高速なGPUを並べても、AIクラスターの性能は思ったほど伸びません。原因の多くは計算ではなく、その間をつなぐネットワークにあります。米Cornelisが9月14日に公開したActive Compute Fabricは、データを運ぶだけだった配線に演算機能を持たせ、GPUの待ち時間そのものを減らそうという試みです。同時に2億500万ドル(約320億円)の資金調達と、Qualcomm Technologiesとの協業も明らかにしました。
GPUの半分は「待っている」
Cornelisが問題視しているのは、アクセラレーターの稼働率です。モデルもクラスターも大きくなった結果、演算そのものより、ノード間の通信と同期にかかる時間が支配的になってきました。メモリもストレージもワークロードを意識した設計に進化してきたのに対し、ネットワークだけは端点から端点へデータを移すという役割にとどまっていた、というのが同社の見立てです。
どれくらいの損失になるのかを、Cornelisは公開データをもとに試算しています。GPUを10万基並べたシステムでは、GPU稼働時間のおよそ半分がデータ待ちに費やされており、金額に直すと年間およそ16億8,000万ドル(約2,600億円)、電力では500ギガワット時に相当します。米国の一般家庭に置き換えると4万8,000世帯分の年間消費電力です。試算の前提は、1GPU時間あたり4ドル(約620円)、年間稼働8,400時間、非生産的な時間が約50パーセントというものです。
※1ドル155円換算
運ぶ配線から、計算する配線へ
Active Compute Fabricは、この待ち時間をネットワーク側で吸収しようとします。柱は3つで、パケットを落とさないロスレス転送、ファブリック内部での処理のオフロード、そしてプログラマブルな演算機能です。データが流れている途中で処理を加えられるため、集団通信(コレクティブ)のような、本来ならGPUを止めて実行していた処理を配線側に逃がせます。
プログラマブルである点も同社は強調しています。AIのアルゴリズムやソフトウェアは短い周期で変わるため、ハードウェアに機能を焼き付けてしまうと、数年でファブリックのほうが足を引っ張りかねません。後から機能を載せ替えられる構成にしておけば、既に導入したアクセラレーターを長く使い切れるという理屈です。
アーキテクチャは業界標準の上に組まれています。ラック内部をつなぐスケールアップ側ではUALinkとESUN、ラック間をつなぐスケールアウト側ではUltra Ethernetの仕様を採用し、特定ベンダーのアクセラレーターに縛られない構成を想定しています。CEOのLisa Spelman氏は、顧客が求めているのはラック規模で完結する構成であり、同時に単一のベンダーやアーキテクチャに固定されないことだと述べています。
Qualcommが同じ壇上に立つ理由
今回の発表にはQualcomm Technologiesが名を連ねました。同社でデータセンター部門のEVP兼GMを務めるTony Pialis氏は、AIシステムが大きくなるほど、ラック内でデータを効率良く動かすことが演算そのものと同じくらい重要になると指摘しています。稼働率の低さは推論のコスト構造に直結するため、演算・メモリ・ネットワークを分けて考える発想では立ち行かない、という問題意識です。両社はAI Infra Summitのキーノートに揃って登壇しました。
ネットワークが後付けの要素ではなく設計の起点になる、という見方は、同じサミットで語られた他社の主張とも重なります。ラック規模のアーキテクチャへ移行するにつれ、インフラ構成の選択肢をどれだけ残せるかが差別化の軸になりつつあります。
調達資金は次世代製品へ
2億500万ドルの調達は、スケールアップ領域への進出と次世代製品の立ち上げに充てられます。出資したIAG Capital PartnersのパートナーJoel Whitley氏は、AI向けのオープン標準ネットワークが2030年までに550億ドル(約8兆5,000億円)を超える市場になるとの見方を示し、AI投資全体のうちどれだけが実際のリターンにつながるかをネットワークが左右すると述べています。
製品面では、400Gb/sのCN5000が既に出荷中です。SuperNICはPCIe Gen5 x16に400Gb/sを1ないし2ポート、スイッチは400Gb/sを48ポート束ねて全二重38.4Tb/s、ディレクタークラスでは576ポート・230.4Tb/sという構成になります。800Gb/s世代のCN6000は顧客へのサンプル出荷段階にあり、本格的な供給は2026年第4四半期を見込みます。CN6000はOmni-Path、RoCEv2、Ultra Ethernetに対応する800G SuperNICとして、PCIe 6.0で接続されます。
CornelisはIntelの高速インターコネクト事業から独立した経緯を持ち、Omni-Pathの系譜を引き継いでいます。ソフトウェア面ではlibfabricベースのOPXをオープンソースで提供しており、MPIやOpenSHMEM、RCCLで書かれたアプリケーションはコードを書き換えずに動きます。LenovoによるThinkSystem SC750 V4とIntel Xeon 6での検証では、ノード間で378から391Gb/s、平均385Gb/sの実効帯域と、約1.1マイクロ秒の遅延が測定されています。
まとめ
Active Compute Fabricは、ネットワークを単なる配線から計算資源の一部へと位置づけ直す提案です。10万GPU規模で年間2,600億円分の稼働が待ち時間に消えているという試算が正しければ、帯域を積み増すより待ち時間を削るほうが投資効率は高くなります。CN5000が出荷済み、CN6000が2026年末に本格供給という段取りで、UALinkやUltra Ethernetといった標準の上に構えた点も含め、NVIDIA一強のAIネットワーク市場に対する現実的な選択肢になりうるかが問われます。
