GoogleとNVIDIA、電力管理ソフトを手がけるEmerald AIの3社は米国時間9月16日、AIデータセンターの電力の使い方を柔軟にするための業界団体「AI Energy Management Alliance(AEMA)」を設立したと発表しました。送電網が逼迫する時間帯にデータセンターが自ら消費電力を絞ることで、新しい発電所や送電線の完成を待たずに接続を早め、既存の送電網に眠る容量を引き出すのが狙いです。発足時点でAnthropicや電力大手のNational Grid、AES、NRGなど18社が参加しています。
「電力の良き市民」になれば接続を早める
米国ではAI向けデータセンターの建設が急増する一方、送電網への接続待ちが最大の障害になっています。送電網は1年でもっとも需要が高い瞬間に合わせて設計されており、平均で見ると容量の半分ほどしか使われていません。それでもデータセンターは24時間一定の大電力を求めるため、電力会社は発電所や変電設備の増強を前提に接続を検討せざるを得ず、新設のデータセンターが接続まで10年以上待たされる例もあるといいます。
AEMAが掲げるのは、データセンター側が年間で100時間に満たない「送電網がもっとも苦しい時間帯」に消費電力を落とせば、その見返りとして接続を速く、より大きな規模で認めるべきだという考え方です。Emerald AIのVarun Sivaram CEOは、AIデータセンターが送電網の「良き市民」として振る舞うことで、米国の既存の送電網だけで新たに100GW分の柔軟なデータセンターを受け入れられると説明しています。Googleでエネルギー市場の革新を担当するTyler Norris氏も、従来の設備増強では5年から7年以上かかるところを、演算負荷の調整や蓄電池、自家発電を組み合わせて短縮できるとしています。
団体は特定の技術に肩入れしない「技術中立」の立場を取ります。データセンターと同じ敷地に置く発電設備、蓄電池、計算処理そのものを遅らせたり別拠点へ移したりする計算負荷の柔軟化など、送電網の需要に応えられる手段であれば手法を問わず評価する方針です。NVIDIAで持続可能性部門を率いるJosh Parker氏は、測定可能な送電網の信頼性指標に基づく性能ベースの基準を訴えていくと述べています。
Googleはすでに約1GWのデマンドレスポンスを運用
参加各社にはすでに実績があります。Googleは米国内の複数の電力会社との長期契約に、需要が高い時間帯に消費を抑えるデマンドレスポンスを組み込んでおり、その規模は合計で約1GWに達しています。2024年にオマハ公共電力局(Omaha Public Power District)と行った実証を皮切りに、Indiana Michigan PowerやTennessee Valley Authorityと契約を結び、2026年3月にはEntergy Arkansas、Minnesota Power、DTE Energyとも同様の契約を結んだことを明らかにしています。Norris氏はAEMAの初代理事会議長も務めます。
Googleは発足に合わせて2本の報告書も公開しました。1本は調査会社The Brattle Groupによるもので、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)が示した方向性を実際の運用に落とし込むための技術的な設計図と位置づけられています。もう1本はAurora Energy Researchによるもので、テキサス州の送電網(ERCOT)で柔軟なデータセンターと系統側の電源を組み合わせた場合の効果を試算した内容です。
Emerald AIは、電力会社からの要請をデータセンターに取り次ぎ、緊急性の低い処理を一時停止したり、余裕のある別のデータセンターへ負荷を移したりするソフトウェアを開発しています。従来のデマンドレスポンスではディーゼルの非常用発電機に切り替えるのが一般的でしたが、それを使わずに済ませる仕組みです。NVIDIAとの間で6件の実証を終えており、2026年内にはバージニア州でNVIDIA、Digital Realtyと共同で約100MW規模の「電力柔軟型AIファクトリー」を稼働させる計画です。同社は2026年8月、Energize CapitalとDCVCが主導するシリーズAで1億5,000万ドル(約230億円)を調達し、評価額は10億5,000万ドル(約1,640億円)に達しています。
規制側もすでに動き出している
AEMAの事務局長には電力業界での経験が長いFrank Lacey氏が就きます。団体としては、2014年に設立された「Advanced Energy Management Alliance」を発展させた組織という位置づけで、州政府と連邦政府の双方に対して、柔軟性を約束するデータセンターへ優先的に接続を認めるよう働きかけていく方針です。
規制当局側の動きも進んでいます。FERCは2026年6月、管轄する6つの地域送電機関(RTO/ISO)に対し、大口需要家の接続手続きが妥当だといえる理由を示すか、見直すよう求める命令を出しました。各命令では、柔軟に消費を調整できる大口需要家に合わせた送電サービスの選択肢が用意されていない点が問題として挙げられています。テキサス州のERCOTは制御可能なデータセンターを早期に接続するための規則を詰めており、カリフォルニア州の市営電力会社Silicon Valley Powerは柔軟な負荷を前提とした接続プログラムを全米で初めて始めています。
一方で、こうした仕組みが電力問題をすべて解決するわけではありません。Emerald AIのチーフサイエンティストであるAyse Coskun氏は、柔軟化によって新規電源の必要性を減らせるものの、ゼロにはできないと認めています。また、Googleは自社でも同様のツールを開発しており、Enel Xのように無停電電源装置を使って需要のピークを削る手法もあるなど、Emerald AIだけの独壇場ではありません。データセンターの電力需要をどう受け止めるかは、日本でも避けて通れない課題であり、送電網の増強を待つだけでなく「使い方を変える」というこの発想は、国内の議論にも示唆を与えるものだと思います。
まとめ
GoogleとNVIDIA、Emerald AIが設立したAEMAは、AIデータセンターが送電網の逼迫時に消費電力を絞る代わりに接続を早めてもらうという取引を、政策と標準の両面から後押しする団体です。Anthropicや電力大手を含む18社が発足時に参加し、Googleは約1GWのデマンドレスポンス実績を持ち込みました。既存の送電網の空き容量を100GW分引き出せるという主張が実現するかどうかは、FERCや各州の規則作りと、実際の運用データの積み重ねにかかっています。
※為替レート(2026年9月17日時点):1米ドル=156円
※サムネイル画像はAI生成のイメージです
