Qualcommが9月1日、IoT向けプロセッサーの新製品「Dragonwing Q-2390」と「Dragonwing IQ-2390」を発表しました。CPU、GPU、AI処理、カメラ入力、通信、セキュリティを1つのチップにまとめ、スマート家電や店舗端末、工場の制御機器といった低コスト・小型の機器にも端末側でのAI処理を持ち込むことを狙った製品です。9月4日から8日までベルリンで開かれるIFA 2026の同社ブースで、両プロセッサーを載せたモジュールが展示されます。

クラウドに投げずに端末側で判断する

今回の2製品に共通する考え方は、機器がデータを認識し、分析し、その場で動作する、という一連の処理を端末側で完結させることです。カメラの映像やセンサーの値をいちいちクラウドに送って結果を待つのではなく、機器の中で処理を終える設計になっています。ネットワークが不安定な環境でも動作が止まりにくく、遅延も小さく抑えられます。

Qualcommでこの分野を統括するJeff Arnold氏は、AIが機器の設計と展開のあり方を根本から変えつつある一方で、多くの製品分野ではコストや複雑さ、部品の統合が壁になっていると説明しています。従来なら別々のチップを複数並べて実現していた機能を1つに集約することで、基板を小さくし、部品コストを下げ、開発期間を短くする、というのが両製品の狙いです。

民生・商業向けのQ-2390

Dragonwing Q-2390は、既存のDragonwing Q2シリーズに加わる民生・商業向けのモデルです。アプリケーション処理、端末側AI、カメラと画面の入出力、LTE Cat 4とGPS、有線・無線の各種接続、セキュリティ、豊富な入出力端子を1つのプラットフォームに統合しています。

想定用途として挙げられているのは、小売店のPOS端末やキオスク、入退室管理機器、スマート家電、スマート農業、家庭用ロボット、フィットネス機器、企業向け端末などです。厳しいコスト、消費電力、サイズの制約の中で、これまでより高度な機能を載せた製品を作れるようにすることが目的です。LTE Cat 4を内蔵した「Q-2390M」というバリエーションも用意され、ローカルネットワークの外に置く機器でも単体で通信できます。

産業向けのIQ-2390は新シリーズの第1弾

一方のDragonwing IQ-2390は、新設された「Dragonwing IQ2シリーズ」の最初の製品です。既存のIQ10、IQX、IQ9、IQ8、IQ6の各シリーズを補完する位置づけで、産業用オートメーション、石油・ガス、電力・エネルギーといった分野の小型エッジ機器を対象にしています。

産業用らしい特徴は接続と耐環境性にあります。機械同士のタイミングを揃える時刻同期ネットワーク(TSN)に対応したギガビットイーサネットを2系統備え、動作温度範囲はマイナス30度からプラス115度まで対応します。振動や衝撃を受ける環境での動作も考慮されており、工場の生産ラインやエネルギー設備、屋外の産業機器での利用が想定されています。具体的な用途としては、操作パネル(HMI)、PLC、ゲートウェイ、産業用ビジョンシステム、ビル管理、エネルギー管理などが挙げられています。

共通の中身と開発環境

両製品の基本構成は共通で、Kryoブランドのクアッドコア CPU(Arm Cortex-A78を1基とCortex-A55を3基、最大1.9GHz)、Adreno 704 GPU、最大1.1 TOPSのHexagon NPUに加え、リアルタイム処理用のRISC-VマイコンをSoCの中に持ちます。メモリはLPDDR4xで最大8GBです。アプリケーション用のコアではAndroid、Yocto Linux、Ubuntuが動き、RISC-VのコアではZephyr RTOSが使えるため、画面表示や機械学習の処理と、厳密な応答時間が求められる制御処理を1チップ内で分担できます。

すでにFibocomがQ-2390を使ったスマートモジュール「SC236」を開発中と表明しているほか、SECOやEngicamがIQ-2390を載せたシステムオンモジュールや基板を準備しています。Qualcommによると、両製品は早期アクセスプログラムを通じてすでに一部の顧客に提供が始まっており、開発者向けの評価キットは2027年初頭に提供される見込みです。

まとめ

Dragonwing Q-2390とIQ-2390は、高性能なフラッグシップではなく、これまでAI処理を載せにくかった価格帯やサイズの機器にAIと画像認識、通信を持ち込むための製品です。民生・商業向けのQ-2390と、広い温度範囲と時刻同期ネットワークを備えた産業向けのIQ-2390という2本立てで、家庭のロボットから工場の制御盤までを同じ設計基盤で作れるようにする構成になっています。実機を載せたモジュールはIFA 2026で展示され、評価キットの提供は2027年初頭が予定されています。