分析用データベースDuckDBの開発元であるDuckLabsが、Amazon Web Services(AWS)の傘下に入ります。最終契約はすでに締結済みで、発効は2026年9月上旬の見込みです。ただし買収されるのは会社であって、DuckDB本体ではありません。オープンソースの権利は非営利のDuckDB Foundationが持ったままで、MITライセンスも変わらないと明言されています。
買われたのは会社、渡っていないのはコード
今回の発表でまず押さえておきたいのは、取引の対象範囲です。AWSが取得するのはオランダ・アムステルダムに拠点を置くDuckLabsという企業と、そこに所属するエンジニアリングチームです。DuckDBそのもの、そして関連プロジェクトのDuckLakeやQuackを含むいわゆるDuck Stackは、引き続きDuckDB Foundationが管理します。ライセンスも従来どおりMITのままで、利用者側で必要になる手続きは何もありません。
企業買収でオープンソースの扱いが宙に浮く例は珍しくないため、この線引きが最初に示された意味は小さくないはずです。財団に知的財産を預ける構造は、2021年にDuckLabsがオランダ国立数学・情報科学研究所(CWI)からスピンオフした時点で用意されていました。5年前の設計が、そのまま今回の安全弁として機能した形です。
CWIでデータベースアーキテクチャ研究グループを率い、DuckDB Foundationの理事も務めるPeter Boncz氏は、財団がすべての知的財産を保持し続けることをあらためて説明したうえで、AWSがオープンソース版DuckDBの発展に取り組む姿勢を評価しています。
1日100万ダウンロードが、30人の会社の限界を超えた
DuckLabsが自ら語る売却の理由は、成長への不安ではなく、成長そのものへの対応でした。同社によればDuckDBのダウンロードは1日あたり100万回を超えており、データ探索から製品の内部処理、教育、研究まで用途が広がっています。
一方でDuckLabsは、外部資本を入れずに創業メンバーと開発チームが株式を保有する形を5年間続けてきました。アムステルダムで30人規模まで育ちましたが、技術優先で身軽に動ける体制は、裏を返せば販売・サポート・運用を大きく抱えられない体制でもあります。創業者のHannes Mühleisen氏とMark Raasveldt氏は、自分たちの会社がプロジェクトのボトルネックになりかねないこと、営業組織を膨らませれば技術とコミュニティから注意が逸れることを懸念していたと振り返っています。
この2人は買収後もアムステルダムに残り、チームとオープンソースプロジェクトの技術的な方向づけを引き続き担当します。人が抜けて名前だけが残る買収ではない、という点は明示されています。
下地は2年前のS3 Tablesにあった
AWS側の説明では、両者の協業は2024年にさかのぼります。表に出た成果としては、2025年3月に公開されたAmazon S3 Tablesへの対応プレビューが分かりやすい例です。
Amazonのバイスプレジデント兼ディスティングイッシュト・エンジニアであるAndy Warfield氏は、DuckDBがS3の顧客に広く使われ、支持されている点を挙げたうえで、2年ほど一緒に手を動かしてきた経験がこの判断につながったと述べています。データレイク側の基盤を持つAWSと、手元で完結する高速な分析エンジンを持つDuckLabsという組み合わせは、技術的な接点が最初からはっきりしていました。
外部の反応も比較的落ち着いています。DuckDBをクラウドサービス化しているMotherDuckのCEOであるJordan Tigani氏は、Amazonが後ろ盾になることでエコシステムが強くなるとの見方を示し、FivetranのCEOであるGeorge Fraser氏も、特定ベンダーに寄らないデータスタックの中心という位置づけをAmazonなら維持できるとコメントしています。いずれもDuckDBの上でビジネスを組み立てている側からの発言である点は、割り引いて読む必要はあるでしょう。
これから決まること
すでに公表されている計画もあります。DuckDB Foundationには技術諮問委員会が設けられ、コミュニティの主要な開発者がプロジェクトの技術的方向性に意見を出せるようになります。また拡張機能まわりでは、DuckLabs以外の開発者や組織が署名した拡張をDuckDB上で実行できるようにする方針が示されました。単一企業がゲートキーパーになる構造を、買収と同時に緩めようという動きです。
一方で、買収金額を含む取引条件は公表されていません。取引は通常の完了条件を満たしたうえで発効する段階にあり、統合後の具体的なサービス像についても「発効後に共有する」とされたままです。AWSがDuckDBをマネージドサービスとしてどう出してくるのか、あるいは既存の分析サービスの内側に静かに組み込むのかは、現時点では読み切れません。
まとめ
AWSがDuckDBの開発元DuckLabsを買収し、2026年9月上旬に発効する見込みです。買収対象は会社とチームであり、DuckDB本体はDuckDB FoundationのもとでMITライセンスのまま維持されます。創業者2人はアムステルダムに残って技術面を主導し、財団には技術諮問委員会が新設され、拡張機能の署名も外部に開かれます。焦点は、AWSがこの技術を自社サービスにどう組み込んでくるかに移りました。
