Intelが半導体アーキテクチャの学会Hot Chips 2026で、AI推論に特化したデータセンター向けGPU「Crescent Island」の中身を明らかにしました。最大480GBのLPDDR5Xを積みながら、消費電力は350Wの空冷PCIeカードに収まります。液冷ラックを前提としない構成で、エージェント型AIの実行コストを下げにいく設計です。

メモリを盛って推論の採算を変えにいく

Crescent Islandの構成は、Xe3PベースのXeコアを32基、行列演算を担うXMXエンジンを256基。そこに最大480GBのLPDDR5Xが組み合わさります。カード全体で350Wという枠に収まり、インターフェイスはPCIeです。

注目すべきは、演算性能の数字よりもメモリ容量を前面に出している点です。推論の現場では、モデルそのものに加えて、会話の履歴を保持するKVキャッシュがメモリを食います。コンテキスト長が伸びるほど、また同時に走らせるAIエージェントの数が増えるほど、必要な容量は膨らみます。ここで容量が足りないと、GPUを増やして分散させるしかなく、その分だけ台数もラックも電力も余計にかかります。

Intelは、大きなモデル・長いコンテキスト・多数の同時エージェントを1枚のカードに載せられるようにすることで、トークンあたりのコストを下げるという立て付けを取っています。同社の表現を借りれば、リアルタイム推論の経済性を組み替えるという狙いです。

空冷350Wという線引き

もう1つの軸が冷却です。Crescent Islandは既存の空冷データセンターにそのまま挿さる構成を前提としています。近年のAIアクセラレータは1枚あたり700Wから1,000Wを超えるものも珍しくなく、導入には液冷の配管工事や電源設備の増強が伴います。この初期投資が、AIを試したい企業にとって重い壁になっていました。

350Wの空冷カードであれば、いま動いているサーバー室の設備を大きく変えずに増設できます。HBMではなくLPDDR5Xを選んだのも、容量あたりの単価と消費電力を抑えるためでしょう。帯域幅ではHBMに及びませんが、学習ではなく推論、それも容量が効く用途に的を絞るなら合理的な判断と言えます。メモリ調達が世界的に逼迫している状況では、HBMを避けられること自体が供給面の強みにもなります。

同時に語られたDiamond RapidsとWildcat Lake

Hot Chipsの発表は、Crescent Island単体ではなく3つのアーキテクチャをセットで示すものでした。

サーバーCPU側は次世代Xeonの「Diamond Rapids」です。最大256コアに1.28GBのラストレベルキャッシュ、12800 MT/s動作のメモリチャネルを16本、そしてPCIe Gen6を128レーンとCXL 3.0に対応します。プロセスは電力と性能を強化したIntel 18A-Pで、Foveros Direct 3DとUCIe-Sを使ったSoC構成、さらにAdvanced Performance Extensions(APX)と強化版のAdvanced Matrix Extensions(AMX)を備えます。エージェントを束ねて動かす司令塔としての役割が想定されています。

クライアントとエッジ向けが「Wildcat Lake」で、Intel Core シリーズ3として製品化されます。Intel 18Aで製造され、Pコア2基とEコア4基、XMXを備えたXe3内蔵グラフィックス、最大17 TOPSのNPUという構成です。LPDDR5X-7467に対応し、Wi-Fi 7とBluetooth 6.0も載ります。Intel製プロセッサとして初めてUCIeを採用した点も見どころで、複数チップを1パッケージにまとめる設計を安価に組めるようになります。

自社の製造技術を前面に出す構え

3製品に共通するのが、Intel 18A系のプロセスとFoveros Direct 3D、そしてチップレット接続の業界標準であるUCIeという組み合わせです。同社CTOのPushkar Ranade氏は、エージェント型AIがトランジスタからパッケージ、システム全体の設計思想までを変えつつあると述べ、汎用演算と専用アクセラレータを密に統合し、現実の電力・コスト・設置条件の中でスケールさせることが今後の焦点だと説明しています。

ファウンドリ事業を抱えるIntelにとって、自社設計の製品でこれらの技術を実証してみせることは、外部顧客に対する説得材料でもあります。ラックからエッジまでを1社の製造基盤で通す構図を、あえて同じ発表にまとめてきたと見ることもできるでしょう。

まとめ

Crescent Islandは、演算性能の頂点を狙うのではなく、480GBという容量と350Wの空冷という条件で推論を回しきることに振り切ったGPUです。液冷を前提としないぶん導入のハードルは低く、既存の設備で同時実行数を稼ぎたい企業には現実的な選択肢になり得ます。Diamond Rapids、Wildcat Lakeと合わせて、Intelがエージェント型AIをどの層で受け止めようとしているかが見えてきました。