複数のAIを束ねて1つのAPIとして扱うSakana AIのオーケストレーションモデル「Fugu」に、サイバー防御へ振り切った新しいエンドポイントが加わりました。2026年7月21日に公開された「Fugu-Cyber」です。セキュリティ分野の主要ベンチマークで、GPT-5.5-CyberやMythos-Previewといった最先端モデルを上回るスコアを記録しています。利用には申請と審査が必要で、料金は従量課金のトークンプランです。

束ねたAIを1つのモデルのように使う

Fugu-Cyberの土台にあるのは、Fuguが最初から掲げてきたマルチエージェントオーケストレーションという考え方です。裏側では役割の異なる複数のエージェントが動いていますが、開発者から見える窓口はエンドポイント1つだけです。要求を投げると、システム側が課題の中身に応じて適切なエージェントの組み合わせを選び、複数の工程にまたがる作業を進めます。

この構造には、性能とは別の狙いもあります。特定のベンダーのモデル1つに業務を預けきってしまうと、価格改定や提供終了、性能の変動がそのまま事業のリスクになります。複数モデルを内側で使い分けるFuguは、その依存を薄める設計です。Fugu-Cyberは、その性格を保ったまま、現代のサイバー防御が抱える複雑さに合わせて中身を組み直したものと位置付けられています。

2つのベンチマークで最先端モデルを上回る

数字は分かりやすく出ています。実在の脆弱性を検証する能力を測るCyberGymで、Fugu-Cyberは86.9%を記録しました。同じ指標でGPT-5.5-Cyberは85.6%、Mythos-Previewは83.1%です。脅威インテリジェンスの生レポートを実際に動く検知ルールへ落とし込む力を見るCTI-REALMでは、Fugu-Cyberが72.1%で、GPT-5.5-Cyberの67.3%、Mythos-Previewの68.5%を上回りました。

この2つは、企業防御の異なる面を見ています。CyberGymが問うのは、巨大で入り組んだコードベースを読み解き、そこに本当に成立する欠陥があるかを確かめる力です。一方のCTI-REALMは、外部から流れてくる断片的な脅威情報を、自社の監視基盤で使える形に翻訳する力を測ります。守る側の仕事が、コードを読む工程と情報を運用に落とす工程の両輪で成り立っていることを踏まえた組み合わせと言えます。

ベンチマークの点数は出発点でしかない

興味深いのは、Sakana AI自身がスコアの限界を明言している点です。同社は、フロンティアモデルのサイバー能力をめぐる議論が過熱しすぎていると指摘し、強力なモデルへのアクセスを得れば企業のセキュリティ課題がひとりでに解けるという語り口を戒めています。

根拠として挙げられているのが、大手金融機関を含む大規模組織の実情です。最先端の能力を持つモデルを手にしても、社内に専門人材がおらず、自社の独自コードへ深く統合されていなければ、実在の脆弱性を掘り出して修正するところまでは届きません。同社が日本の大企業と組んで取り組む中でも、同じ壁に何度もぶつかったと述べています。

単体で動かした生のモデルは、誤検知を出します。本番環境の細かな事情を理解しないまま「脆弱性かもしれない」と手を挙げてしまうためです。そこでSakana AIは、疑わしい箇所が見つかったら、セキュリティに特化したサブエージェントが検証し、さらに人間が確認したうえで、実際に発火する欠陥かどうかを判定してから修正案に進む流れを重視しています。モデルは強力な部品であって、解決策そのものではないという整理です。

提供は申請制、悪用防止のポリシーも更新

Fugu-CyberのAPIはトークンプランで提供されます。ただし誰でもすぐ叩けるわけではなく、利用目的と検証可能な連絡先を記した申請フォームを提出し、同社チームによる個別の審査と承認を経る必要があります。攻撃的な用途を禁じる形で許容利用ポリシーも更新されました。

攻撃と防御の技術が地続きである以上、防御向けに磨いたモデルほど、そのまま攻撃にも使えてしまいます。手続きの重さは、その裏返しと見るのが妥当でしょう。実務でこのAPIを検討する場合は、審査に通る具体的な運用像を先に固めておく必要があります。

まとめ

Fugu-Cyberは、複数のAIを束ねる仕組みを保ったまま、サイバー防御に特化させたSakana AIの新しいAPIエンドポイントです。CyberGymで86.9%、CTI-REALMで72.1%と、競合の最先端モデルを上回るスコアを示しました。もっとも同社が強調しているのは点数そのものではなく、専門人材と検証の仕組みを伴ってはじめて現場で効くという現実的な線引きです。導入を検討する側にとっても、モデルの選定と同じくらい、社内の運用体制をどう組むかが問われることになります。