中国のMoonshot AIが2026年7月16日、新しい大規模言語モデル「Kimi K3」を公開しました。総パラメータ数は2.8兆で、重みが公開されるモデルとしては過去最大です。しかも規模だけの話ではなく、複数のベンチマークでOpenAIやAnthropicの最上位モデルのすぐ後ろにつけています。完全な重みの配布は7月27日を予定しており、上海で開かれる世界人工知能大会の直前という時期にぶつけてきました。

「オープンだから性能は一段落ちる」が崩れた

これまでオープンな重みのモデルは、クローズドな最先端モデルから半年ほど遅れて追いかける立場でした。K3の数字を見ると、その前提が今回はあまり通用しません。

実世界の業務を模した指標であるGDPval-AA v2では、K3は1,687点で全体3位に入りました。上にいるのはClaude Fable 5 Maxの1,815点とGPT-5.6 Sol Maxの1,747.8点だけで、Claude Opus 4.8の1,600点は上回っています。長時間にわたる知的作業を測るAA-Briefcaseでは1,527点で2位、ここではGPT-5.6 Sol Maxの1,495点を逆転しました。

もう1つ目を引くのが、難度の高い情報探索を課すBrowseCompでの91.2点です。Moonshot AIはこのスコアを、エージェントを1つだけ動かし、コンテキストの圧縮も特別な管理も入れずに出したと説明しています。複数のエージェントを組み合わせて工夫するより、素直に長い文脈を丸ごと読ませたほうが強い場面がある、という主張です。

中身は疎なMoE、価格はやや強気

K3は全パラメータを毎回使うのではなく、896個の専門家(エキスパート)のうち16個だけを通す疎なMixture-of-Experts構成を採ります。2.8兆という数字のわりに動かしやすいのはこのためです。

技術面で新しいのは、Moonshot AIが自社開発した2つの仕組みです。1つはハイブリッド型の線形アテンションであるKimi Delta Attention、もう1つは残差接続を置き換えるAttention Residualsで、いずれも規模を大きくしたときの伸びを安定させる狙いがあります。加えて、コンテキスト長は104万トークン超、画像の理解にも標準で対応し、推論モードは常時オンです。

APIはOpenAIのSDKとそのまま互換なので、既存のコードの向き先を差し替えるだけで試せます。価格は入力100万トークンあたり3ドル(約490円)、出力100万トークンあたり15ドル(約2,400円)で、キャッシュが効いた入力は0.30ドル(約50円)まで下がります。中国勢としては強気の設定ですが、Claude Opus 4.8と同じ仕事をさせた場合の単価はおよそ半分に収まる計算です。8月12日までは、1,000ドル(約16万円)以上のチャージに対して最大30パーセント分をバウチャーで戻すキャンペーンも走っています。

※1ドル162円換算(2026年7月18日終値)

すぐ触りたい場合は、kimi.comのほか、業務向けのKimi Workや開発者向けのKimi Codeから利用できます。

48時間かけて自分用のチップを設計させた

ベンチマークより雄弁だったのが、公開に合わせて示されたデモです。Moonshot AIはK3に対し、自分自身を極小化したモデルを動かすためのチップを設計させました。

K3はオープンソースの設計自動化ツールを使い、48時間にわたって人の介入なしで設計から最適化、検証までを一通りやり切ったとされます。できあがったのは面積4平方ミリメートルの小さなチップで、100MHzでタイミング収束し、シミュレーション上は毎秒8,700トークン以上をデコードできたそうです。

製品化する話ではありません。ここで見せたかったのは、資料を読み、判断し、失敗したらやり直すという流れを2日間ぶん続けられるかどうかでしょう。1回のやり取りで答えを返す性能とは別の軸で、エージェントとしての持久力を問う段階に入ったことがうかがえます。天体物理の分野でも、研究者が1〜2週間かける計算を約2時間で再現し、その過程で20本以上の論文を読み比べたという事例が挙げられています。

一度沈んだ会社が規模で勝負に出た

Moonshot AIは2023年、GoogleとMetaで研究経験を持つ清華大学出身の楊植麟(Yang Zhilin)氏が立ち上げた会社です。2024年には長文の読み込みとAI検索を武器にKimiが一気に広まり、中国の月間利用者数で3位まで上がりました。

流れが変わったのは2025年1月です。DeepSeekが低コストのR1を出したことで市場の関心がそちらに移り、Kimiの順位は7位まで落ちました。累計で15億ドル(約2,400億円)前後を調達し、評価額は25億ドル(約4,000億円)から43億ドル(約7,000億円)へ伸びていましたが、存在感は明らかに薄くなっていました。

そこからの立て直し策が、2025年7月のKimi K2に始まるオープン路線です。今回のK3はその延長線上にありますが、規模の差ははっきりしています。重みが公開されている他社のモデルはDeepSeekが1.6兆、Xiaomiが1.02兆、Alibabaが3,970億で、K3はそこから頭ひとつ抜けています。2.8兆規模の学習には相応の計算資源と準備期間が要るため、この一手はかなり前から仕込まれていたと考えるのが自然です。なお、その後の資金調達は順調で、2026年5月には約20億ドル(約3,200億円)を集め、評価額は200億ドル(約3.2兆円)超まで戻しています。

自社で学習まで抱えられない企業にとっては、近い性能のモデルを手元に置いて調整できる選択肢が増えることになります。米国が計算資源の輸出を絞るなかで、中国側が重みを配ることで開発者コミュニティの中心に居座ろうとしている、という読み方もできそうです。7月27日に実際の重みが出てきたとき、どこまで手元で動かせるのかが次の焦点になります。

まとめ

Moonshot AIが公開したKimi K3は、2.8兆パラメータと104万トークンのコンテキストを備えた、重み公開モデルとしては最大級のモデルです。GDPval-AA v2で3位、BrowseCompでは91.2点と、クローズドな最上位モデルとの差はかなり縮まりました。48時間の自律チップ設計デモが示すとおり、勝負どころは単発の受け答えから長時間のエージェント運用へ移りつつあります。完全な重みは7月27日公開の予定です。

参考リンク