AI開発企業のAnthropicは、コンゴ民主共和国(DRC)で拡大が続くエボラ出血熱の一種、ブンディブギョウイルス(BDBV)への対応において、自社のAIモデルClaudeが現地保健当局や国際機関を支援していると発表しました。感染者数の集計や検査データの整理、感染経路の解析、ワクチン候補の比較検討など、複数の業務を同時に支えているといいます。
1日仕事だった集計作業に追われる現場
DRCでは2026年5月にBDBVの感染拡大が確認され、同月17日には緊急事態が宣言されました。感染は7つの州、167ある保健区のうち63区に広がっており、確認された感染者数は8,000人に迫る規模に達しています。致死率はおよそ48パーセントと高く、症状が重くなる前にいかに早く感染者を見つけ、隔離や治療につなげられるかが生存率を大きく左右する状況です。北キブ州では治療センターの病床占有率が94.7パーセントに達するなど、現場の逼迫も伝えられています。
感染者の情報は、家庭を一軒ずつ訪ねる地域保健員のメモから始まり、WhatsAppで保健施設から郡へ、郡からは集計結果がPowerPointの資料にまとめられて対策本部へ、さらに州の保健当局へと引き継がれていきます。この受け渡しの過程が積み重なることで、現場の実情が意思決定者に届くまでに時間がかかることが課題となっていました。Anthropicは、非営利団体CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)、世界保健機関(WHO)アフリカ地域事務局、DRCの国立生物医学研究所(INRB)と連携し、この情報の受け渡しにClaudeを組み込みました。各郡から届くPowerPoint資料から感染者数や検査結果を読み取り、前日の数値と比較して変化があった箇所を洗い出し、郡ごとの報告を要約する作業をClaudeが担うことで、丸1日がかりだった状況報告書の作成が1時間未満で終えられるようになったとしています。
Claudeが担う4つの支援
Anthropicによれば、Claudeは状況報告の自動化以外にも複数の役割を担っています。1つ目は疾病モデリングの支援で、これまで時間の制約から1つしか動かせなかった感染予測モデルを複数同時に走らせられるようになり、治療センターをどこに配置すべきかといった判断材料を増やしています。2つ目はワクチン開発の情報整理で、複数のワクチン候補から寄せられる提案内容を整理し、交差反応性などの比較検討を進めやすくするダッシュボードを構築しました。3つ目は、Claude Scienceを使ったゲノム解析です。断片的な遺伝情報からウイルスのゲノムを組み立て、系統樹を作成することで、新規感染がどこから広がったかの追跡や変異株の特定に役立てています。このほか、DRCで同時に発生しているチクングニア熱の症例一覧(ラインリスト)のデータ整備にも活用されているといいます。
判断を下すのは引き続き人間
Anthropicは、Claudeはあくまで意思決定を支援する立場であり、出力内容の解釈や対応方針の決定は引き続き人間の専門家が担うと強調しています。現地で対応にあたるDRCの専門家であるJean-Jacques Muyembe氏は、感染症対策において重要なのは1週間前ではなく今この瞬間にウイルスがどこにあるかを把握することだと述べています。WHOアフリカ地域事務局のPaul Ouma氏も、これまで時間の制約で1つしか動かせなかった予測モデルを複数並行して動かせるようになったと評価しています。一方で、報告書の作成が速くなったこと自体が健康上の成果の改善を意味するわけではなく、予測モデルの精度そのものが向上したことを示すデータは今のところ示されていません。
まとめ
AnthropicのClaudeは、DRCで拡大するエボラ出血熱への対応において、状況報告の自動化、疾病モデリング、ワクチン開発情報の整理、ゲノム解析という4つの役割を担い、これまで丸1日かかっていた報告書作成を1時間未満に短縮しました。感染症対策の現場でAIが具体的にどこまで役立つのかを示す事例として注目される一方、報告作成の迅速化がそのまま感染拡大の抑制や治療成績の改善につながるかどうかは、今後の検証が必要な段階です。
