中国のx86系プロセッサ大手Zhaoxin(兆芯)が、2026年7月8日に開かれた「2026上海情報技術応用創新産業発展論壇」で、独自の命令セット「ZX86」を軸にしたAI向け製品群を公開しました[1]。サーバー用の96コアCPU「開胜(KaiSheng)KH-50000」から端末用の「開先(KaiXian)KX-7000」まで、クラウドからエッジ、端末までを国産チップでそろえる構えを示し、中国が進める情報技術の国産化(信創)の広がりを印象づけました。
上海のフォーラムで示した「信創」の現在地
今回の舞台となったのは、「深耕信創生態、共赴数智新程」をテーマに開催された地域フォーラムです。その中のAI分科会では、国産の演算基盤、自主開発の大規模言語モデル、AIエージェントといったテーマが議論され、Zhaoxinは自社プロセッサのAI分野での取り組みを紹介しました[1]。
ここでいう信創(信息技術応用創新)とは、中国が官公庁や国有企業のIT基盤を国産の半導体・OS・ソフトウェアへ置き換えていく政策の総称です。フォーラムでは、Zhaoxinの演算基盤を土台に据えた「上海国資信創実験室」の新バージョン2.0も発表されました。これは上海市の国有企業のデジタル化を支援する窓口で、複数の国産チップを1つのクラウドで束ねる「一雲多芯」の考え方に立ち、適合検証やローコード開発、AIエージェント応用などを提供するとしています[1]。
Zhaoxinは、こうした公共分野の需要を自社チップの主要な販路と位置づけています。安全性の高いデータセンターと組み合わせ、行政や金融など「間違いが許されない」現場に国産の演算基盤を広げようという狙いが読み取れます。
独自命令セット「ZX86」の正体
Zhaoxinが強調したのが、自前で整えた命令セット「ZX86」です。同社はこれを「自主不封闭、兼容不依附、面向新応用(自前だが閉じておらず、互換性はあるが依存はしない)」と表現し、外部のライセンスに縛られずにCPUを改良し続けられる体制だと説明します[1]。
もっとも、Zhaoxinがx86互換のCPUを作れるのには背景があります。同社は台湾のVIA Technologiesと上海市系の資本による合弁として設立され、VIAが持つx86-64のライセンスを引き継いでいます[3]。つまりゼロからの独自アーキテクチャではなく、x86資産を土台にしながら国産化と自主管理を進めている点が特徴です。ZX86には、中国の国家標準暗号であるSM2/SM3/SM4/SM9を高速処理する命令なども組み込まれています[2]。
96コアの「KH-50000」から端末まで、雲から端への製品群
製品群の中核が、サーバー向けの「開胜KH-50000」です。海外の技術メディアが伝えた仕様によれば、最大96コアを複数のチップレットに分けて1つのパッケージに収め、最大384MBのL3キャッシュ、12チャネルのDDR5-5200メモリ、128レーンのPCIe 5.0に対応します。2ソケットや4ソケット構成にも対応し、AMDのEPYCやIntelのXeonといったサーバー用CPUに正面から挑む構成です[2]。
一方、端末向けの「開先KX-7000」は8個のCPUコアを積み、動作周波数は最大3.7GHz前後、DDR5メモリに対応するデスクトップ向けチップです[3]。この2製品を両端に、Zhaoxinはクラウド、エッジ、端末までをカバーするZX86の製品ラインを組み上げたことになります。
会場では、パートナー企業と組んだAI製品も並びました。Lenovo(联想)の「開天」ブランドは、KX-7000を積んだ1リットル級の超小型AI端末を出展し、Zhaoxinらの説明では最大640 TOPS/リットルという高い演算密度で、ローカルで動くAIモデルに対応するとしています。ほかにも、ZhaoxinのCPUと国産GPUのIluvatar CoreX(天数智芯)、そして国産の銀河麒麟(Kylin)OSを組み合わせたオールインワン機や、液冷式のAI推論ワークステーション、KH-50000を積んだサーバーなどが公開されました[1]。Seewo(希沃)やZTE(中兴)といった企業も、ZX86搭載のノートPCや一体型端末を展示しています。
まとめ
Zhaoxinは今回、独自命令セットZX86を軸に、96コアのサーバーCPU「KH-50000」から端末向けの「KX-7000」までをそろえ、クラウドから端末までを国産チップで賄う体制を打ち出しました。性能面では最新のAMDやIntel製品と単純に肩を並べるとは限らず、演算密度などの数値は現時点でメーカーやパートナー側の説明にもとづく点には留意が必要です。それでも、CPUからOS、GPU、AIモデルまでを国産でそろえようとする動きは着実に形になりつつあり、中国の「信創」がサーバー領域まで広がってきたことを示す一例と言えそうです。
出典[1]:https://www.zhaoxin.com/news_view.aspx?nid=2&typeid=289&id=2051
