9月1日付でAppleの最高経営責任者がJohn Ternusに代わりました。15年にわたってCEOを務めたTim Cookは執行会長へ退き、取締役会の顔ぶれも同じ日に組み替わっています。Steve Jobsから引き継いだ2011年以来となる交代であり、しかも引き継ぎの中身は製品ではなくAIという、Appleにとって珍しく分の悪い領域から始まります。
交代は4月に予告され、9月1日にそのまま発効した
この人事はもともと4月20日に公表されていたもので、取締役会の全会一致で承認された長期の後継者計画の結果とされています。Cookは夏の間もCEOの座にとどまり、Ternusとの引き継ぎ作業を続けたうえで、予告どおり9月1日に交代しました。
同じ日に動いたのは肩書だけではありません。15年間にわたって非執行会長を務めたArthur Levinsonは筆頭独立取締役へ移り、Ternus自身も取締役会に加わっています。Cookは執行会長として、各国の政策当局との折衝など一部の業務を引き続き担います。会社を離れるわけではなく、外向きの役回りに軸足を移した形です。
ハードウェアの人がトップに立つ
Ternusは2001年に製品デザインチームの一員としてAppleに入り、2013年にハードウェアエンジニアリング担当バイスプレジデント、2021年に同シニアバイスプレジデントとして経営陣に加わりました。Apple入社前はVirtual Research Systemsで機械エンジニアとして働いており、ペンシルベニア大学で機械工学の学士号を取得しています。技術畑をまっすぐ登ってきた経歴です。
手掛けてきた製品の幅も広く、iPadとAirPodsという新しい製品ラインの立ち上げに関わり、iPhone・Mac・Apple Watchの世代交代を通してハードウェア開発を統括してきました。直近ではiPhone 17とiPhone 17 Pro、そして薄型のiPhone Air、Macでは新しいMacBook Neoの投入がその手による成果です。Apple Watch Ultra 3での3Dプリントチタンの採用や、複数の製品ラインへ展開したリサイクルアルミニウムの新合金など、素材と製造技術の側からの改良も彼のチームが押し進めてきました。
供給網の運用に長けたCookから、製品そのものを作ってきたTernusへ。トップの出自が変わることの意味は、今後の製品の作り方にじわじわ効いてくるはずです。
Cookが残した数字
15年の在任期間で会社の規模は桁が変わりました。時価総額は就任時のおよそ3,500億ドル(約56兆円)から4兆ドル(約640兆円)へと1,000パーセント超の伸びを記録し、年間売上高は2011会計年度の1,080億ドル(約17兆円)から2025会計年度には4,160億ドル(約67兆円)超へ、ほぼ4倍になっています。
※1ドル160円換算(2026年8月31日時点)
事業の広がりも同様です。展開国・地域は200を超え、直営店は500店舗以上、稼働中のデバイスは25億台を突破しました。従業員は10万人以上増え、Apple Watch、AirPods、Apple Vision Proといった新カテゴリーと、iCloudからApple Payまでのサービス群が加わっています。サービス事業だけで1,000億ドル(約16兆円)超という規模は、単体でも大企業に相当します。Apple silicon への移行を決めたのもこの時期で、2015年比で60パーセント超のカーボンフットプリント削減も同時に進めました。
引き継ぐ側にとっては、これがそのまま比較対象になるという厳しさもあります。
最初の関門は9月9日にやってくる
Ternusが引き継ぐ課題として最も分かりやすいのが生成AIです。Siriの刷新が遅れ、AI部門では幹部の入れ替えが続いたと伝えられており、新しいSiriの基盤にはGoogleのGeminiを採用し、年間およそ10億ドル(約1,600億円)を支払ってカスタム版のライセンスを受ける契約を1月に結んだとも報じられています。自社で組み上げることにこだわってきた会社が、中核の音声アシスタントで外部の技術を土台に据える判断です。
その成果が問われるのが、9月9日に予定されている「Surprise and Shine」と題したイベントです。新しいSiriのお披露目に加え、折りたたみ式iPhoneを含む新しいiPhoneの発表も見込まれており、CEO交代からわずか8日でいきなり本番が来ます。経営陣の再編もまだ途中とされ、Cook体制を支えた幹部の退任が続いている点も、当面の不安要素として残ります。
まとめ
CEO交代そのものは4月に決まっていた予定調和の出来事ですが、9月1日に始まったTernus体制が向き合うのは、Appleがここ数年で最も出遅れた分野です。ハードウェアで結果を出してきた人物が、ソフトウェアとAIの立て直しをどう指揮するのか。その最初の答え合わせは、就任から8日後の9月9日に用意されています。
