Astell&Kernが、携帯型のデジタルオーディオプレーヤー(DAP)の新しい最上位機「A&ultima SP4000T」を披露しました。型番末尾の「T」が示すとおり、本体に真空管を4基組み込み、据え置き型の真空管アンプのような温かみのある音を持ち歩けるようにした意欲作です。世界初公開は、2026年6月4日にオーストリア・ウィーンで開かれるオーディオ見本市「High End 2026」の場が予定されています。
真空管を4基積んだポータブル機という発想
SP4000Tの最大の見どころは、その名のとおり本体に4本の真空管を搭載した点です。採用したのはRaytheon製の小型真空管「JAN6418」で、これを4基使うことで、本来は大きな据え置きアンプでしか味わえない真空管特有の柔らかな響きを、手のひらサイズのプレーヤーで再現しようとしています。
さらに面白いのが、真空管の動作モードを3種類から選べる点です。Triode(三極管)、Pentode(五極管)、Ultra Linearの各モードで音の鳴り方や歪み方の傾向が変わるため、聴く曲や好みに合わせて音色そのものを作り込めます。デジタル機器でありながら、アナログ機材のように音を育てる楽しみを持たせた設計と言えるでしょう。
中身はAndroid 15搭載の小型プレーヤー
ハードウェアの構成は、もはや小型のスマートフォンに近い水準です。OSにはAndroid 15を採用し、頭脳となるCPUは8コア構成。内蔵ストレージは256GBで、microSDカードを使えば最大1.5TBまで拡張できます。手元に大量のハイレゾ音源を抱えていても、容量に困りにくい余裕のある設計です。
画面は6インチの2K(2160×1080)タッチスクリーンで、操作感はスマートフォンに近い感覚です。通信面では、Wi-Fi 6にあたる802.11ax(デュアルバンド)に対応し、無線はBluetooth 5.2を備えます。パソコンとつないでUSB DAC(外付けの音声変換装置)としても使えるため、自宅ではPCオーディオの心臓部としても活用できます。
DACとハイレゾ対応で音の土台を固める
音の要となるDAC(デジタル信号をアナログに変換する部品)には、旭化成エレクトロニクス製の「AKM4499EX」を2基搭載しました。加えて信号処理用の「AKM4191EQ」も2基という、贅沢な2基がけ構成です。ここに4基の真空管が組み合わさることで、デジタルらしい正確さと真空管らしい温かみの両立を狙っています。
スペック上の数値も突き抜けています。周波数特性は20Hz〜20kHzで±0.006dB、20Hz〜70kHzでも±0.06dBとほぼフラットで、全高調波歪み(THD)は0.0006%未満、SN比は124dBと、いずれも最上位機にふさわしい水準です。再生対応も幅広く、DSDは最大DSD512、PCMは最大768kHzまでのロスレス音源を扱えます。
接続まわりも充実しています。有線は3.5mmのアンバランスと4.4mmのバランス出力に対応し、ワイヤレスではLDAC、aptX HD、LHDC、AAC、SBCといった主要コーデックを網羅します。圧縮音源で失われがちな倍音成分を補う独自機能「VSE(Virtual Sound Extender)」も備え、手持ちの音源をより豊かな響きへ整えられます。
バッテリー・筐体と気になる価格
電源には7,450mAhのバッテリーを内蔵し、公称で最大10時間の連続再生に対応します。フル充電にかかる時間は約5時間とされています。筐体素材は銅(カッパー)とステンレススチールの2種類が用意され、所有感を満たす重厚な仕上げは最上位機ならではです。
肝心の価格は、本稿執筆時点ではまだ正式に公表されていません。ただ、既存の旗艦モデルであるSP4000が約4,290ドル(約69万円)で販売されていることを踏まえると、その上位に位置づけられるSP4000Tはさらに高い価格帯になると見られます。気軽に手を出せる機種ではありませんが、真空管をポータブルで持ち歩くという発想そのものに価値を感じる層に向けた、まさに究極の一台です。
※1ドル=160円換算(2026年6月15日時点)
まとめ
A&ultima SP4000Tは、真空管4基という大胆な構成で据え置き機の音をポータブルに落とし込もうとした、Astell&Kernの新しい旗艦DAPです。Android 15やデュアルDAC、DSD512対応といった現代的な高機能をそろえつつ、3種類の真空管モードで音色を作り込める点に唯一無二の魅力があります。価格は未公表ですが、世界初公開となるウィーンでのHigh End 2026を皮切りに、ハイエンドオーディオファンの関心を集めそうです。