Perplexityが2026年8月25日、エージェント基盤「Perplexity Computer」を手元のマシンだけで動かす「Portable Computer」を公開しました。NVIDIAと共同で開発され、まずはデスクトップ型のAIマシンであるNVIDIA DGX Sparkで動きます。モデルも会話履歴も作業の途中経過も端末から出ず、ローカルで処理した分にはクレジットの消費が発生しません。
クラウドに出さないことを既定にした構成
Perplexity Computerは、モデルとファイルとツールとWebアクセスを束ねて複数手順の仕事を片付けるエージェント基盤です。Portable Computerはその一式をまるごと端末側へ持ってきました。オーケストレーター、プランナー、ツールの振り分け、スケジューラー、タスクキュー、ローカル検索インデックスまで、すべてがマシン上で動きます。
外の世界が必要になる場面もあります。最新の情報を取りに行く、ブラウザを操作する、連携アプリを叩く、あるいは手強い判断を強いモデルに任せる。こうした処理はクラウド側へ引き渡されますが、その手前で必ず利用者の許可を求める設計です。何が端末から出ていくのかを画面で示してから送る、という順番になっています。
連携先としてはGoogle Drive、Gmail、Slack、GitHubが挙げられています。Perplexityが例に出すのは、夜のうちにGmailへ届いた不具合報告と照らしてGitHubのIssueを端末内で仕分けし、朝一番に上位3件と担当者案をSlackへ流す、といった使い方です。ローカル優先が孤立を意味するわけではない、という位置づけになります。
音声入力もローカルで完結します。NVIDIAのNemotron 3.5 ASRモデルを使い、書き起こしもファイル操作も端末内で処理するため、機密を含む相談を声で伝えても音声がクラウドへ渡りません。コードやツールの実行はサンドボックス内に隔離され、これはクラウド版と同水準だとしています。
小さいモデルに合わせて足回りを作り直した
技術的に面白いのは、モデルとハーネス(プロンプトやツール群、制御ロジックといったモデルの周りの足回り)を一緒に設計し直した点です。既存の汎用ハーネスは、長い文脈を丸ごと飲み込み、多数のツールを扱い、長い見通しで計画を立てられるフロンティアモデルを前提にしています。端末で動く小さなモデルにその前提を押し付けると、途端に崩れます。
たとえばQwen 3.8 27Bは26万トークンの文脈長を掲げていますが、Perplexityの検証では10万トークンを超えたあたりから振る舞いが怪しくなったといいます。そこでシステムプロンプトを短く保ち、常駐させるツールを絞り、それ以外の能力は必要なときだけ読み込む「スキル」として切り出しました。文脈が伸びてきたら古い部分を要約して畳む仕組みも入っています。
連携アプリの扱い方も変えています。GmailやGitHubのような連携先は通常MCPサーバーとして接続しますが、ツール定義そのものが文脈をかなり食います。Perplexityはよく使うものをコマンドラインツールへ書き直し、文脈の消費を抑えました。加えて、作業の健全性を監視して必要なら自己検証をやり直させるフックを持たせています。
サンドボックスの扱いも徹底していて、隔離環境が使えない場合はツールを非保護のまま動かすのではなく、ハーネス自身を停止させます。既定で利用者の権限のままコマンドを実行するオープンソースのハーネスとは、思想が分かれる部分です。
ベンチマークが示した地力と、残る差
Perplexityは同日に研究ブログも公開し、自社の評価結果を並べています。日常的な知識労働53件で構成する社内ベンチマークでは、同じQwen 3.8 27Bを載せた場合の得点が、自社ハーネスで82.6パーセント、Piで77.6パーセント、Hermesで74.0パーセントでした。使用トークンも52万で最少です。さらにQwen 3.8 27Bを自社ハーネス向けに追加学習したPPLX 27Bに差し替えると、得点は85.4パーセントまで上がります。
Web調査の指標であるBrowseCompの1,266件では66.7パーセントで、Piの50.2パーセント、Hermesの43.9パーセントを引き離しました。PDFやスクリーンショットの読解を測るParseBench-100でも65.1パーセントとなり、Hermesの34.6パーセント、Piの13.9パーセントを上回っています。
一方で、限界もはっきり出ています。難度の高いコーディング課題を集めたTerminal Bench 2.1では、ローカルモデル単体が59.6パーセント。手詰まりのときだけクラウドの強いモデルへ助言を求める仕組みを有効にすると73.0パーセントまで伸びますが、単体で走らせたClaude Opus 5の82.4パーセントには届きませんでした。API費用は助言ありが1回あたり0.415ドル(約66円)、Claude Opus 5単体が0.65ドル(約103円)です。フロンティアとの差のおよそ5分の3を、フロンティアの3分の2ほどの費用で埋める格好です。
※1米ドル=159円換算(2026年8月26日時点)
この数字は自社評価であり、第三者の追試を経たものではありません。ただ、評価に使った53件のベンチマークは公開する予定とされており、モデル学習の詳細をまとめた技術報告も近く出るとしています。
動かせる環境
提供対象はProとMaxの加入者で、対応環境はNVIDIA DGX Sparkです。まずLinux版が出て、Windows対応は追って提供されます。NVIDIA RTX GPUを積んだPCへの展開も予告されており、導入はPerplexityアプリからのワンクリック設定で済みます。
土台となるDGX Sparkは、GB10 Grace Blackwellプラットフォームを採用し、20コアのArm CPUと128GBの統合メモリを備えたデスクトップサイズのAIマシンです。27B級のモデルを常時動かし続ける前提の構成が、家庭やオフィスの机の上に置ける大きさで手に入るようになったことが、今回の話の前提にあります。
モデルの選択肢はQwen 3.8 27BとPPLX 27Bの2つで、30BのオープンモデルであるNVIDIA Nemotron 3.5 Lightningも追加が予告されています。
まとめ
Portable Computerは、ローカルAIを「動くかどうか」の段階から「仕事に使えるかどうか」の段階へ押し上げようとする試みです。小さなモデルの弱点を前提に足回りを組み直し、足りない部分だけ利用者の承認を取ってクラウドへ逃がす。この割り切りによって、機密を抱えた作業を手元に留めたまま進められる範囲が確実に広がりました。コーディングのような難所ではまだフロンティアモデルに水をあけられていますが、端末の性能とオープンモデルの伸び方を見る限り、その差が縮む方向にあることは間違いなさそうです。
