Preferred NetworksとPreferred Roboticsが9月9日、屋内移動ロボット向けの環境高度理解基盤モデル「PLaMo-SemGround(プラモ・セムグラウンド)」の共同開発を始めると発表しました。自然言語の指示とカメラのRGB画像、深度情報を組み合わせて走行できる場所とできない場所を判断させ、ロボット導入時の設定作業の9割をAIに肩代わりさせるという構想です。経済産業省とNEDOのGENIACに採択された事業でもあります。
ロボットを買った後に始まる、地味で重い作業
物流倉庫や工場、商業施設で搬送や清掃、巡回を自動化したいという需要は、人手不足を背景に膨らみ続けています。ところが屋内移動ロボットは、置いた翌日から働いてくれるわけではありません。
施設の地図を作った上で、この通路は一方通行、この区域には入らない、ここには段差がある、といった現場固有の走行制約を1つずつ設定していく必要があります。しかもレイアウトが変われば設定も作り直しになり、その都度専門の技術者を呼ぶことになりがちです。この時間とコストが、導入をためらわせる要因として残ってきました。
PLaMo-SemGroundが狙っているのは、まさにこの部分です。両社は初期設定と運用タスクの90%以上をAIと現場担当者に委譲するという数値目標を掲げています。専門人材を呼ばずに、現場のスタッフが言葉で伝えれば済む状態を目指す、という整理です。
名前の後半「SemGround」が示す中身
モデル名は、PFNがフルスクラッチで開発している国産の生成AI基盤モデル「PLaMo」と、grounding(グラウンディング)という技術用語を組み合わせたものです。groundingは、言葉に含まれる意味情報を、画像や3次元空間の中の物体・領域・位置に結び付ける処理を指します。
つまりPLaMo-SemGroundは、「床に置かれた荷物を避けて」という日本語を、カメラが捉えた映像と深度センサーが測った距離情報に照らし合わせ、2次元と3次元の両方で「その荷物はここにある」と特定するモデルです。特定した結果は意味情報付き地図(セマンティックマップ)や経路計画器に渡され、ロボットの実際の動きに反映されます。
規模は20億(2B)パラメータ級以下に抑えられます。クラウドを経由せず、ロボット本体の計算機や現場に置いたローカルPCで動かすことが前提にあるためです。工場や倉庫では通信の遅延やネットワーク障害がそのまま停止につながりますし、施設内の映像やレイアウトを外部へ送れないという事情も珍しくありません。PFNが持つPLaMoと視覚言語モデル「PLaMo-VL」の知見を、小型化と実装最適化に振り向ける形になります。
50現場・80万フレームという実データの厚み
開発計画は5つの柱で構成されています。データ収集を担当するのはPFRで、許可を得た工場や商業施設など50現場以上から、RGB画像、深度情報、走行ログ、現場ルールを集めます。確保する実用データは80万フレーム以上という規模です。搬送・清掃ロボットに加えて、データ取得専用の台車も使います。
PFNはこれに公開データと合成データを統合し、画像質問応答(VQA)や対象領域の特定(visual grounding)に使える2,000万サンプル以上の学習・評価用データ基盤を構築します。評価軸としては、公開ベンチマーク「EmbodiedScan」を今回の評価タスク向けに整備し直すほか、PFRが400現場以上で蓄積してきた既存データを活用した独自ベンチマークも作ります。
そして開発したモデルはPFRの搬送・清掃ロボットに実装され、5業種・10現場以上で実証試験にかけられます。空間認識の性能だけでなく、先ほどの90%委譲という目標にどこまで届いたかも、ここで評価される仕組みです。
カチャカで培った現場知と、外販までのロードマップ
PFRは2023年から自律搬送ロボット「カチャカ」シリーズを展開しており、工場・物流向けAMR(自律走行ロボット)の国内市場でメーカーシェア1位とされています(2026年の富士経済調べ)。400現場以上への展開で溜まった運用ノウハウが、そのままモデル開発の材料になるという構図です。片やPFNは、生成AI基盤モデルから独自のAIプロセッサまでを自社で抱えています。この2社が組む意味は、データと計算資源の両方を内側で回せる点にあります。
成果の出口も示されています。まずPFR製品へ2028年度(2028年4月から2029年3月)中に先行実装し、その後はPFNがモデルライセンス、SDK、評価基盤といった形で、国内のロボットメーカーやシステムインテグレーター、施設管理事業者へ段階的に商用販売していく計画です。自社製品だけに閉じず、他社のロボットにも載せられる基盤として売るという方針が最初から織り込まれています。
視野に入っているのはAMRやAGV(無人搬送車)だけではありません。将来的には脚型ロボットやヒューマノイドへの適用も想定されており、車輪型に限らない展開が意識されています。
まとめ
PLaMo-SemGroundは、ロボット本体の性能ではなく、導入時の設定作業という地味な工程に狙いを定めた基盤モデルです。2Bパラメータ級以下という控えめな規模も、エッジで動かすという前提から逆算した設計と読めます。先行実装は2028年度で、成果が見えてくるのはまだ先ですが、50現場の実データを集めるところから始める計画には、現場の泥臭さを知っている会社らしさが出ています。国内のロボット導入がどこで詰まっているのかを、あらためて言い当てた取り組みと言えそうです。
