NVIDIAが、韓国のAIチップ設計会社Rebellionsと提携や出資、場合によっては買収について話し合っていると報じられました。協議は初期段階で、成立するかどうかも決まっていません。ただ、この1年でNVIDIAが繰り返してきた「会社は買わず、技術と人だけを取り込む」やり方を思い出すと、今回の相手選びには一貫した狙いが見えてきます。

会社は残したまま、技術と人だけを引き抜く

報道によれば、NVIDIAのJensen Huang氏は今週、カリフォルニア州サンタクララの本社でRebellionsの共同創業者兼CEOであるSunghyun Park氏と会い、技術提携・出資・買収のいずれかを念頭に置いた話し合いを持ちました。関係者は協議が予備的なもので、取引に至らない可能性もあると説明しています。NVIDIA側はコメントを出しておらず、Rebellionsの担当者も回答を避けました。

注目したいのは、これが同じ形の4件目になるという点です。NVIDIAはこの1年、競合するチップ設計やモデル開発の成果に対して、会社を丸ごと買うのではなく、非独占のライセンス料を払い、技術者を大量に採用し、出資だけして法人はそのまま残す、という組み立てを繰り返してきました。

直近の例がPoolsideです。NVIDIAは同社のモデルファクトリー(AIモデルの開発・運用基盤)に60億ドル(約9,500億円)を支払い、従業員109人を採用することで合意しました。その前にはGroqに対して非独占ライセンスとして200億ドル(約3兆2,000億円)を投じ、エンジニアの多くを引き受けています。NVIDIAはこれを買収ではないと説明しており、実際にGroqはクラウド事業を独立して続けています。同じ発想はライバルにも広がっており、AMDは8月に、モデルを回路として焼き込むスタートアップTaalasを買収しました。

※1ドル159円換算

Rebellionsは「推論専用」の会社

Rebellionsは2020年設立で、ソウル南部の盆唐(ブンダン)に拠点を置いています。手掛けているのはデータセンター向けのNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)で、学習ではなく推論に狙いを絞っているのが特徴です。

推論は、できあがったモデルを実際に動かす側の処理を指します。1回あたりに必要な計算量は学習より小さい一方、利用者の数だけ回数が積み上がるため、総量では学習をはるかに上回ります。ここを安く速く回せるかどうかが、AIサービスの採算に直結する領域です。

同社はSK hynix、Samsung Ventures、Armなどから合計8億5,000万ドル(約1,350億円)ほどを調達しており、韓国政府からの直接出資も受けています。直近の企業価値は23億ドル(約3,700億円)前後とされます。製品はすでに3年前から出荷されており、AtomとAtom Maxが2023年に量産に入り、日本・サウジアラビア・米国の顧客が導入したと報じられています。2024年にはSK Telecomが2016年に切り出したチップ企業Sapeon Koreaと合併し、昨年はソブリンAI向けのハードウェアでMarvellと組みました。

NVIDIA自身が、すでに推論チップを売っている

今回の協議が単なる出資話に見えないのは、NVIDIAがGroqから得たライセンスを自社製品に変えてしまった前例があるからです。3月のGTCで発表されたNVIDIA Groq 3は、まさにその産物であるLPU(言語処理ユニット)で、GPUとは別に毎年新しいアーキテクチャーを投入すると表明しています。出荷は今年後半で、256基のLPUを収めた液冷ラックの形を取り、オンチップメモリーは128GB、スケールアップ帯域は毎秒640TBに達するとされています。

Rebellionsが設計しているのは、まさに同じ土俵の部品です。仮にライセンス方式で話がまとまれば、NVIDIAは推論向けアーキテクチャーを2本目として抱えることになります。

もっとも、この分野の採算についてはNVIDIA自身が慎重な言い方をしています。データセンター事業を率いるIan Buck氏はGTCで、LPUは極端に低い遅延でのトークン生成に特化しており、毎秒数千トークンという速度を出せる一方、その性能を得るには多数のチップが必要で、チップ1基あたりのトークン生成量という意味での経済性はかなり低い、と説明していました。稼ぎ頭のGPUと比べたときの割り切りを、開発元の責任者が認めている格好です。

規制と国策、そして上場という別の道

仮に本格的な買収へ動いた場合、越えるべき壁は2つあります。1つは米国の競争法です。フロンティアモデルの学習に使われるチップでNVIDIAが持つシェアは大きく、規模の大きい技術系買収は司法省の審査を通る必要があります。ライセンスと採用を組み合わせる今の型は、その審査自体を回避できるという実務上の利点があります。

もう1つが韓国側の事情です。ソウルは先端半導体を国家戦略資産として扱っており、SamsungとSK hynixは政府の投資計画と密接に連携しています。そのSK hynixはRebellionsの株主でもあり、同時に企業価値が7カ月で倍増して103億ドル(約1兆6,400億円)になったEtchedにも出資しています。

そしてRebellions自身は、これまで売却ではなく上場を口にしてきました。最高財務責任者のSungkyue Shin氏は1年前、株式公開が同社の基本計画だと語っています。今年3月にはプレIPOと位置づけた資金調達で4億ドル(約640億円)超を集め、あわせてRebelRackとRebelPodというラック単位のプラットフォームを発表しました。上場時期は公表されていません。NVIDIAからのライセンス料は、上場を経ずに現金を手にする道でもあり、それはGroqとPoolsideが選んだ道でもあります。

なお、現時点で確定している事実はほとんどありません。取引の枠組みも金額も出資比率も報じられておらず、両社とも公式の発言をしていません。NVIDIAは今週、中国市場向けの専用LPUを開発しているという別の報道についても、そうした製品はロードマップに存在しないと明確に否定しています。

まとめ

NVIDIAとRebellionsの協議は、AI半導体の主戦場が学習から推論へ移りつつあることと、NVIDIAが競合技術を「買わずに取り込む」型を定着させつつあることの両方を映しています。Rebellionsは推論専用NPUで実績を積み、上場を目指してきた会社です。話がまとまれば4件目の事例になりますが、現時点では枠組みも金額も未定で、規制と韓国の産業政策という不確定要素も残っています。