Metaが自社設計のAI用半導体「Iris(アイリス)」の量産を2026年9月に始めると報じられました。ロイターが社内メモをもとに伝えたもので、設計はBroadcomと共同、製造はTSMCが担います。生成AIの推論処理に特化した専用チップで、高騰するNVIDIA製GPUへの依存を和らげながら、自社のAI基盤を効率よく増強する狙いがあります。
MTIA構想の一角を担う「Iris」
Irisは、Metaが独自に進める半導体開発計画「MTIA(Meta Training and Inference Accelerator)」の一つです。同社は2026年3月に、この計画で今後投入する4世代のチップを明らかにしており、当時はそれぞれMTIA 300、400、450、500と呼ばれていました。いずれもすでに配備済み、もしくは今後18か月以内の配備が予定されており、主に生成AIの推論(学習済みモデルを使って回答や予測を返す処理)を支える用途に使われるとしています。
MTIAは、汎用のGPUではなく、自社のサービスに合わせて設計した専用チップです。FacebookやInstagramのおすすめ表示や生成AI機能など、Metaが日々さばく膨大な処理を効率よく動かすことを目的としています。そこにIrisが加わることで、用途を絞った推論処理をより低コストでこなせるようにする構図です。
Broadcomと設計、TSMCが製造
社内メモによると、Irisの検証にかかった期間は6週間ほどで、大きな問題は見つからなかったとされています。Metaはこのチップを自社の内部的な要件に合わせて最適化したと説明し、設計では通信半導体大手のBroadcomと協力し、製造は世界最大の受託生産企業であるTSMCに委ねたとしています。
こうした自社チップへの投資の背景には、AI向けGPU市場でほぼ独占的な立場にあるNVIDIAへの依存を薄めたいという事情があります。ただしIrisは、Metaがすでに大量に抱えるNVIDIAやAMDのGPUを置き換えるものではなく、あくまでそれらを補い、推論のような特定の処理を肩代わりさせる位置づけとされています。自前のチップで一部の負荷を引き受ければ、そのぶん外部から高価なGPUを買い増す必要が減り、コスト構造の改善につながるという読みです。
14ギガワットへ倍増する計算基盤
Irisの量産は、Metaが進める大規模な計算資源の増強と一体になっています。同社は2026年に7ギガワット(GW)規模の処理能力を配備し、2027年末までにこれを倍の14GWへ引き上げる計画です。今年ここまでに配備できたのは1GWで、社内メモでは2026年後半にさらに5.5GWを積み増す方針が示されています。
この拡大を支えるため、Metaは部材の調達網も固めています。メモリはSAMSUNG、フラッシュストレージはSanDisk、光ファイバー関連の機材は住友電工とそれぞれ供給契約を結んだとされています。設備投資も膨らんでおり、同社のスーザン・リー最高財務責任者(CFO)は、2026年通期の設備投資見通しを1,200億〜1,350億ドル(約19兆〜22兆円)に引き上げたと明らかにしました。部材価格の上昇や、将来の増設に向けたデータセンター費用の増加を織り込んだ数字だと説明しています。※1ドル162円換算
Metaは年初に、データセンターの能力拡大を専門に担う新部門「Meta Compute」を立ち上げました。マーク・ザッカーバーグCEOは、この10年で数十GW、長期的には数百GW以上を構築する計画だと語っています。さらに直近では、この計算資源やAIモデルへのアクセスを外部に販売するクラウド事業の立ち上げを検討しているとも報じられており、自社チップと巨大な計算基盤を軸に、AIインフラそのものを収益源へ育てようとする姿勢がうかがえます。
まとめ
Metaは、自社設計のAIチップIrisを9月に量産へ移し、NVIDIA製GPUへの依存を抑えつつ生成AIの推論基盤を強化しようとしています。14GWへ倍増する計算能力の計画や、SAMSUNG・SanDisk・住友電工との調達契約、2兆円規模に迫る設備投資と合わせて見れば、これは単なる一つのチップの話にとどまりません。主要IT企業が半導体からデータセンターまでを自前で囲い込み、AI時代の競争力を足元から築こうとする動きの一例と言えそうです。
