Anthropic が、AIコーディングツール「Claude Code」に新しいコマンド「/fork」と刷新したコマンドラインインターフェース(文字入力で操作する画面、CLI)を追加しました。この追加が報じられたのは、Microsoft が開発者向けイベント「Build 2026」(6月2〜3日、サンフランシスコで開催) を終えてからおよそ10日後のことです。[1]派手な新モデルではなく一見地味な追加ですが、エンジニアが毎日繰り返している作業の流れにそのまま重なるため、使い勝手への影響は見た目以上に大きくなりそうです。

「/fork」で何ができるのか

「/fork」は、いま進めているClaude Codeとのやり取り(セッション)を、その場でもう1本に枝分かれさせるコマンドです。セッションには、扱っている課題や対象ファイル、これまでに出した指示といった文脈がすべて積み上がっています。フォークすると、その文脈を引き継いだ複製がもう1つでき、元のセッションを壊さずに別のやり方を試せます。

うまくいけばその枝をそのまま採用し、思うような結果が出なければ捨てて、手をつけていない元のセッションから続ければよい、という仕組みです。これまでは、別案を試すたびに前提を説明し直したり、途中経過を手作業で退避させたりする必要がありました。フォークなら、その切り替えがコマンド1つで済みます。

Gitのブランチに近い発想

この発想は、プログラム開発で広く使われているバージョン管理ツール「Git」のブランチ(枝分かれ)機能を、ほぼそのまま持ち込んだものです。Gitでは、本体のコードに影響を与えずに新機能を試すための枝を切ります。日常的にブランチを使っている開発者であれば、フォークの考え方はすぐに腹落ちするはずです。

慣れた作業の型に合わせることで、新しい操作を覚え直す負担を抑えている点が見逃せません。2つのプロンプト(AIへの指示文)を比べたい、2通りの実装を試したいといった場面で、試行のハードルが一気に下がります。

サブエージェントとの組み合わせ

「/fork」は、少し前に追加された「サブエージェント」機能と合わせて考えると、ねらいがはっきりします。サブエージェントは、中心となるセッションが複数の補助的なAIを呼び出し、1つの作業を分担して同時並行で進めるための仕組みです。

サブエージェントが「1つのやり方を分けて並行処理する」のに対し、フォークは「複数のやり方そのものを並行させる」役割を担います。枝を切って別案を探り、細かな作業は分担させ、最後に良い結果を残す。Claude Code は、初期のAIコーディング支援を特徴づけていた1本道のチャットから、開発チームの実際の動き方に近い形へと近づいています。

なぜ開発者起点で広がるのか

こうした地味な機能改善は、長く複数の手順をまたぐ作業でAIをどこまで信頼できるか、という核心に効いてきます。作業が長くなるほど、AIが誤った方向に進む確率は積み重なり、いったんこじれた1本道のセッションを立て直すのは骨が折れます。フォークは、その危うさを「枝を切って試し、駄目なら捨てる」という安価な実験に変えてくれます。失敗の代償が限定されるぶん、開発者はより踏み込んだ作業をAIに任せやすくなります。

背景には、Claude Code が Anthropic にとって過去最速で伸びている製品だという事情があります。ある分析では、世界の公開GitHubコミット(コードの変更履歴)のおよそ4パーセントが、ある時点でClaude Codeによって書かれていたと見積もられています。開発者が自分から使い始め、その先に企業の支出が続く、という下からの広がりが Anthropic の事業を押し上げており、フォークやサブエージェントのような機能はその足場をさらに固める一手といえます。

なお Claude Code の機能はほぼ毎週のペースで更新されており、コマンドの正確な書き方や挙動は、Anthropic の公式ドキュメントで確認するのが確実です。

まとめ

「/fork」コマンドは、開発者がGitで当たり前に行っている「枝分かれ」を、AIとのやり取りそのものに持ち込む機能です。元のセッションを保ったまま別案を試せるため、長い作業でも失敗のやり直しが軽くなり、AIに任せられる範囲が広がります。先に加わったサブエージェントと組み合わせれば、分担と試行錯誤を同時に回せるようになります。新モデルの発表に比べれば目立ちませんが、AIコーディングを「思い切って任せられる道具」へと近づける、実務寄りの一歩だといえそうです。

参考

[1] Microsoft Build 2026 の開催日(6月2〜3日、サンフランシスコ): https://www.thurrott.com/microsoft/334704/microsofts-build-2026-session-catalog-is-now-live