NVIDIAが、AIコーディング企業Poolsideのモデル開発基盤を60億ドル(約9,500億円)でライセンスし、開発に携わった109人へ入社を打診していることが明らかになりました。あわせてプレマネー評価額120億ドルで10億ドルを出資します。ただし投資家向けの書簡は、これを買収でもアクハイアでもないと説明しています。会社を買わずに技術と人を手に入れる手法が、また一段と大きな金額で使われました。
60億ドルで借りるのは「モデル工場」
ライセンスの対象になるのは、Poolsideが「Model Factory」と呼ぶ仕組みです。同社はこれを使ってコーディング向けモデル「Laguna」を作ってきました。つまりNVIDIAが対価を払う相手は、できあがったモデルそのものではなく、モデルを作る側の設備一式ということになります。契約は非独占で、Poolside側が引き続き自社で使える形です。
加えてNVIDIAは、プレマネー評価額120億ドル(約1兆9,000億円)でPoolsideに10億ドル(約1,590億円)を出資します。Lagunaの開発に関わっていた109人には、NVIDIAから雇用のオファーが出ています。一方で3人の共同創業者は残留し、Poolsideは会社として存続します。
※1ドル=159円換算(2026年8月21日時点)
「買収ではない」と念を押す書簡
この件は、投資家向けの書簡をNewcomerが報じたことで表に出ました。書簡は今回の取引について、買収ではなく、アクハイア(人材の獲得を主目的にした買収)でもないと明言しています。
わざわざ否定するのには理由があります。会社ごと買えば競争当局の審査が待っています。ところが、技術はライセンス、人は個別採用、資本は少数出資という3つに分解すれば、法人格そのものは動きません。受け取る側にとって実質的に手に入るものはあまり変わらないのに、通さなければならない手続きだけが軽くなります。
Poolsideは受け取る60億ドルを、2027年末までに投資家へ分配する計画です。上場も売却もせずに株主へ資金が戻る形になります。
Groq、Enfabricaに続く3例目
NVIDIAがこの形を使うのは初めてではありません。AI推論チップのGroqとは約200億ドル(約3兆1,800億円)、ネットワーク半導体のEnfabricaとは9億ドル超(約1,400億円)で、いずれも技術のライセンスと人材の受け入れを組み合わせた取引をまとめています。今回のPoolsideで3例目です。
金額の並びを見ると、GPUの販売で積み上がった手元資金が、そのまま「買わずに手に入れる」ための原資に回っていることが分かります。半導体の会社が、チップの外側にある部分を現金で押さえにいっている、と言い換えてもいいでしょう。
自社モデルが顧客と同じ土俵に並ぶ
もう一つ見ておきたいのは、NVIDIAがオープンなAIモデル「Nemotron」を自前で開発しているという点です。モデルを作るための基盤を外から取り込む動きは、この路線を太くするためのものと読むのが自然でしょう。
ただし、そうなるとNVIDIAは自社のGPUを買っている企業と同じ土俵に並ぶことになります。チップを売る立場でありながら、その上で動くモデルでも競うという構図です。顧客との距離をどう取るのかは、これから問われる部分になりそうです。
コーディング向けモデルは、AIの用途のなかでも投じた費用が成果に直結しやすい領域として扱われてきました。そこに強い開発基盤を持ち込めるかどうかは、GPUを売り続けるための材料にもなります。今回の60億ドルは、その材料をまとめて買うための値付けだったと見ることもできます。
まとめ
NVIDIAはPoolsideに60億ドルを支払ってモデル開発基盤をライセンスし、開発チームの109人へ入社を打診、さらに10億ドルを出資します。会社は買わず、技術と人と資本だけを引き受ける形です。Groq、Enfabricaに続く3例目で、AI分野における「買わない買収」がすでに定型の手法になりつつあることを示しています。
