NVIDIAは、デンマーク・コペンハーゲンで開催中の通信業界イベント「TM Forum DTW Ignite 2026」で、通信ネットワークを自律的に運用するためのAIエージェント(自律的に状況を判断して作業を進めるAI)の基盤技術を披露しました[1][2]。ソフトバンクやKDDI、Amdocs、NTTデータなど世界の通信事業者・ベンダーと連携し、合成データ・通信特化モデル・安全な実行環境・シミュレーションという複数の要素を組み合わせて、人が方針を握ったまま運用を任せられる仕組みを目指します[1]。
「自動化」の先にある「自律ネットワーク」
通信事業者はこれまでも、生成AIを使ってネットワーク管理やカスタマーサポート、バックオフィス業務を自動化し、成果を上げてきました[1]。ただし、その多くは決められた手順を速くこなす「作業単位の自動化」にとどまり、得られた知見をつなぎ合わせて次の判断を下す部分は人が担ってきました[1]。
NVIDIAは、自動化はゴールではなく自律化への出発点だと位置づけます[1]。同社が描くのは、AIエージェントが問題を先回りして監視し、ネットワーク・IT・業務システムをまたいで変更を調整する「自律ネットワーク」です[1]。今回の発表は、その実現に必要な構成要素を、TM Forum主催のDTW Ignite 2026で実機とともに示したものです[1]。同イベントは6月23日から25日までコペンハーゲンで開催され、自律ネットワークが主要テーマの1つに掲げられています[2]。
機密データを守りながらAIを鍛える「合成データ」
自律ネットワークの土台になるのは、通信分野を理解する推論モデルです。こうした専門モデルは高品質なデータでの微調整(ファインチューニング)が欠かせませんが、最も価値のあるネットワークや顧客のデータほど機微情報を含み、そのままでは使いにくいという課題があります[1]。NVIDIAによると、事業者の54パーセントがデータ関連の問題を最大の障壁に挙げているといいます[1]。
そこで活用するのが合成データです。実データの構造や分布を再現した擬似的なデータを生成することで、生の顧客記録を露出させずに学習データの量と多様性を増やせます[1]。ソフトバンクは、NVIDIAの「NeMo Safe Synthesizer」や「NeMo Anonymizer」を使い、ネットワーク性能や設定の実データを反映したプライバシー保護型の合成データを生成しています[1]。これを使って自社の大規模通信モデルを微調整し、専用のネットワークエージェントを構築しているとしています[1]。
自律エージェントを安全に動かす実行基盤
通信事業者が一連の業務全体を自律化するには、決められた1つの作業だけでなく、複雑な仕事を最初から最後までやり抜けるエージェントが必要になります[1]。サービス品質保証(SLA)や変更管理のルール、規制の制約を守りながら長時間動き続けられることが鍵です[1]。
NVIDIAは、ブループリント群「NemoClaw」と安全な実行環境「OpenShell」を提供します。これらはエージェントに方針(ポリシー)に基づくガードレールと、通信システムへのサンドボックス化された(隔離された)アクセスを与え、挙動を予測可能で監査可能な状態に保ちます[1]。AdaptKeyはこれらを使い、5Gネットワークを自己修復するセキュリティ強化型の長時間エージェントを事業者と試験しています[1]。Amdocsは、ローミング契約の残量が少ない利用者を見つけて承認済みの選択肢を提案するなど、業務ルールの範囲内で動く能動的なカスタマーサポート用エージェントを示しました[1]。
このほか、NTTデータはNVIDIAのオープンモデル「Nemotron」とNemoClawを組み合わせ、ネットワーク劣化を先回りで検知する長時間エージェントを構築しています[1]。ServiceNowは「Project Arc」を通信向けに展開し、メールやログ、診断情報を横断して障害対応の全工程をこなす自律的なネットワーク運用センター(NOC)エージェントを実現します[1]。Tata Consultancy Services(TCS)は、広く問題を探索しつつ必要に応じて深い診断を呼び出す多段精度の「AIセンサー」構成を開発しています[1]。
シミュレーションで「信頼できる自律」を支える
AIエージェントが運用でより大きな責任を担うほど、実際のネットワークに手を加える前に推奨内容を検証するシミュレーションが重要になります[1]。GPUでシミュレーションを高速化すれば、エージェントは実環境に近い条件で判断を確かめられます[1]。
Forskは、無線伝搬を予測するAIモデルをRAN(無線アクセスネットワーク)計画基盤「Naos」に統合し、NVIDIAの「RTX PRO 6000 Blackwell Server Edition」GPU上でCPUのみの場合と比べ最大200倍の速度を実現したとしています[1]。VIAVI SolutionsもRANシミュレーションをGPUに移すことで処理性能を桁違いに高めました[1]。さらにKDDIとKDDI総合研究所は、NVIDIAやKeysight、Samsung Research Americaと連携し、「NVIDIA Aerial Omniverse Digital Twin」を使った高精度なRANデジタルツイン(現実を再現した仮想環境)を6G時代に向けて構築しています[1]。この環境では、複数の自律エージェントがエリア最適化や将来の電波状況といった「もしも」のシナリオを安全に検証できるようになります[1]。
まとめ
NVIDIAが示したのは、合成データによる安全な学習、方針で守られた実行基盤、そして高速シミュレーションという、自律ネットワークを段階的に組み上げるための部品です。ソフトバンクやKDDI、NTTデータ、Amdocs、ServiceNowといった事業者・ベンダーがそれぞれの現場で実証を進めており、通信運用が「人が手順を回す自動化」から「人が方針を握る自律化」へ移る流れが具体化しつつあります。実ネットワークへの本格適用には安全性と監査性の担保が前提となりますが、その土台づくりが動き始めたといえます。
出典:https://blogs.nvidia.com/blog/telecom-ai-agents-dtw-ignite-2026/
