Salesforceが9月11日、職務ごとに作り込んだAIエージェント7種を「Agentforce」に追加しました。顧客対応や人事、購買、供給網といった担当領域があらかじめ決まっていて、導入企業は自社の名前を付けて使えます。あわせて、数日から数週間かけてひとつの目標を追い続ける新しい実行基盤も投入されました。
「職務」を決め打ちしたエージェントを7種類
これまでのエージェント導入は、まず土台を用意して、そこに自社の手順やデータを流し込むところから始めるのが一般的でした。今回発表された7種類は、その工程を前倒しして、担当する仕事に必要なスキルとアクション、データモデルを最初から持たせてあります。いずれもCustomer 360につながっているため、すでにSalesforce内にある顧客情報や業務プロセスをそのまま使えるという立て付けです。
内訳は次のとおりです。Caseyは音声、SMS、WhatsApp、ウェブチャットをまたいで問い合わせに答えるヘルプ担当で、よくある質問や返品、アカウント管理への対応があらかじめ組み込まれています。PaigeはSlackや社内ポータルで情報システムと人事の依頼をさばく社内向け担当、Carterは商品の比較検討からチャット内決済までを引き受ける購買担当です。
Hunterは調査から接触までを数週間から数か月かけて進める外勤営業担当で、こちらは現時点ではパイロット提供、一般提供は11月を予定しています。Marshallは供給網と間接業務を対象に、手作業を決定論的な実行に置き換えつつ全操作の監査記録を残します。Piperはウェブサイトや問い合わせメールから見込み客を拾い上げる内勤担当、Finは複雑な顧客体験の業務フローを扱う担当で、顧客オペレーション向けのOperatorと専用モデル群Fin Apexが土台になっています。Hunter以外の6種類はすでに一般提供されています。
導入企業には、エージェントに自社で決めた名前を付けて自社のブランドの一部として扱える余地も残されています。挙動の制御にはオープンソースのAgent Scriptが使え、AIの推論と決まりきったルールを組み合わせて、どこまで自分で判断させ、どこから人に確認させるかを細かく線引きできます。
会話1回では終わらない仕事を追いかける
今回の発表でもう一段深いのは、長期実行ランタイムと呼ばれる新しい実行基盤です。営業が案件を落とすまでの数週間のように、1回のやり取りでは片付かない仕事を対象にしています。
Salesforceが挙げている例は、四半期末までに失注しかけている案件を立て直してほしい、という指示です。Hunterはこれを測定可能な目標に置き換え、計画を組み、必要な作業と道具、そして自律的に動いてよい範囲と承認を求める範囲の線引きを決めたうえで着手します。途中で新しい情報が入れば計画を組み替えますが、主導権は営業担当の側に残ります。
これを支えているのが3つの仕組みです。セッションをまたいで文脈と進捗を保つメモリ、時間をまたいで計画を走らせ続け、状況が変われば再開や軌道修正を行う持続的実行、そして利用者ごとのフィードバックで振る舞いを調整する動的ステアリングです。現時点でこのランタイム上で動くのはHunterだけで、今後ほかのエージェントにも広げ、利用企業が自分で長期実行型を作れるようにする計画だとされています。
教える、束ねる、直す
プラットフォーム側の機能も3点更新されました。Agentforce CoworkerのAI Skillsは、社員が一度手本を見せた作業のやり方をそのまま横展開する仕組みで、パイロット提供中、一般提供は10月を予定しています。Multi-Agent Orchestrationは、役割や部署をまたぐ仕事が来たときに複数のエージェントへ処理を振り分け、ひとつのチームのように動かす機能で、こちらはすでに一般提供中です。
もうひとつのAgent Optimizerは、エージェントやサブエージェント、アクションの設計と調整、性能試験、セッションの実行履歴の分析までを担当します。エージェントの面倒をエージェントが見るという構図で、一般提供は10月の予定です。
すでに出ている数字
発表では導入企業の実績も並んでいます。Engineではヘルプ担当のEvaがチャット問い合わせの50パーセントを完結させ、Perkでは営業パイプラインの60パーセントをHunterが作っています。Autism Queenslandでは事務処理の依頼の70パーセントをPaigeが処理し、Hibbett AIは主要な購買動線の90パーセントを引き受けるところまで6週間で立ち上がりました。
Asanaではウェブサイト担当のPiperによって会話量が4倍になり、Piperの導入期間は平均45日だとされています。AnthropicではFinが受けた会話の79パーセントが自律的に解決しているという数字も出ています。土台となる利用規模としては、過去2年間でAgentforceとSlackを通じて70億件のエージェント作業単位が処理され、うち32億件は直近四半期に集中したと説明されています。
数字の読み方と、残る論点
並んだ数値はいずれもSalesforceが導入企業から集めた自己申告です。たとえば50パーセントを完結させたという表現は、残る半分がどう扱われたのか、難しい問い合わせが人に回っているのか、それとも取りこぼしになっているのかまでは教えてくれません。導入検討の場面では、完結率と同時に、人に回った案件の処理時間がどう変わったかを見るほうが実態に近づけます。
11月や10月の提供開始が並んでいる点も押さえておきたいところです。発表資料そのものに、開発中で未提供の機能への言及を含む可能性があり、購入判断は現在利用できる機能を基準にしてほしいという注記が添えられています。長期実行ランタイムは構想としては筋が通っていますが、数週間にわたって計画を保持し続ける仕組みが実際の業務でどこまで安定するかは、利用企業の運用報告が出てきてから判断する話でしょう。
それでも、エージェントを土台から組む時代から、職務の輪郭が決まった状態で受け取って自社に合わせ込む時代へ、重心が移りつつあるのは確かです。導入のハードルが下がるほど、自社のどの業務を切り出して任せるかという設計の問題が前に出てきます。
まとめ
Salesforceは9月11日、顧客対応から供給網までを担当する7種類のAIエージェントをAgentforceに追加しました。Hunter以外の6種類はすでに一般提供され、Hunterはパイロットを経て11月に一般提供される予定です。数日から数週間の目標を追い続ける長期実行ランタイム、作業を教え込むAI Skills、複数エージェントを束ねるMulti-Agent Orchestrationも同時に打ち出され、エージェントを作る段階から、職務に合わせて選んで運用する段階へと軸足を移した発表になっています。
※サムネイル画像はAI生成のイメージです
