Microsoftが、サイバーセキュリティ専用に自社開発した初のAIモデル「MAI-Cyber-1-Flash」を公開しました。脆弱性の発見と修正を担う自社ハーネス「MDASH」に組み込むことで、業界標準ベンチマークのCyberGymで96パーセントを記録し、費用は従来構成の半分になったとしています。同時に、赤・青・緑の3種類のエージェントが常時防御を回す「Project Perception」もプレビュー提供が始まりました。

90パーセントの作業を小型モデルに任せる

MAI-Cyber-1-Flashは、複雑なコードベースの中から見つけにくい脆弱性を掘り起こすことに特化した、小型で軽量なモデルです。同社の推論モデル系列であるMAI-Thinking-1の血筋を引き、社外モデルの流用ではなく自前のデータで一から作られています。

設計思想がはっきりしているのが面白いところです。攻撃の流入量が膨大になった今、防御側にとっての本当の制約は精度ではなくトークン単価だという前提に立ち、日常的に発生する作業の最大90パーセントをこの軽量モデルに任せます。そのうえで、本当に難しい残り10パーセントだけを、より大きく高価なモデル、具体的にはGPT-5.4に振り分けます。役割分担を徹底した結果、現行のMDASH構成、つまりGPT-5.4とGPT-5.4 mini、GPT-5.3 codexを組み合わせた最良の構成と比べて、費用は50パーセント削減されたと説明されています。

MDASHはもともと、脆弱性の特定から修正までを担うマルチエージェントのハーネスです。業界の第一線にいるセキュリティ専門家が調整し、複数の主要モデルを使い分ける100以上のエージェントが、問題の発見から検証、修正までを分担します。今回はその心臓部に、専用モデルという新しい部品が入った形になります。

CyberGymで12ポイント差、ベンチマークの中身

性能評価に使われたCyberGymは、大規模なコードベースを読み解いて実在する脆弱性を突き止める能力を測るベンチマークです。大量のコードを横断して推論できるかどうかが問われるため、セキュリティ領域では事実上の基準として扱われています。

MDASHとMAI-Cyber-1-Flashを組み合わせた構成は、ここで96パーセントに到達しました。Microsoftは、Anthropicのセキュリティ基盤Mythosを12ポイント上回り、GeminiやGPTの各構成も抑えたとしています。公開されたグラフでは、比較対象となった4構成がおおむね83パーセントから86パーセントの範囲に収まっており、上位が団子状態だったところに1つだけ抜け出した格好です。

Microsoft AIのCEOであるMustafa Suleyman氏は、この結果を発表の場で強調したうえで、すぐに実運用へ投入すると述べています。研究発表で終わらせず、製品として出す前提で作られていることが読み取れます。

赤・青・緑が交代で回す「Project Perception」

モデルと並んで公開されたのが、エージェント型のセキュリティ基盤Project Perceptionです。すでにプレビューとして提供が始まっており、まずはMicrosoft Defenderの中から使えます。

構成は3色のエージェントで説明されます。赤のエージェントは攻撃者の視点で探りを入れ、どこに穴があるか、どんな攻撃経路が成立するかを洗い出します。青のエージェントは検知した事象を調べ、どれが本当に意味のあるリスクなのかを切り分けます。緑のエージェントは実際に手を動かし、修正と防御の強化を担当します。この3者が同じ文脈を共有しながら連携するため、見つかった問題が修正に届くまでの間に、担当者への引き継ぎが挟まりません。

エージェントの内訳だけでなく、判断を実際の操作に変換するアクチュエーター、全体を統率するハーネス、組織固有の文脈、端末やID、クラウド、アプリを横断する信号とセンサーまでが一式として提供されます。料金は従量制で、Security Compute Unit(SCU)と呼ばれる単位で消費量を測ります。負荷の重い処理ほどSCUを多く使うため、実際に動いた分だけ費用が発生する形です。

Microsoftは、Perceptionを「AIが助言する段階から、AIが実行する段階への移行」と位置づけています。対話型のMicrosoft Security Copilotとは役割が異なり、両者は併存して使うものだと整理されています。

人間の判断は残す、という線引き

自動化の度合いが上がるほど気になるのが、どこまで機械に任せるのかという線引きです。この点についてMicrosoftは、戦略は人間が持ち、規模の部分だけを自律化すると説明しています。防御側の担当者が目的とガードレールを設定し、影響の大きい操作には必ず人間の承認を挟む設計です。エージェントの判断は範囲が限定され、追跡でき、後から再生して検証できる状態に保たれます。

モデル側にも複数の検査が入っています。MAI-Cyber-1-Flashはセキュリティを優先した調整のもとで開発され、社内のAIレッドチームによる評価に加えて、自動と専門家の両面からの敵対的テスト、さらに第三者による独立した評価を受けています。運用面では、役割ベースのアクセス制御やテナント分離、暗号化、監査証跡が用意され、実行環境はインターネットに接続しないサンドボックスに閉じ込められます。

こうした仕組みを支えているのが、Microsoftが日々受け取っている100兆件を超えるセキュリティ信号と、160万社の顧客から得られる運用の実感です。何が悪用され、何が封じ込められ、何が実際に効いたのかという結果まで追えることが、モデルを継続的に鍛え直す材料になっていると同社は説明しています。

まとめ

MAI-Cyber-1-Flashは、Microsoftが初めて自前で作ったサイバーセキュリティ専用モデルです。日常的な作業の9割を安価にさばき、難しい部分だけを大型モデルに回すことで、CyberGymで96パーセントという成績と50パーセントのコスト削減を両立させました。あわせて公開されたProject Perceptionは、赤・青・緑のエージェントが発見から修正までを続けて回す仕組みで、Microsoft Defenderからプレビュー利用できます。防御の自動化がどこまで進むのか、そして人間の承認をどこに置くのかを考えるうえで、参考になる事例と言えそうです。