AI推論基盤を手掛けるサンフランシスコのGimlet Labsが、シリーズBで3億ドル(約470億円)を調達しました。主導したのはAndreessen Horowitzで、企業価値は30億ドル(約4,700億円)と評価されています。同社が売っているのはGPUの台数ではなく、GPUとCPUと専用アクセラレーターを1つのシステムとして扱い、推論処理を段階ごとに向いたチップへ振り分ける仕組みです。

※1ドル156円換算(2026年9月7日時点)

推論を段階ごとに切り分け、向いたチップへ回す

一般的な推論基盤は、1種類のアクセラレーターを大量に並べて処理を流します。Gimletの発想はそこと違い、1つのモデルの推論処理を複数の工程に分解したうえで、工程ごとに最も適したハードウェアへ割り当てます。同社はこれをマルチシリコン推論クラウドと呼んでいます。

対応先はNVIDIA、AMD、Intel、Arm、Cerebras、d-Matrixと幅広く、GPUとCPUに加えてSRAMを土台にした専用アクセラレーターまで、同一のシステムに組み込めるとしています。データセンターの構成、推論を実行するソフトウェア、計算ノード間の割り振りを行うオーケストレーションを、まとめて自社で持っている点が特徴です。

同社の説明では、工程とハードウェアの組み合わせを最適化することで、スループットと対話の応答性が最大で10倍改善します。加えて、限られた計算資源と電力の使用効率が上がるため、同じ量の推論を捌くのに必要な設備と費用を圧縮できるという主張です。エージェント型のAIは1回の指示から膨大な推論を連鎖的に発生させ、しかも低遅延を求められます。この負荷の形に合わせて設計した、というのが同社の立ち位置になります。

利用形態は2通りで、Gimletが運用する自社クラウドを使うか、顧客の環境の中にマネージド構成として展開するかを選べます。

累計調達額は3億9,200万ドル、Armも株主に加わった

今回のラウンドにはSapphire Venturesが主要投資家として参加し、新規にM12とArmが加わりました。既存投資家のMenlo VenturesとFactoryも追加出資しています。チップ設計を手掛けるArmが名を連ねた点は、マルチシリコンという方向性がハードウェア側からも支持されていることを示す材料と言えます。

これで累計調達額は3億9,200万ドル(約610億円)になりました。同社が表舞台に出てきたのは2025年10月で、そのときはFactory主導のシードラウンドで1,200万ドル(約19億円)を確保しました。Menlo Ventures主導のシリーズAで8,000万ドル(約125億円)を調達したのは2026年3月です。ステルスを抜けてから1年経たずに評価額が30億ドルに達した計算です。

事業面の進捗も速いペースで報告されています。2026年3月の時点で顧客数が3倍になり、上位3社に入る先端AI研究所と、上位3社に入るハイパースケーラーが顧客に加わったとしていました。それ以降、Gimlet Cloudでは数十億ドル規模の受注残を確保し、運用するヘテロジニアス基盤を数百メガワット級まで拡大している最中です。調達した資金は、このマルチシリコンクラウドの運用拡大と採用に充てられます。

会社の出自と、投資家が見ている市場

Gimlet Labsは2023年設立で、Stanford Universityの研究プロジェクトから独立しました。共同創業者でCEOのZain Asgar氏は、NVIDIAでGPUアーキテクトを務めた後、GoogleのAI部門でエンジニアリングを率い、Pixie Labsを共同創業してNew Relicへの売却まで導いた経歴を持ちます。現在はStanford Universityの非常勤教授も兼ねています。ハードウェアとシステムソフトウェアの両側を見てきた人物が率いている会社、という理解でよさそうです。

Asgar氏は今回の発表で、推論がAIの主要な処理となる転換点に達し、トークンへの需要が急激に伸びていると述べています。Andreessen HorowitzでマネージングパートナーとGimletの取締役を務めるRaghu Raghuram氏も、必要なのは設備を増やすことではなく、より良いアーキテクチャだと指摘しました。同氏はGPUと専用アクセラレーターを1つのシステムとして動かすことで、1ワットあたりの処理量と対話性を大きく引き上げられるとしています。

市場規模の見立てとして、同社はGoldman Sachsの推計を引いています。それによると、AI関連の設備投資は2026年に約7,650億ドル(約119兆円)、2026年から2031年までの累計では7兆6,000億ドル(約1,190兆円)に達する見込みです。投資の重心が学習から推論へ移りつつある局面で、既存のGPU中心の構成をそのまま増やすのか、種類の違うチップを混ぜて効率を稼ぐのか。Gimletは後者に賭けています。

まとめ

Gimlet LabsはシリーズBで3億ドルを調達し、評価額30億ドル、累計調達額3億9,200万ドルとなりました。推論処理を工程ごとに分解し、NVIDIAからd-Matrixまで種類の異なるチップへ振り分けることで、スループットと応答性を最大10倍改善するとしています。ArmがM12とともに新規投資家として参加した点も、この方向性への支持を示す動きです。電力と計算資源の制約が投資額の伸びに追いつかない状況が続くなら、チップを揃えるより混ぜるという考え方は、今後さらに増えていくことになりそうです。