AIアシスタント市場の勢力図が、ひとつの節目を迎えました。市場調査会社Sensor Towerが6月16日に公開した「State of AI 2026」リポートによると、ChatGPTの世界シェアは5月末時点で46.4パーセントまで下がり、2022年11月の登場以来はじめて5割を割り込みました。GeminiとClaudeが伸びるなかで、ひとり勝ちだった市場が本格的な競争のフェーズに入りつつあります。

数字で見る現在の勢力図

Sensor Towerは、アプリ・モバイルweb・デスクトップwebをまたいで重複を除いた利用者数(同社の「True Audience」指標)でシェアを算出しています。5月時点の内訳は次の通りです。

サービス 世界シェア 月間利用者数
ChatGPT 46.4パーセント 11億人超
Gemini 27.7パーセント 6億6200万人
Claude 10.3パーセント 2億4500万人

この3サービスだけで、AIアシスタントアプリの利用時間のおよそ90パーセントを占めます。ただし利用者数のシェアと「滞在時間」の順位は一致せず、利用時間で見た上位3つはChatGPT、DeepSeek、Geminiの順になります。Claudeのシェアは「どれだけの人が使っているか」を示すもので、滞在時間の長さとは別物だという点には注意が必要です。

「最大」ではあっても「過半数」ではなくなった

絶対的な利用者数では、依然としてOpenAIが突出しています。ChatGPTは5月に月間利用者数11億人を突破し、この規模に最も速く到達したアプリとなりました。TikTokやYouTube、Instagramを上回るスピードで、これ自体は紛れもない実績です。

それでもシェアが下がっているのは、市場全体がそれ以上の速さで膨らんでいるためです。ChatGPTのシェアは2024年12月時点で65.3パーセント、2025年12月で52.8パーセント、そして2026年5月で46.4パーセントと、18か月連続で右肩下がりが続いています。5割を割ったのは今年3月でした。

収益面では、OpenAIは2026年初頭の時点で月20億ドル(約3,200億円)を生み出し、有料会員は5000万人を超えていたとされます。利用者あたりの売上はむしろ上向いており、5月時点では1日あたり利用者の約17パーセントに広告を配信し、Walmart、Target、Costcoといった小売各社とのショッピング連携も広げてきました。これは「会員化」よりも「大規模な収益化」を選んだ戦略であり、11億人という基盤を考えれば理にかなった賭けですが、無料版の使い心地そのものを変える選択でもあります。

※1ドル=160円で換算(2026年6月17日時点)

Geminiを押し上げた「初期搭載」という構造

Geminiの利用者は2025年12月の5億3300万人から5月の6億6200万人へと、5か月で1億2900万人増えました。この伸びは、性能が劇的に良くなったからというより、配信のしかた、つまり「どこに置かれているか」によるところが大きいといえます。

GoogleはGeminiをAndroidの基本ソフト(OS)レベルに組み込み、世界で最も使われているモバイル基盤の上でGoogleアシスタントを置き換えました。GmailやGoogleドキュメント、スプレッドシート、スライド、ドライブにも標準で統合され、自社製チップ「Tensor」を積んだ端末では、アラーム設定やメッセージ送信、スマート家電の操作といった日常的な処理を端末内(オンデバイス)でこなします。オフラインでも動くという意味です。Googleのサービス圏内で暮らすユーザーにとって、Geminiは別途ダウンロードする競合サービスではなく「最初からそこにあるAI」になっています。

わざわざ入れてログインする必要があるChatGPTや、主にwebとAPIから使うClaudeとは、競争の土俵が違います。標準で搭載されたサービスは、ユーザーが他と比べて選ぶのではなく、ただ使われます。Geminiのシェア拡大は、その「初期設定としての強み」が積み重なった結果という側面が強いのです。

Claudeの伸びは利用者数より「課金率」に表れる

伸び率が最も大きかったのはClaudeです。月間利用者数は2025年12月の6020万人から5月の2億4500万人へと、5か月でおよそ4倍に拡大し、前年同月比では452パーセント増となりました。米国に限れば、シェアは2025年12月の約4.4パーセントから5月には約14パーセントまで上がっています。

ただ、Claudeで最も注目すべき数字は利用者数ではなく課金率です。2億4500万人のうち13パーセントが有料プランに加入しており、これはSensor Towerが追う全AIアシスタントのなかで最も高い水準です。一般的な消費者向けソフトの無料から有料への転換率が2〜5パーセント程度とされることを踏まえると、際立った高さだと分かります。

この差は、Claudeが無料ユーザーを巧みに有料へ誘導しているからというより、競合の事情によるところも大きいと考えられます。ChatGPTが一部の利用者に広告を出す方針に切り替えたことで、もともと「広告なしならお金を払ってもよい」と考えていた層が、別の選択肢を探す理由を得たわけです。その受け皿になっているのがClaudeだという見方です。Claudeの解約率も3月以降は下がっており、新しく集まったユーザーが定着していることをうかがわせます。

IPOを控えるOpenAIにとっての意味

このリポートが出たタイミングも見逃せません。OpenAIは6月8日、米証券取引委員会(SEC)に株式公開(IPO)の申請を非公開で行いました。上場へ向けた最初の正式な一歩です。投資家はこれから、相反する2つの事実をどう読むかを迫られます。11億人という利用者数とアプリ史上最速の獲得ペースという強みが一方にあり、もう一方には18か月続くシェアの低下があります。シェアの数字はChatGPTが縮んでいることを意味するわけではなく、周囲がより速く伸びていることを示すものですが、上場を目指す企業にとって、この2つは同じではありません。

まとめ

ひとつの製品が65パーセントを握る市場は、競争があるように見えても実質的には独占に近い状態です。それが46パーセントまで下がり、28パーセントと10パーセントの追随者が現れ、利用者の乗り換えという実際の動きを伴うようになったとき、その分野はようやく「市場」になります。ChatGPTは最大手であり続けますが、唯一の答えではなくなりました。Geminiは初期搭載という構造の強みで、Claudeは業界最高の課金率で、それぞれ違う武器を手にしています。AIアシスタント選びが本当の意味で「選択」になったことを、今回の数字は示しています。