NVIDIAとPalantirが9月10日、重要な供給網を対象にしたソブリンAIの取り組みを公開しました。最初の適用先はNVIDIA自身の製造現場で、どの拠点にどの部材を回すかという週ごとの判断を、最適化ソルバーと自社開発の言語モデルが支える構成です。事後学習したモデルの配分判断の正答率は86.7パーセントに達したと報告されています。

ラック1台に130万点という前提

出発点にあるのは、AIインフラの部品点数です。NVIDIAのVera Rubinラックは1台あたり130万点の部品で構成されます。現行のGB200 NVL72で見ると、コンピュートトレイ1枚にGrace CPUが2基、Blackwell GPUが4基、HBM3eのスタックが32個必要で、Vera Rubin世代の供給網はその倍の規模になります。数千のサプライヤーと世界中の製造委託先が関わるため、ある拠点に部材を1つ多く回す判断が、別の拠点の完成時期を押し下げるという関係が常に成り立ちます。

Palantirの共同創業者兼CEOであるAlex Karp氏は、NVIDIAが世界で最も価値が高く、入り組んだ供給網を持つと述べています。NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏も、供給網は物理経済のオペレーティングシステムであり、AIファクトリーは人類が築いた中でも最も複雑なシステムのひとつだという言い方をしています。

最小化する対象は「保有時間」

今回の設計で興味深いのは、最適化の目標に置かれた指標です。Time of Ownership、日本語にすれば保有時間と呼ばれる値で、製造拠点が資材を受け取った瞬間から、それがサブアセンブリや製品の一部として出ていくまでの長さを指します。在庫が現場に滞留している時間そのものを縮めにいく考え方です。

この指標は2つの区間に分かれます。シリコンが組み上がったシステムになるまでのtime-to-rackと、設置されたインフラが実際に処理を返し始めるまでのtime-to-tokenです。前者だけを詰めても、後者が延びれば投資は回収できません。両方を1本の軸で見る枠組みにしたところが、単なる生産管理の効率化と違う部分です。

実際の計算はNVIDIA cuOptが担当します。週次で混合整数線形計画として保有時間の最小化を解き、数千の変数と制約を処理したうえで、いまどの制約が全体の足を引っ張っているのかを示します。プランナーは、その制約を動かすと何がどう変わるのかを試しながら配分案を詰められます。

人の判断の中身をモデルに写し取る

ところが、数理最適化だけでは現場の判断に届きませんでした。NVIDIAの整理によれば、熟練したプランナーは一貫して定量モデルを上回っており、その差を生んでいたのは、サプライヤーとの通話記録、担当者同士のメールのやり取り、各地域の気象予報、地政学的な出来事といった、表に入らない情報でした。数字の外側にある文脈を読んでいたわけです。

そこで組まれたのが、Palantir Ontologyで業務上の文脈を構造化し、その上で言語モデルに推奨案を作らせるという流れです。学習はNeMoのツール群で進められています。NeMo Anonymizerで個人情報を落とし、NeMo Data Designerで想定される状況の合成データを増やし、NeMo AutoModelを使ってLoRAによる教師ありファインチューニングを行いました。学習に使ったのはB200が2基で、所要時間は数分と説明されています。

成果として示されたのが冒頭の数字です。事後学習したNemotron 3.5 Lightningは、総パラメータ300億のうち1回の推論で30億が動く構成で、配分判断の正答率86.7パーセントを記録しました。比較対象として挙げられたNemotron 3 Ultraは55.5パーセント、ファインチューニング前のベースモデルは17.5パーセントです。バランス精度は58.6パーセント、マクロF1は57.5パーセントでした。推奨は過去時点でのバックテストにかけられ、実際の判断と照らし合わせて検証されています。

決めるのは人、学ぶのは仕組み

運用の形も明確に線が引かれています。Ontologyが文脈を渡し、cuOptが定量的な最適解を出し、Nemotronが理由付きの推奨を組み立てます。そのうえで最終的な配分を決めるのは人間のプランナーで、下された判断と結果はOntologyに戻され、次の学習サイクルの材料になります。

エージェントに意思決定そのものを明け渡さず、判断の材料を揃える工程を機械に寄せる構成だと言えます。供給網のように一度の誤りが数週間単位で響く領域では、この線の引き方は現実的です。同時に、人の判断が学習データとして回収され続けるため、属人的だったノウハウが組織の資産として残っていくという副次的な効果もあります。

手元に置ける形で配る

提供形態も、この分野では見落とせない要素です。今回のスタックはPalantirのSovereign AI Operating System Reference Architecture、略してSAIOSに沿って構成され、オンプレミス、クラウド、コロケーションのいずれにも即座に展開できるとされています。インフラ側ではDell Technologies、Cisco、Rackspace、Nebiusが名を連ねています。

供給網のデータは、取引条件や生産能力といった競争上きわめて重い情報の集まりです。外部のマネージドサービスに丸ごと預けにくいからこそ、これまでこの領域のAI活用は表計算と経験則の延長に留まりがちでした。自前の環境に置ける前提で組まれている点は、他社が同じ発想を持ち込む際にも効いてくるはずです。

もっとも、示された正答率は実験環境での測定値であり、部材の供給が実際に途絶えた局面でどこまで持つかは別の話です。合成データで補った学習が、過去に例のない事態にどこまで耐えるのかという論点も残ります。最初の適用先が自社だという点は、その検証をまず自分で引き受けるという意味でもあります。

まとめ

NVIDIAとPalantirは、供給網の部材配分を対象にしたソブリンAIのスタックを9月10日に公開しました。cuOptが保有時間の最小化を週次で解き、事後学習したNemotron 3.5 Lightningが正答率86.7パーセントで推奨を組み立て、最終判断は人間のプランナーが下します。130万点の部品を抱えるVera Rubin世代を前に、熟練者の判断を機械が読める形に置き換えていく取り組みとして注目されます。