オーストラリアの決済・本人確認インフラを運営するAustralian Payments Plus(AP+)が、OpenAIの法人向けサービス「ChatGPT Enterprise」と、AIコーディング支援ツール「Codex」を業務に取り入れ、その成果を公開しました[1]。規制の厳しい金融基盤の現場で、AIが調査や資料作成のスピードをどこまで押し上げるのか。社内アンケートの数字とともに、具体的な使いどころを整理します。

決済インフラを支えるAP+とは

Australian Payments Plusは、オーストラリア国内の決済と本人確認の仕組みを支える中核組織です。デビットカード網の「eftpos」、請求書支払いの「BPAY」、リアルタイム送金基盤の「NPP(New Payments Platform)」、そして本人確認サービス「ConnectID」を運営しており、銀行や小売、行政、フィンテックなど150を超える組織をつないでいます[2]。2022年にeftpos、BPAY、NPPの3社が統合して発足した、会員所有型の事業体です[2]。

こうした業務の性格上、AP+の従業員は決済スキームのルール、技術仕様、会員の義務、運用プロセス、サイバーセキュリティ、規制対応といった膨大な情報を横断的に扱います。スピードは重要ですが、それ以上に正確さと説明責任が問われる領域です[1]。AP+は、この複雑さをより速くさばくためにChatGPT Enterpriseを全社導入し、続いて製品・エンジニアリング・技術系の業務にCodexを広げていきました[1]。

ChatGPT Enterpriseで情報探索と資料作成を高速化

導入前は、質問に答えたり作業を前に進めたりするために、スキームのルールや技術仕様、社内文書を手作業で探し回る必要がありました。決済の世界では、小さな細部が答えを変えてしまうため、この情報探索は決して軽い作業ではありません[1]。

現在、AP+の各チームはChatGPT Enterpriseを使って、複雑な資料を要約したり、データに基づく会員向けの案内文を下書きしたり、曖昧な問題を整理したりしています。たとえばeftposの仕様や関連文書をChatGPTでたどることで、専門家によるレビューにかける前の「最初のとっかかり」を素早く見つけられるようになったといいます[1]。

会議のメモは議事録に、ワークショップの意見は意思決定用の資料に、密度の高い設計文書はソリューションの概要に、といった具合に、情報を構造化されたアウトプットへ変換する時間が短縮されています。AP+はChatGPTを作業の自動化ではなく、考えを研ぎ澄ますための壁打ち相手として位置づけている点が特徴です[1]。

数字にも表れています。ChatGPTを利用した従業員のうち77%が週に2時間以上を節約でき、80%が創造性や仕事の質が向上したと回答しました[1]。社内では300を超えるカスタムGPTと1,000を超えるプロジェクトが作られており、利用が幅広く定着していることをうかがわせます[1]。

Codexで複雑な調査と試作を短縮

技術系のチームでは、AIコーディング支援ツールのCodexが複雑な調査に活用されています。ある突き合わせ(リコンシリエーション)の事例では、システムログと照合データにまたがるわずかなタイムスタンプの不整合をCodexで追跡し、これまで数日かかっていた手作業の調査を数分にまで短縮しました[1]。複雑な突き合わせ問題の調査時間は、従来の4時間からおよそ30分に縮まったとしています[1]。

製品開発の現場でも変化が生まれています。従来の初期テストは、見た目だけを示すクリック可能な画面に頼りがちで、実際にどう動くかまでは確かめられませんでした。いまはChatGPT EnterpriseとCodexを組み合わせ、決済の流れ、モバイル操作、認証フロー、決済完了までの体験を、実システムに近い挙動でシミュレーションできます[1]。動作するシミュレーションの構築は、これまで数日から数週間かかっていたところを1日で仕上げられるようになりました[1]。

AP+はさらに、脅威モデリングや脆弱性の分析、アラートの優先度付け、相互に接続されたシステムの可視化といった領域で、セキュリティチームをCodexが支援できないか検証を進めています。いずれも、リスク判断や検証、対応の責任は人間の専門家が持ち続けることを前提にした使い方です[1]。

規制業種でのAI活用から得られた教訓

AP+の取り組みは、規制の厳しい組織が責任を持ってAIを広げていくうえでの実践的な示唆を含んでいます。同社は次の4点を挙げています[1]。

第1に、安全な道をいちばん簡単な道にすること。適切なアクセス権を備えた、統制の効いたツールを従業員に渡し、明確な枠組みの中で安心して試せるようにしました。第2に、ガバナンスを立ち上げのパートナーにすること。規制環境での普及は、プライバシーやセキュリティ、ガバナンス、運用リスクに責任を持つチームとの質の高い対話にかかっています。第3に、現場の文脈の中で学ばせること。一般的な研修だけでなく、自分たちのチームに関係する具体例を見せたときにAIの活用が最もうまく進んだといいます。第4に、推進役(チャンピオン)を活用して変化を実感できるものにすること。既存のチームの動きの中に活用事例を持ち込むことで、追加の会議や単発のAIプログラムを増やさずに済んだとしています。

ChatGPT Enterpriseが日常業務の一部になり、Codexの利用が広がるなかで、AP+は製品開発、技術調査、会員向け業務へとAIの活用範囲を広げています。専門家によるレビューと人間の説明責任を常に中心に据える、という姿勢は変えていません[1]。

まとめ

Australian Payments Plusは、決済という正確さが最優先される領域で、ChatGPT EnterpriseとCodexを情報探索・資料作成・複雑な調査・試作に活用し、週2時間超の節約や調査時間の大幅短縮といった成果を報告しました。AIを人間の判断を置き換えるものではなく、専門家の判断を支える道具として位置づけている点が、規制業種での導入事例として参考になります。

出典:https://openai.com/index/australian-payments-plus

出典:https://www.auspayplus.com.au/