自社でAIチップを設計するハイパースケーラーが増えていますが、チップが完成しても、それを収める工場のような設備がなければ性能は出ません。NVIDIAは自社ブログで、独自アクセラレータであるXPUをNVIDIAのラック規模インフラに接続する「NVLink Fusion」の狙いを改めて説明しました[1]。チップ設計以外の重い部分を既製品で済ませ、開発を差別化したい領域だけに集中させるという考え方です。

AIファクトリーの成績表は「出力」で決まる

NVIDIAはまず、AIファクトリーの経済性が何で測られるかを整理しています。挙げられているのは、毎秒のトークン数、消費電力あたりのトークン数、トークンあたりのコスト、稼働率、そして無停止で動き続ける時間です[1]。個々のアクセラレータの速さではなく、設備全体からどれだけ出力を取り出せるかで採算が決まる、という見方になります。

そのため、独自XPUを作る企業はチップの設計だけでは終われません。スケールアップとスケールアウトの両方のネットワーク、ラック規模のアーキテクチャ、量産を支えるソフトウェア、そして部材を安定供給できるサプライヤー網まで面倒を見る必要があります[1]。この負担がXPUを市場に出す速度を落としている、というのがNVIDIAの主張です。

72基のXPUを1つのドメインでつなぐ

NVLink Fusionの中核は、XPUをNVLinkのスケールアップ領域に引き込むことです。第6世代NVLinkは72基のXPUを1つのドメインとして扱い、XPU間の通信を高帯域・低遅延で結びます。NVIDIAによると、汎用イーサネットをベースにした構成と比べて、XPU同士の転送における端から端までのレイテンシは3分の1、パケットレートは10倍になります[1]。

数字の裏付けとして、NVIDIAの製品ページではNVLink 6が72基のアクセラレータを全対全で接続し、1基あたり3.6TB/s、NVL72ドメイン全体では260TB/sの帯域を提供すると記載されています。SHARPのFP8対応により帯域効率は4倍とされます[2]。将来のロードマップでは、ドメインサイズを最大1,152基まで広げ、光学部品をパッケージに同梱するCPO構成も視野に入っています[1][2]。

もう1つの要素がNVLink-C2Cです。XPUとNVIDIAのVera CPU、あるいは他社製CPUをチップ間で直結する仕組みで、PCIeインターフェースと比べて最大6倍の電力効率が得られるとされています[1]。エージェント型のシステムでは制御側と演算側のやり取りが頻繁に発生するため、ここが詰まると全体の足を引っ張ります。

ラックも冷却も電源も「既にあるもの」を使う

NVLink Fusionの採用企業は、NVIDIAのMGXラック規模アーキテクチャと、Vera Rubin NVL72などのMGXベース機で使われているのと同じサプライチェーンを利用できます。ラック、冷却、電源、そして新しい800VDC設計の構成部材までMGXのサプライヤーが供給し、製造パートナーが設計と組み立てを引き受けます[1]。

この効果について、QCTおよびQuanta Computerで製品・ソリューション責任者を務めるJack Luoh氏は、Vera Rubin NVL72では製造ラインでのシステム組み立てをほぼ100パーセント自動化する見込みであり、XPUがNVLink Fusionを使うならその投資の大半を流用できると述べています[1]。Intelでデータセンターシリコン開発を統括するTim Wilson氏も、CPUアーキテクチャや性能水準、ソフトウェア機能をワークロードに合わせて選べる点を評価しています[1]。

ラックの中身も運用を意識した設計です。リファレンスの演算トレイはファンもケーブルもホースも使わない完全液冷で、ラック全体を止めずにトレイ単位で引き抜けます。NVLinkスイッチのトレイも液冷で、保守中の運転継続に対応します[1]。

シリコンが決まる前に建物を建てられる

データセンターの建設は、電力の確保、建屋の設計、冷却、ラック配置、ネットワーク構成といった作業が、最終的にどのアクセラレータを積むかが決まるより前に始まります。1種類のチップに縛られた設計にしてしまうと、そのチップが遅れただけで計画全体が止まります[1]。

NVLink Fusionはここを統一アーキテクチャで解きます。XPUベースの機器とVera Rubin NVL72のようなGPUベースの機器が、同じラックスペース、同じネットワーク、同じ冷却と電源、同じ管理システムを共有できるため、シリコンの構成比を後回しにしたまま建設を進められます[1][2]。MediaTekのデータセンター・コンピューティング事業を率いるVince Hu氏は、まずNVIDIAのGPUでラック規模のソリューションを展開し、自社XPUの開発は別のペースで進められる点にプログラムの価値があると説明しています[1]。GUCのLie-Szu Juang氏も、NVIDIAの技術と第三者のプロセスを橋渡しして統一されたラック規模アーキテクチャを作れる点を挙げています[1]。

Amazon傘下のAnnapurna Labsでハードウェア開発を担当するCC Lee氏は、実績のあるNVL72のラック設計を使うことで市場投入までの時間を短縮でき、複数のサプライヤーにアクセスできると述べています[1]。実際、AWSはTrainium4の展開でNVLink Fusionを使う構成を進めています[2]。

建てる前に確かめ、動かしながら直す

設備投資の失敗は作り直しのコストが大きいため、着工前の検証が重視されます。NVLink FusionはAIファクトリー向けのDSXリファレンスアーキテクチャに沿う形で、建屋、電力、冷却、演算、ネットワークを同時に設計します。Omniverse DSX AI Factory Blueprintはギガワット規模のAIファクトリー向けにデジタルツインとオープンなリファレンス設計を提供し、施設と技術をまとめてモデル化できます[1]。

ソフトウェア側も揃っています。分散処理のNCCL、ディスアグリゲーションを担うDynamoとNIXL、クラスタ管理とテレメトリのMission Controlを組み合わせることで、種類の違うアクセラレータが混在した設備を1つのシステムとして扱えます[1]。

エコシステムの広がり

NVLink Fusionの参加企業は着実に増えています。CPU側にはArm、Intel、富士通、SiFiveが並び、カスタムシリコン側にはAlchip、Astera Labs、GUC、Marvell、MediaTek、SAMSUNGが名を連ねます。設計ツールのCadenceとSynopsys、光インターコネクトのAyar LabsとLightmatterも加わっています[2]。

なかでもMarvellとの関係は深く、2026年3月31日にNVIDIAはMarvellとの戦略的提携を発表し、あわせて20億ドル(約3,200億円)を出資しました。MarvellがカスタムXPUとNVLink Fusion対応のスケールアップ ネットワークを提供し、NVIDIAがVera CPU、ConnectX NIC、BlueField DPU、NVLinkインターコネクト、Spectrum-Xスイッチとラック規模の演算基盤を担う分担です[3]。

※1ドル159円換算

まとめ

NVLink Fusionは、独自チップを持ちたい企業に対して「差別化したいところ以外は既製品を使ってよい」と提案する仕組みです。72基のXPUを1ドメインで結ぶ第6世代NVLink、MGXのラックとサプライチェーン、DSXによる事前検証、そしてMission Controlまで含めたソフトウェアが一式で提供されます。チップの完成を待たずにデータセンターの建設を進められる点は、電力と土地の確保が先行する現在のAI投資と相性が良さそうです。

出典:https://blogs.nvidia.com/blog/nvlink-fusion-xpu-ai-factory/

出典:https://www.nvidia.com/en-us/data-center/nvlink-fusion/

出典:https://nvidianews.nvidia.com/news/nvidia-ai-ecosystem-expands-as-marvell-joins-forces-through-nvlink-fusion