中国のDeepSeekが2026年4月24日、新しい大規模言語モデル「DeepSeek V4」をプレビュー版として公開しました。総パラメータ数は1.6兆で、必要な部分だけを動かすMixture-of-Experts(MoE)構成を採ります。商用利用も認めるMITライセンスで重みを配りつつ、APIの料金は最上位のクローズドモデルのおよそ6分の1に抑えてきました。コンテキスト長は標準で100万トークンに達し、すでにHugging FaceとDeepSeekのAPIから使えます。V3の公開から484日ぶりの本命モデルで、「2度目のDeepSeekショック」と呼ぶ声も出ています。
効率で殴る路線、フロンティア級が一段安い価格帯に降りてきた
今回の公開でまず効いてくるのは価格です。上位のDeepSeek V4-ProはAPIで、入力100万トークンあたり0.435ドル(約71円)、出力100万トークンあたり0.87ドル(約143円)に設定されました。キャッシュが効いた入力なら0.003625ドル(約0.6円)まで下がります。
軽量なV4-Flashはさらに安く、入力100万トークンあたり0.14ドル(約23円)、出力100万トークンあたり0.28ドル(約46円)です。公式の価格表で比べると、最上位クラスのクローズドモデルであるGemini 3.1 Pro(20万トークン以下のプロンプトで入力100万トークンあたり2.00ドル、出力12.00ドル)に対して、V4-Proは入力で約5分の1、出力で約14分の1です。入力と出力の比率によって開きはありますが、全体としては最上位クラスのおよそ6分の1前後に収まります。性能を一気に無料化するわけではありませんが、これまで「高すぎて自動化を見送っていた処理」が採算に乗る余地は確実に広がります。
最上位に肉薄、ただし完勝ではない
ベンチマークの数字は、開放された重みのモデルとしては頭ひとつ抜けています。難度の高い情報探索を課すBrowseCompでV4-Proは83.4パーセントを記録し、上位のクローズドモデルに肉薄しました。大学院レベルの理系知識を問うGPQA Diamondでは90.1パーセント、ソフトウェア開発を模したSWE-Bench Proでは55.4パーセント、ツール連携を測るMCP Atlasでは73.6パーセントに達しています。
もっとも、直接比較できる指標の多くでは、依然として米国勢の最新の最上位モデルが前に出ています。DeepSeek V4は「すべての首位を奪った」というより、「近いところまで来たうえで圧倒的に安く、しかも重みが公開されている」点に価値があります。評価会社のVals AIは、独自のコーディング評価でV4を「開放モデルの1位で、しかも僅差ではない」と位置づけました。
100万トークンを支える新しい仕組み
V4の技術的な目玉は、標準で100万トークンという長いコンテキストを、現実的なコストで扱えるようにした点です。DeepSeekは、入力の次元を圧縮するCompressed Sparse Attention(CSA)と、長距離の依存関係のメモリを強く圧縮するHeavily Compressed Attention(HCA)を組み合わせたハイブリッド型のアテンションを採用しました。この結果、V4-Proは100万トークンで動かしても、前世代のV3.2と比べてKVキャッシュを10パーセント、1トークンあたりの推論計算量を27パーセントしか使わずに済むとしています。
1.6兆という規模を安定して学習させるため、一般的な残差接続に代えてManifold-Constrained Hyper-Connections(mHC)と呼ぶ接続方式を導入しました。層をまたいだ信号の流れを太くしつつ、学習が途中で崩れないように制御する狙いです。学習にはMuonオプティマイザを使い、32兆トークンを超える高品質なデータで事前学習したと説明しています。MoE構成により、1.6兆のうち実際に毎回動くのは490億パラメータだけで、これが計算量を抑えています。推論は、素早く返す「Non-think」、論理的に詰める「Think High」、限界まで考えさせる「Think Max」の3段階を切り替えられます。
脱NVIDIA依存も見据えた、開放的な配り方
モデル本体と同じくらい注目されたのが、周辺のソフトウェアです。DeepSeekは、専門家を分散させて動かすExpert Parallelismの仕組みを、NVIDIA製ではないHuaweiのAscend NPU上で検証したと明かしました。NVIDIA以外の環境で1.50〜1.73倍の高速化を達成したとしており、西側のGPU供給網や輸出規制に左右されにくい運用の道筋を示した形です。ただしV4の学習そのものには、正規にライセンスされたNVIDIA製GPUも併用したとしています。
あわせて、遅延に敏感な処理を最大1.96倍高速化するというMegaMoEのカーネルもオープンソースで公開しました。ライセンスは業界でも最も緩いMITで、改変も再配布も商用利用も無償で認められます。Claude CodeやOpenClaw、OpenCodeといった開発者向けエージェントとも最初から連携でき、既存のツールに組み込みやすくしています。
旧モデルは本日で退役、100万トークンが標準に
DeepSeekは古い世代の切り捨ても急いでいます。従来のdeepseek-chatとdeepseek-reasonerの窓口は2026年7月24日15時59分(UTC、日本時間25日0時59分)で完全に終了し、通信はすべてV4-Flashへ振り替えられます。100万トークン対応を全サービスの前提に切り替える、という宣言に近い動きです。
構図としては、規模の力任せではなく、アーキテクチャの工夫で先端の性能に近づけるという主張を、価格と公開の両面で突きつけた格好になります。閉じたモデルで高い利用料を取ってきた各社にとっては、性能の高さだけで割高さを説明しづらくなる展開です。
※1ドル164円換算(2026年7月24日時点)
参考: DeepSeek API Docs: Models & Pricing/DeepSeek-V4 Preview Release/Gemini Developer API pricing
まとめ
DeepSeek V4は、1.6兆パラメータのMoEと100万トークンのコンテキストを備え、MITライセンスで開放された最大級のモデルです。BrowseCompで83.4パーセントを記録するなど最上位のクローズドモデルに迫りつつ、APIの単価はそのおよそ6分の1に抑えました。HuaweiのAscend NPUでの検証やカーネルの公開まで含め、開発の主導権を「安く・開いた」側へ引き寄せる一手と言えそうです。旧モデルの窓口は本日で閉じられ、100万トークンが新しい標準になります。
