DFRobotが、Apple Vision Pro向けアプリの開発者に向けた手持ち型の空間入力デバイス「seeMote Cube」を発売しました。一辺56mmの立方体に6自由度の位置・姿勢トラッキング、6個のプログラマブルボタン、振動による触覚フィードバックを詰め込んだ製品で、価格は299ドル(約4万7000円)。在庫あり扱いで、1人あたり5個までの購入制限が付いています。
※1ドル157円換算(2026年8月1日時点)
視線と手だけの操作に「握れる入力」を足す
Apple Vision Proの標準的な操作は視線と手のジェスチャーです。見て、指をつまむ。この方式は特別な道具を必要としない代わりに、対象を細かく動かしたり、確定と取り消しを素早く切り替えたりする場面では手数が増えます。3Dモデルを回して確認する、点検の履歴を1つずつ確定していく、といった業務寄りの用途で物足りなさが出るのはこのあたりです。
visionOS 27にはApple自身が空間アクセサリーを扱う仕組み(Spatial Accessory API)を用意しており、外部デバイスの位置と姿勢をアプリ側から読み取れます。Appleの空間アクセサリー基盤は慣性センサーと赤外線トラッキングを組み合わせ、最大90Hzで低遅延の6自由度測位を行う設計で、暗い場所でも追従します。seeMote Cubeはこの受け皿に載る形で作られた既製ハードウェアで、コントローラーを自作せずに物理入力の試作へ進めるのが売りです。
DFRobotは深センを拠点にオープンソースハードウェアを手掛けるメーカーで、今回の製品はAppleとの提携品ではありません。同社は公式サイトでApple Inc.との関係がないことを明記しています。
56mm角の立方体に6ボタンと振動モーター
本体は56×56×56mmの正六面体で、重さは97.3g。てのひらに収まる大きさで、握ったまま動かす、回す、傾けるという操作をそのまま仮想オブジェクトやポインター、ハンドル、仮想ツールの位置と向きに割り当てられます。
ボタンは筐体の各面に6個配置され、ロゴ、十字、三角、四角、星、六角形の記号で区別されます。役割はハードウェア側で固定されておらず、選択、確定、取り消し、モード切り替え、シーンのリセット、仮想ツールの起動などをアプリが自由に定義する形です。内蔵の振動モーターも同様で、選択時、接触時、境界の検出、警告やエラー、作業の完了といったイベントに合わせて振動パターンを鳴らせます。
主なスペックは以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 製品名 | seeMote Cube(型番 DFR1280) |
| 対応プラットフォーム | Apple Vision Pro / visionOS 27 |
| トラッキング | 6DoF、360度で死角なし |
| 動作環境 | 明るい室内から暗闇まで対応 |
| 物理ボタン | プログラマブル6個 |
| 触覚フィードバック | 振動モーター |
| 通信 | Bluetooth |
| バッテリー | 500mAh/3.7V(充電式) |
| 充電 | USB Type-C(5V) |
| API/SDK | Apple Spatial Accessory API/Swift |
| 外形寸法 | 56×56×56mm |
| 重さ | 97.3g |
トラッキング範囲についてDFRobotは360度で死角がないとし、明るい環境から完全な暗闇まで動作すると説明しています。ただし同社のWikiでは直射日光下が除外されており、屋外での追従性能は示されていません。屋内での利用を前提に見ておくのが妥当でしょう。本体には3個のインジケーターがあり、Bluetoothの接続状態、充電中、バッテリー残量の低下を知らせます。同梱物はCube本体、USB Type-Cケーブル、クイックスタートガイドの3点です。
サンプルコードとUSDZモデルが最初から付く
この種のデバイスで手間がかかるのは、実は開発側の受け入れ準備です。AppleのAccessoryTrackingProviderを使うには、アクセサリーをトラッキング可能な状態に整え、リファレンスアクセサリーファイルをアプリへ組み込む作業が必要になります。
seeMote Cubeはここを埋めるための素材を同梱しています。.referenceaccessoryファイル、USDZモデル、統合ガイド、そしてGitHubで公開されているSwift製のサンプルアプリ「seeMoteViewer」です。サンプルはGCSpatialAccessoryとして接続されたデバイスを検出し、AccessoryTrackingProviderからアンカーを取得して、Cubeの位置と紐付いた3Dモデルをミックスドイマーシブ空間に表示する、という一連の流れを実装した形になっています。
デモとして入っているのが火星探査車のモデルで、27個の可動パーツを持ち、分解表示と収納表示のアニメーションを切り替えられます。Cubeに紐付いたモデルだけを動かすことも、空間に置いた複製側と同時に動かすこともできます。触覚はCHHapticEngine、描画はRealityKit、セッション管理はARKitという構成で、Bluetoothアクセサリーの監視やモデル読み込み、シーン状態の管理といった部品も一緒に読めます。
実機で動かすには、Apple Vision Pro本体に加えて対応するMac、Xcode 27ベータ以降、visionOS 27のSDKが必要です。注意したいのは権限周りで、Appleの高度なアクセサリートラッキングのエンタイトルメントは既定では含まれておらず、関連機能を実機で使う前に申請して取得する必要があるとリポジトリに記載されています。
想定用途は点検・ロボット・モデルレビュー
DFRobotが挙げる用途は業務寄りです。デジタルツインの空間を決められたチェックポイントに沿って移動しながら状態を確認し、所見を物理ボタンで確定していく空間点検。ロボットの動作経路を6自由度の実体をリファレンスに見直し、ウェイポイントを置いて動きの妥当性を確認するレビュー。複雑なモデルを1層ずつ切り替えて眺めるレイヤー単位の確認。いずれも「見るだけ」で終わらない作業で、Cubeの動きが視点や対象の姿勢を担い、ボタンが確定やコマンド実行を担う分担になります。
シリーズにはもう1つ、物理的な工具などに後付けして6自由度の動きをvisionOSアプリへ持ち込む取り付けモジュール「seeMote Cap」が予告されており、こちらは2026年秋の登場予定です。Capは6DoFトラッキングとBluetooth、USB Type-Cのみで、ボタンと触覚フィードバックはCube側の機能という切り分けです。
299ドルという値付けは、IMU、赤外線マーカー、無線、ボタン、振動、電源管理、筐体、そしてvisionOSとの接続資材を自前で揃える手間と比べてどうか、という物差しで見る製品です。量産品向けのコントローラーではなく、あくまで開発と検証のための道具という位置付けになります。
まとめ
seeMote Cubeは、Apple Vision Proの空間アクセサリー対応を前提に作られた56mm角の手持ち入力デバイスです。6自由度トラッキング、6個のプログラマブルボタン、振動フィードバックに加えて、サンプルコードとUSDZモデル、リファレンスアクセサリーファイルまで揃っており、物理入力の試作をすぐ始められる構成になっています。価格は299ドル、購入は1人5個まで。実機で試すにはVision Pro本体とXcode 27ベータ以降、そしてAppleへのエンタイトルメント申請が必要な点は先に押さえておきたいところです。
