Appleが準備しているスマートグラスの投入時期が、後ろにずれ込む見通しだと報じられています。理由は技術的な完成度だけではありません。カメラを常時身につける機器に対する世間の警戒心と、プライバシーを看板にしてきた自社ブランドとの折り合いをどうつけるかで、社内が慎重になっているという内容です。
お披露目は2027年6月のWWDCという見立て
Bloombergのニュースレター「Power On」でMark Gurman氏が伝えたところによると、Appleのスマートグラスは2027年6月のWWDCで公開され、実際の販売開始はその年の後半になる見込みです[1]。当初は2026年後半のお披露目と2027年前半の発売が想定されていたため、半年から1年ほどの後ろ倒しということになります。
Appleは軽量・低価格版のVision Proの計画を棚上げし、拡張現実まわりのリソースをスマートグラスへ寄せているとも伝えられています。つまりこの製品は、Vision Proに続く「次の主役」として位置づけられているわけです。それだけに、出し方を間違えられないという事情もありそうです。
開発チームが挙げる最優先事項はプライバシー
Gurman氏によれば、Vision関連のハードウェア部門をはじめとする開発チームは、プライバシーを最優先事項に据えているとされます。既存製品には載っていない、ハードウェアとソフトウェアの両面にわたる新しい保護機能を検討しているという話です[2]。
背景にあるのは、カテゴリー全体に対する不信感です。職場や飲食店で目の前の相手がカメラ付きの眼鏡をかけていたとき、自分が録画されているのかどうかは分かりません。実際にはそうした心配が杞憂であるケースがほとんどでも、これまで積み重なってきた報道やSNS上の話題が、常時カメラそのものへの警戒につながっています。
Appleにとって厄介なのは、この不信感が他社製品によって形成されたものであっても、市場に入る以上は同じ目で見られるという点です。しかも同社は10年以上かけてプライバシー重視の評判を築いてきました。失うものが他社より大きい、という構図になります。実際、先行するMetaのスマートグラスは、2026年3月に米国でプライバシーを巡る集団訴訟の対象になっています[4]。
録画ランプの改ざん検知と、端末内で完結する処理
具体策として挙がっているのが、録画中を示すインジケーターランプの扱いです。ランプ自体はSamsungやGoogleが開発中の製品にも用意されていますが、Appleはさらに踏み込み、そのランプに細工された疑いを検知した場合には録画機能そのものを止める仕組みを検討しているとされています[3]。テープを貼って隠す、といった使い方を封じる発想です。
処理の場所についても方針が示されています。撮影した映像をデータセンターへ送るのではなく、できる限り端末側で処理を完結させる方向です。顔認識機能や、周囲を絶えず監視し続けるタイプの機能には手を出さない見込みとされています。加えて、社外の委託業者に映像を確認させることはせず、撮影された映像をAIモデルの学習に使うこともしない方針だと伝えられています。
このあたりは、競合が批判を浴びた部分をそのまま裏返した形と言えます。差別化の材料として分かりやすい反面、実装できなければ看板倒れになるため、開発側の負荷は小さくありません。
カメラを載せないという選択肢まで俎上に
最も思い切った案として、Gurman氏はカメラを一切搭載しないスマートグラスの可能性にも触れています。周囲を撮影できないぶんカテゴリーとしての魅力は削がれますが、通話や音楽再生、AIアシスタントへの問い合わせといった用途であれば、両手が空いた状態で使える機器としての価値は残ります。
その中間として、カメラのハードウェアは載せつつ、使い方に制限を焼き付けるという案もあるとされます。利用者の操作で写真や動画を撮ることはできず、カメラはあくまで周囲の状況をAIアシスタントに伝えるための入力に徹し、映像そのものは残さないという考え方です。見る機能は使えるが記録は残らない、という割り切りになります。
「撮られる側」の同意をどう扱うか
この問題は1社の努力だけでは片づきません。アナリストのMax Weinbach氏は、Gurman氏の記事を受けて「プライバシービーコン」という案を示しました。AirTagのような機器からBluetooth信号を発信し、自分が撮影されることを許可するか拒否するかを周囲のスマートグラスへ伝える仕組みです。拒否を選んでいれば、近くのスマートグラスが記録する映像では自分の全身にぼかしがかかる、というイメージになります[3]。
面白い発想ではありますが、実現には複数の企業と規制当局が同じ土俵に乗り、共通の規格として整備する必要があります。すぐに動く話ではないでしょう。それでも、こうした案が出てくること自体が、スマートグラスの課題が端末単体の設計を超えた領域にあることを示しています。
まとめ
Appleのスマートグラスは2027年6月のWWDCで公開され、同年後半に発売されるという見通しが伝えられています。遅れの一因はプライバシーへの対応で、改ざん検知付きの録画ランプ、端末内での処理、顔認識の見送り、外部委託による映像確認と学習利用の否定といった方針が検討されているとされます。カメラを載せない構成や、記録を残さないカメラという案まで挙がっている段階です。いずれもAppleが公式に認めた情報ではないため、仕様も時期も動く余地が残っています。
