Anthropicは、自社のAIモデルClaudeが細菌のDNA配列を解析する中で、CRISPRに似た特徴を持つ未知の酵素システムを自律的に発見したと発表しました。将来的には新しい遺伝子編集技術につながる可能性があるとして注目を集めていますが、科学的な意義については専門家の間で評価が分かれています。

950体のAIエージェントが21時間かけて発見

発見の舞台となったのは、Anthropicがサンフランシスコに新設した生物学研究ラボです。研究者らの指示を受けたClaudeは、約950体のエージェントを動員し、21時間にわたって大規模なDNA配列データベースを検索しました。この過程で消費したトークン数は2億1000万に達したとされています。

エージェントたちは逆転写酵素(RT)の新しい候補を探す任務を進める中で、あるRT遺伝子のすぐ隣に、等間隔で並ぶ反復配列のパターンを発見しました。この構造がCRISPRの反復配列と似た特徴を示していたことから、新たな酵素システムとして報告されることになりました。Anthropicはこのシステムを「array-associated reverse transcriptases(ART)」と名付けています。

CRISPRを思わせる「プログラム可能」な構造

ART系は、逆転写酵素そのもの、それに付随する相棒遺伝子、そして等間隔に並ぶDNA反復配列という3つの要素で構成されています。初期の実験では、この反復配列の部分から複数の短いRNAが生成されることが確認されており、CRISPRのように用途に応じて機能を変えられる「プログラム可能」な性質を持つ可能性が示唆されています。

CRISPRはもともと細菌が持つ免疫機構の一種で、DNAを切ったり貼ったりする技術として応用され、鎌状赤血球症やがんなど幅広い病気の治療に道を開いてきました。この技術を生物に応用する手法を確立したEmmanuelle Charpentier氏とJennifer Doudna氏は、2020年のノーベル化学賞を受賞しています。

賛否が分かれる専門家の評価

AnthropicのCEOであるDario Amodei氏は、SNS上でこの「分子マシン」が新しい遺伝子編集の仕組みを表す可能性があると述べたうえで、AIによる医療分野への貢献はまだ「始まりの段階」にあると強調しました。スタンフォード大学のバイオエンジニアリング准教授であるStanley Qi氏も、これまで見つけにくかった生物学的なパターンを認識し、体系的に調査へつなげたAIの能力を高く評価しています。

CRISPR研究の第一人者であるMITおよびBroad InstituteのFeng Zhang氏も、AIエージェントが生物学的発見に貢献する好例だと述べました。

一方で慎重な見方も出ています。ワシントン大学医学部の微生物学者であるKevin Blake氏は、CRISPRに似た反復配列自体は自然界に数多く存在しており、まだカタログ化されていない細菌種が無数にある以上、驚くべき現象とは言い切れないと指摘しています。同氏は、今回の発見が既存のCRISPR技術に代わるものや、治療・実用への応用につながることを示す根拠は現時点でないとも述べています。

まとめ

AnthropicはART系の具体的な機能についてはまだ特定できておらず、今後も検証実験を続ける方針です。今回の発表は、AIが科学研究のスピードを大きく引き上げる可能性を示す一方で、その成果をどこまで慎重に評価すべきかという課題も浮き立たせています。AIの安全性と可能性をめぐる議論が続く中、生物学分野での応用がどこまで広がるのか、今後の検証結果が注目されます。