翻訳デバイスを手掛けるTimekettleが、AI通訳イヤホンの新モデル「W4 Plus」を9月6日に米国で発売しました。対面の会話だけでなく、通話や動画の音声までまとめて訳せるのが特徴で、価格は月額課金と組み合わせる299ドル(約4万7,000円)と、追加費用なしで全機能が使える379ドル(約5万9,000円)の2種類が用意されています。
会話・通話・動画の3方向をひとつのイヤホンで
W4 Plusが扱う場面は4つに整理されています。イヤホンを片方ずつ分け合って向かい合う「2人会話」、両耳で装用して講演やツアーガイドの内容を一方向に聞く「オンサイト リスニング」、電話やオンライン会議の相手と双方向に訳し合う「通話翻訳」、そして動画や音声コンテンツに字幕と訳した音声を重ねる「メディア翻訳」です。
このうち通話翻訳とメディア翻訳は、相手側に何かを用意させないという点が実用上のポイントになります。相手が同じイヤホンを持っている必要はなく、装着しているのは自分だけで成立します。対応するのは電話のほか、WeChat、Zoom、Microsoft Teams、DingTalk、WhatsAppなど。メディア翻訳はYouTubeやNetflix、Amazon Prime Videoといった配信サービスの音声に対応します。
通話翻訳では原音と訳した音声の音量を別々に調整でき、ファームウェアを更新すると、相手に自分の元の声を聞かせない設定も選べます。訳した声だけを届けたいときに使う機能です。
翻訳基盤は「Babel OS 3.0」に世代交代
W4 Plusの中身で最も大きく変わったのは、Timekettleが自社開発する翻訳基盤の「Babel OS 3.0」です。音声認識から出力までを一貫して扱う仕組みで、翻訳の推論部分に大規模言語モデル(LLM)を据えたことにより、前世代比で30パーセント以上の精度向上を主張しています。言い直しや口語的な言い回しを含む長い文でも、直訳のままではなく自然な言い回しに整えてから出力する設計です。
もうひとつ、W4 Plusでは翻訳の「速さ」と「正確さ」を画面上のタップ1回で切り替えられます。速さ優先のモードは注文や道案内のようなやり取り向けで、正確さ優先のモードは文が終わるのを待ってから文脈込みで訳すため、商談や会議に向くという整理です。会話を止めずに切り替えられるので、場面が変わったところで押し直せば済みます。
骨伝導とVoiceFocusで、小声でも拾う
音を拾う側の作りも見どころです。W4 Plusは骨伝導の声紋センサー1基と空気伝導マイク2基を組み合わせ、頭蓋の振動から話者の声を取り出します。ここに「VoiceFocus」と名付けられたノイズリダクションのアルゴリズムが乗り、周囲の音と自分の声を分離します。
Timekettleは自社ラボでの実測として、静かな場所や小声で話したときの誤り率が32〜47パーセント下がったとしています。W3世代と比べた認識精度の向上は25パーセント、中国語と英語の翻訳では92パーセントの精度という数字も併せて示されました。展示会場や飲食店のように騒がしい場所で、声を張らずに済むことを狙った構成です。
なお骨伝導による集音が働くのは翻訳モードのときだけで、通常の通話や音楽再生では動作しません。
AI機能は3種類、専門分野の用語にも寄せる
AI関連では3つの機能が追加されました。1つ目の「AI Specialized Translation」は、テック・インターネット、製造・産業、新エネルギー、バイオ・製薬といった分野を指定すると、その領域の用語に合わせて訳し方を切り替えるものです。2つ目の「AI Conversation Memory」は、長い議論の中で用語や人名、言い回しの一貫性を保つ働きをします。ただし文脈を保持するのは進行中のセッションの間だけで、会話が終われば引き継がれません。3つ目の「AI Live Summary」は、訳した会話から要点を抜き出して議事メモの形に整えます。
これらのAI機能は、379ドルの買い切り版なら追加費用なしで使えます。299ドル版では7日間の無料試用が付き、その後は月額14.99ドル(約2,300円)の契約で解放される形です。契約しない場合でも、2人会話とオンサイト リスニングは制限なく使い続けられます。
オフラインは13ペア、日本語も対象
通信が使えない場所向けに、13の言語ペアがオフラインで動きます。中国語と英語をそれぞれ軸に、日本語・韓国語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・ロシア語との組み合わせが用意されており、パックはすべて無料でダウンロードできます。日本語話者にとっては、英語と中国語との行き来がネットワークなしで完結する点が現実的な利点になりそうです。
ただしオフラインで使えるのは2人会話とオンサイト リスニングまでで、通話翻訳とメディア翻訳、そして前述の3つのAI機能はいずれもクラウド処理が前提となります。オンライン時の対応言語は52、アクセントは106で、英語だけで14、スペイン語で20、アラビア語で15の地域差を区別します。
プライバシー面では、GDPRとFERPAへの準拠を掲げ、会話内容を保存せず学習にも使わないと説明されています。
バッテリーと携帯性
連続翻訳は音量50パーセントで3時間超、音楽再生なら6時間です。充電ケースを含めると翻訳12時間、音楽18時間まで伸びます。イヤホン本体はおよそ50分、ケースはType-Cで約1時間半で満充電になり、待機状態なら6か月ほど保つとされています。
重さはイヤホン片側5.7グラム、ケースを含めた合計で116.5グラム。カラーはSpace Black、Midnight Blue、Sandy Goldの3色です。
まとめ
W4 Plusは、対面の会話から通話、動画の音声までを1組のイヤホンで訳す構成に、Babel OS 3.0と骨伝導集音を組み合わせた通訳機です。オンライン52言語・106アクセント、オフライン13ペアという守備範囲に加え、専門分野の用語切り替えや議事要約といったAI機能が乗ります。月額を払うかどうかで299ドルと379ドルに分かれる売り方は分かりやすい反面、長く使うほど買い切り版が有利になる設計とも言えます。米国ではTimekettleの公式サイトとAmazonで販売が始まっており、日本での取り扱いについては現時点で個別の案内は出ていません。
※1米ドル=156円で換算(2026年9月6日時点)
