の上にある配線層(BEOL)に薄膜トランジスタとして作り込み、データはUCIeのシリアルリンク(32GT/s)で運びます。1ダイあたりの容量は約1.5GBで、8層積めば12GB、最大16層まで伸ばせる設計です。積層の歩留まりに効いてくる自己修復機構(BISR)と予備チャネルも、最初から織り込まれています。

インターポーザーとマイクロバンプ接合という、HBMのコストを押し上げてきた要素を設計段階で外しにいっている点が、この方式の狙いどころです。ただし実用化のめどは2030年以降とされており、まだ特許の段階です。

ZAM:ソフトバンク傘下のSAIMEMORYと9層を貼り合わせる

もう1本の線がZAM(Z-Angle Memory)です。Intelは2026年2月2日、ソフトバンク子会社のSAIMEMORYと協業契約を結びました。

ZAMはフュージョンボンディングでDRAMを9層積み上げ、層と層の間のシリコンを約3マイクロメートルまで薄くしてTSVの抵抗を下げる方式です。VLSIシンポジウム2026で示されたデータでは、帯域密度は約0.25Tb/s/mm²、10GBモジュール換算で約5.3TB/sに達します。HBM4の1スタックあたり約2TB/sと比べれば、倍以上の数字です。データ移動あたりの消費電力も1ビットあたり0.7ピコジュールを下回るとされています。

こちらには経済産業省が最大38億円の補助を出しており、試作は2027年度、実用化は2029年度が目標です。XBMより現実的なタイムラインではありますが、それでも数年先の話になります。

人と資金は、すでに動いている

面白いのは人事です。Intelは2026年6月18日、イ・ソクヒ氏をIntel Foundryのエグゼクティブバイスプレジデントに迎えました。同氏は2000年から2010年までIntelでプロセス統合を担当した後、SK hynixのCEOとしてHBM開発を率いた人物です。そして2020年、Intelから90億ドル(約1兆4,000億円)でNAND事業を買い取った側の当事者でもあります。売った相手の責任者が、20年ぶりに戻ってきた形です。

資金面では、Intelが2026年8月10日、当初150億ドル規模で計画していた増資を200億ドル(約3兆2,000億円)に積み増し、1株95ドルで価格を決定しました。純調達額は約197億ドルです。使途は設備投資や運転資金を含む一般的な事業目的とされており、メモリに使うとは明示されていません。ただ、タン氏のメモリ発言が公開されたのは、この増資が完了した8月12日でした。

3度の撤退を、4度目にしないために

Intelがメモリで痛い目を見たのは1985年だけではありません。1990年代後半にはRambusのRDRAMに賭けて2001年に手を引き、Micronと組んだ3D XPointをOptaneとして2017年に投入したものの2022年に終了しています。Optaneだけで2016年から2020年の累積損失は約68億ドル(約1兆700億円)に上りました。NAND事業もSK hynixに売却済みです。

今回が過去3回と違うのは、既存のDRAMやNANDを量産して価格で殴り合う話ではない点です。XBMもZAMも、HBMのコスト構造そのものを組み替える提案であり、既存の土俵に上がるというより土俵の形を変えにいく動きに見えます。

とはいえ、特許は製品ではありません。ZAMの試作が2027年度、XBMの実用化が2030年以降という間に、HBM4EやHBM5が出てきますし、SK hynixとSamsungも黙ってはいないはずです。AIアクセラレータのエコシステムがHBM前提で最適化されている以上、別方式へ移るには業界全体の足並みも要ります。タン氏自身、これがIntelの正式な戦略なのか個人的な関心なのかを明言せず、まだ広げる準備はできていないと述べるにとどめました。

まとめ

DRAMを生んだ会社が、撤退から40年たってその領域を再検討しています。XBMはインターポーザーを、ZAMは積層の接合方法を、それぞれ根っこから作り替える提案です。特許と共同開発と人事と資金が同じ半年に並んだこと自体は、単なる思いつきではないことを示しています。ただし試作が2027年度、実用化が2029年度から2030年以降という距離感も同時に示されました。3度目の挑戦になるのか4度目の撤退になるのかは、今後2年ほどの具体的な投資判断で見えてくるはずです。