米国の非営利団体Lenfest Institute for Journalismは、地方報道機関にAIエンジニアを送り込む「Lenfest AI Collaborative and Fellowship Program」の次の段階を発表しました。OpenAIは新たに500万ドル(約7億9,000万円)の拠出を約束し、最大500万ドル分のソフトウェアクレジットとエンジニアリング支援も提供します。OpenAIによる支援額は従来の2倍になったとのことです[1]。

2年間の実績を踏まえた次のフェーズ

同プログラムは2024年に始まり、米国の主要な報道機関11社にAIエンジニアリングのフェローを配置してきました。Lenfest Institute for Journalismは、米国のジャーナリズム分野で最大規模のAIフェローシッププログラムになったと位置づけています[1]。

フェローは常勤のAI技術者として現場に入り、編集部門の責任者や記者、プロダクト、広告・購読の収益部門、経営層と協力しながら、各社固有の課題に合わせた実用的なAIの仕組みを作ります。あわせて、安全で透明性が高く、倫理に配慮した運用方針づくりも担います[1]。次の段階では新たな報道機関のグループが参加する予定で、複数のフェローが今後、常勤職員として残る見通しだそうです[1]。

現場で生まれた具体的な成果

発表では、参加各社の取り組みがいくつか紹介されています。

The Philadelphia Inquirerでは、過去数十年分の取材アーカイブを検索できるツール「Dewey」と、週に約15時間かかっていた取材作業を、地域各地から集めた記事ネタ候補の日次ダイジェストに置き換えるモニタリングツール「Scrape」が開発されました[1]。

Chicago Public Mediaでは、AIを使った翻訳ワークフローによって、時間が勝負のスペイン語ニュースを従来よりはるかに短い時間で公開できるようになりました。長年保管されたままだったシカゴのニュースや文化を伝える音声アーカイブの文字起こしにも活用されています[1]。そのほかの参加組織では、広告の営業開拓、寄付者のモデリング、読者ごとのパーソナライズ、購読者の増加、公開会議の監視、紙からデジタルへの制作移行、業務効率化といった分野で取り組みが進んでいます[1]。

また、成果物が報道機関の間で行き来し始めた点も特徴です。フェロー同士がコードを共有し、互いのアイデアを取り入れており、The Baltimore BannerはThe Philadelphia Inquirerのチームが作った成果を土台に、自社のニュース発見ツールを開発しました[1]。

2年間で見えた3つの教訓

プログラムを通じて得られた主な教訓として、発表では次の3点が挙がっています[1]。

1つ目は、技術より信頼が重要だという点です。現地採用のエンジニアを2年間組織内に常駐させたことが大きな転機になり、フェローは外部コンサルタントのように導入を迫るのではなく、編集の流れや組織文化、利用者のニーズを理解することに時間を割きました。信頼が深まるにつれ、記者がフェローを仲間として頼り、できあがったツールを日常業務に取り入れるようになったといいます。

2つ目は、AIありきではなく課題から始めることです。優れたプロジェクトは、あらかじめ決めた技術的解決策ではなく、明確に定義された課題から出発していました。利用者との密な協力、小規模な試行、継続的な評価が共通していたとのことです。

3つ目は、協力がイノベーションを加速するという点です。ある報道機関の成果が別の機関の出発点になる例が相次ぎました。

拡大フェーズで目指すこと

次の段階では、フェローを参加組織に常駐させる方針を維持しつつ、より幅広い報道機関へ対象を広げます。あわせてLenfest Instituteは技術面の体制を強化し、成果の大きかったプロジェクトを再利用可能なツール、フレームワーク、プラグイン、導入ガイド、プレイブックといった形に整えて、数百の報道機関が使えるようにする計画です[1]。1つの組織で生まれた技術やワークフローを、報道業界全体の共有インフラにしていく狙いがあります。

Lenfest InstituteのJim Friedlich事務局長兼CEOは、責任あるAI活用は技術そのものより信頼の問題だと述べています[1]。OpenAIで知的財産・コンテンツ担当の最高責任者を務めるTom Rubin氏は、地方報道が地域のつながりを育むうえで重要な役割を担っているとして、パートナーシップを拡大する意向を示しました[1]。

※1ドル158円換算(2026年10月2日の仲値を目安にした概算)

まとめ

OpenAIとLenfest Instituteは、地方報道機関にAIエンジニアを常駐させるフェローシップを、OpenAIの拠出額を倍にして拡大します。2年間の取り組みでは、アーカイブ検索や記事ネタの自動収集、翻訳、音声の文字起こしなどの成果が生まれ、ツールが報道機関の間で共有される動きも出てきました。今後は成果を再利用しやすい形に整え、より多くの報道機関に広げていく方針です。

出典:https://openai.com/index/lenfest-ai-collaborative-expansion