OpenAIが7月30日、ヤマダデンキのECサイトで動いたAI接客エージェントの導入事例を公開しました[1]。開発したのはANAホールディングス発のスタートアップであるavatarinで、音声・テキスト・画像を1つのモデルで扱えるGPT-Realtimeを基盤に採用しています。2週間の体験プロモーションで約3万人が利用し、アンケート回答の92パーセントが好意的だったとしています[1]。

店員の接客話法を学んだ「くらしまるごとAIエージェント」

家電量販店の売り場では、経験を積んだ店員の説明が購入の決め手になります。ただし人手には限りがあり、営業時間を過ぎればその接客は止まります。avatarinとヤマダホールディングスが取り組んだのは、この接客の知見を24時間動くエージェントに移す作業でした[1]。

両社は2024年5月、家電流通業界に特化したAI・ロボティクスサービスの創出で業務提携しています[2]。その延長線上で2026年2月25日に開発開始を発表したのが「くらしまるごとAIエージェント」です。avatarinがEC事業者向けに提供する接客・販売プラットフォームのa-commerceを土台に、購入前から購入後、日常生活までを一気通貫で支える構想が示されました[3]。

特徴として挙げられているのが、ヤマダデンキのスタッフの接客話法を学習させている点です。テキストと音声を組み合わせて理解するマルチモーダルAIが言葉だけでなく文脈や状況まで読み取ることで、商品選びの相談から購入決定まで、24時間・多言語・音声とテキストの両方で案内できるとしています[3]。

2週間の公開実験で約3万人、好意的な回答は92パーセント

体験プロモーションは3月3日10時から3月16日12時まで、ヤマダデンキの公式ECサイトであるヤマダウェブコム内の専用ページで実施されました[3]。パソコンやタブレット、携帯電話からエージェントに話しかけると、質問に答えるだけでなく要望を把握して先回りの提案を行い、商品選定まで導く流れです[3]。

OpenAIによれば、この約2週間で利用者は約3万人にのぼり、利用後のアンケート回答のうち92パーセントが好意的な内容でした[1]。会話の終わりに短い音声アンケートを置き、感想を聞く行為そのものを買い物体験の延長にした点も明かされています[1]。

avatarin代表取締役CEOの深堀昂氏は、これは従来のチャットボットの延長ではなく、AIで接客そのものを広げる試みであり、小売におけるインターフェースの変革の始まりだと位置づけています[1]。

なお、今回の取り組みはラボとしてエージェントとの会話による商品選びに特化したもので、ヤマダ会員アプリの情報などと連携するものではないと注記されています[3]。顧客データ基盤との接続は今後の段階に置かれています[3]。

「答える」だけでなく「聞き返す」設計

avatarinは、エージェントを3つの要件に沿って設計したと説明しています[1]。

1つ目が、会話の速さを落とさずに商品情報の正確さを保つことです。検索拡張生成(RAG)で回答を商品情報に紐づけて根拠を確保し、GPT-Realtimeが応答の速さを担う役割分担になっています[1]。

2つ目が、接客の知見を会話設計に翻訳することです。店員が聞き出すべき情報は商品カテゴリーごとに大きく変わるため、ヤマダデンキの接客ノウハウを会話フローとプロンプトに組み込んでいます。客が条件を変えたり話が一時的に逸れたりしても追従でき、同時にガードレールで買い物の話題から外れすぎないように保つ構成です[1]。

3つ目が、答えるだけでなく質問する側に回るという設計方針です。従来のチャットボットは次の指示を待ちますが、このエージェントは追加の質問を投げて本当の要望を掘り起こし、一問一答から商品発見の案内へ会話を進めます[1]。深堀氏は、4人家族用の冷蔵庫が欲しいがキッチンが狭いという相談にどう答えられるかが本当の接客だと表現しています[1]。

GPT-Realtimeを選んだ理由については、単一のモデルの性能が専門の音声認識システムを上回る水準にあり、音声とテキスト、画像を低遅延で横断できる点を挙げています。人間が機械の作法に合わせるのではなく、技術が人の話し方に寄っていける、という説明です[1]。

OpenAI側はプロンプト構造化とAPIコストを支援

OpenAIはavatarinと組み、複雑なプロンプトの構造化、常時稼働する音声サービスのAPIコスト最適化、実装のベストプラクティス共有にあたったとしています[1]。音声エージェントは待機時間も含めて動き続ける前提になるため、コスト設計が実運用の可否を左右します。

利用者の反応として紹介されているのは、実際の店員よりも話しやすい、気兼ねなく何度でも聞き直せるという声です[1]。閉店後にも質問でき、予算や迷いを売り込みの圧力を感じずに口に出せる時間帯が生まれたことも成果として挙げられています[1]。

さらにavatarinが重視しているのは、会話そのものがデータになる点です。何を気にして、どこで迷い、何があれば決められたのかが会話の中に現れるため、従来のオンライン購買では見えにくかった情報が拾えるとしています[1]。

ウェブ・電話・店舗を1つのエージェントで

avatarinが描いているのは、ウェブと電話、実店舗をまたいで同じ知性が客の文脈を引き継ぐ姿です。チャネルごとに別のシステムを置くのではなく、1人の客、1つの会話、1つのブランドとして体験を連続させるという整理になります[1]。

家電に加えて住宅や金融サービスまで抱えるヤマダホールディングスにとっては、この構想が生活全体を支えるAIにつながる余地があります。同時にavatarinは、どの企業のエージェントも同じ話し方になってしまう状況は望まないとして、企業ごとの個性とブランドを体現する知性をあらゆるインターフェースで体験してほしいと述べています[1]。

エージェントのデモは、3月3日から6日に東京ビッグサイトで開かれた第42回流通情報システム総合展のリテールテックJAPAN 2026でも展示されました[3]。実験段階を終えた先に、どこまで常設のサービスへ移せるかが次の焦点になります。

まとめ

ヤマダデンキのECサイトで動いたAI接客エージェントは、2週間で約3万人が利用し、アンケート回答の92パーセントが好意的でした。GPT-Realtimeによる低遅延の音声対話と、RAGによる商品情報の裏付け、そして店員の接客話法を移した会話設計を組み合わせた構成が特徴です。現時点ではラボとしての商品選びに範囲を絞っていますが、チャネルをまたぐ接客の基盤へ広げる構想が示されています。

出典:https://openai.com/index/avatarin/

出典:https://about.avatarin.com/info-news/news-release/8706/

出典:https://about.avatarin.com/info-news/news-release/9863/