Samsung SDSが9月8日、ソウルのCOEXで開いた年次カンファレンス「REAL Summit 2026」で、ロボットトランスフォーメーション(RX)事業への参入を明らかにしました。2027年には、工場の生産設備と複数種類のロボットを1つのシステムとして動かすロボットオーケストレーション基盤を投入します。OpenAIやAnthropicとの提携も同時に示され、同社の主戦場がソフトウェアから製造現場そのものへ広がろうとしています。
導入率88パーセント、利益貢献6パーセントという落差
CEOのLee Jun-hee氏は基調講演で、AIトランスフォーメーションを、時間やコストを削るためにAIを導入することよりもはるかに根本的な変化だと位置づけました。既存の業務手順の一部をAIで改善するのではなく、働き方をゼロから設計し直すこと。顧客から依頼される前に動ける会社に変わること。AIは仕事のやり方を変えるが、AIトランスフォーメーションは事業そのものを変える、という整理です。
その根拠として挙げたのがMcKinsey & Companyの調査でした。世界の企業の88パーセントが業務プロセスに何らかのAIを導入している一方、利益に意味のある貢献があったと答えたのは6パーセントにとどまります。Lee氏はこの落差を埋める要素として、業務プロセスの再設計、AIが扱える形に整えたデータの確保、複数のAIエージェントの運用最適化という3点を挙げました。REAL Summit 2026には、現地とオンラインを合わせて15,000人を超える参加者が集まっています。
ロボット同士をぶつけない経路設計が基盤の中核
RX事業の中心に据えられるのが、2027年に投入予定のロボットオーケストレーション基盤です。梱包、組み立て、搬送といった別々の作業を担うロボットが互いに衝突しないよう、最適な移動経路を設計するのが中核機能になります。さらに故障をリアルタイムで検知し、他のロボットへ作業を割り振り直すことで、1台の停止が工場全体を止めてしまう事態を避ける設計です。
土台にあるのは、すでに動いている製造現場との接点です。Lee氏は、25年にわたって半導体、二次電池、バイオの分野で430社を超える製造業の顧客に、製造実行システム(MES)や設備・物流の自動化を提供してきたと述べています。ロボットを新たに売り込むのではなく、稼働中の生産ラインの上に制御の層を1枚重ねる発想と言えます。
Digital Factory事業部のJoseph Ahn氏は、まずSamsungの製造系関係会社を含む現場の自動化需要を狙い、汎用ロボットの性能を検証したうえでグローバル展開も検討すると説明しました。会場のブースでは、Samsungの関係会社であるRainbow Roboticsや、中国でロボットハンドを手がけるWuziのロボットを動かすソリューションが展示されています。
Team REXにトヨタ系のWalden Robotics
RXを支える枠組みとして発表されたのが、フィジカルAI企業10社が参加する提携体制「Team REX(Robotics Excellence)」です。Rainbow RoboticsやWalden Roboticsが名を連ねます。
Walden Roboticsは、トヨタ自動車のToyota Research Instituteに在籍していた研究者が立ち上げた企業で、製造や物流の現場で実際に働く汎用ロボットを掲げています。3億ドル(約460億円)を調達して発足し、評価額は11億ドル(約1,700億円)に達しました。トヨタ自動車とDeviation Capitalが主導したこのラウンドには、NVIDIA、Boeing、Samsung Venturesも参加しています。Samsung SDSは同社と戦略投資および協業の契約を結び、製造現場での活用事例を共同で洗い出す計画です。
※1米ドル=154円換算(2026年9月8日時点)
Walden RoboticsのCEOであるRuss Tedrake氏はビデオメッセージで、フィジカルAIは製造業の革新を牽引する技術であるものの、実際の生産現場に適用して測定可能な成果を出すには大規模な現場展開の能力と業務理解が欠かせないと述べました。その領域で最も高い能力を持つ相手として、Samsung SDSとの提携を歓迎するとしています。
OpenAIとAnthropic、韓国勢の先陣を切る立ち位置
モデル側の提携も厚みを増しています。Samsung SDSはOpenAIのDaybreak Partner Programに、パイロットパートナーとして参加します。Daybreakは、認定された限られたパートナー企業にOpenAIの最先端モデルへのアクセスを与え、サイバーセキュリティ上の脆弱性を検証させる取り組みです。
同社は韓国で初めてChatGPT Enterpriseの導入コンサルティングを認められたパートナーであり、7月にはAnthropicと戦略提携を結んだ韓国初の企業にもなりました。Lee氏は記者会見で、OpenAIとAnthropicはいずれもパートナー企業のセキュリティ能力を重視していると説明し、Daybreakのパイロットに選ばれたことで自社による検証や顧客先で使われるソフトウェアの評価が可能になると述べています。韓国産業全体のセキュリティ水準を引き上げる機会にもなる、という見立てです。イベントにはOpenAI KoreaのゼネラルマネージャーとAnthropic Koreaの代表が登壇し、OpenAIのSam Altman氏もビデオメッセージを寄せました。
まとめ
今回の発表で目を引くのは、ロボット単体ではなく、複数種類のロボットをどう束ねるかに賭けた点です。衝突の回避や故障時の割り振り直しという地味な機能こそ、現場でロボットの台数が増えたときに効いてきます。25年分のMES導入で積み上げた製造現場との接点を、そのまま制御の層へ延長できるかどうか。2027年の基盤公開までにTeam REXの10社とどこまで具体的な事例を積めるかが、最初の試金石になりそうです。
