フィラデルフィア小児病院(CHOP)が、NVIDIAが共同開発したオープンソースの医療画像AIフレームワーク「MONAI」を活用し、先天性心疾患を抱える子どもの心臓モデルを数秒で作成する取り組みを進めています[1]。従来は熟練研究者が4時間かけて行っていた作業をルーティン化し、全米20以上の小児病院に広がりつつあります[1]。
研究から標準治療へ、10年がかりの歩み
CHOPの心臓専門医Matthew Jolley氏は2015年の着任当時、成人向けの心臓弁モデリングツールはあっても、複雑で小さな小児の解剖構造に対応したツールがほとんど存在しなかったと振り返ります[1]。そこで同氏のチームは、3D医療画像を可視化・セグメンテーションするオープンソースソフトウェア「3D Slicer」を拡張した「SlicerHeart」をコミュニティと共同開発しました[1]。
CHOPの心臓モデリングサービスは、NVIDIAが共同創設したオープンソースの医療画像AIフレームワーク「MONAI」を基盤としています[1][2]。CT、MRI、3D心エコーといった既存の画像データから、解剖学的に精緻な心臓モデルを数秒で生成できます[1]。「MONAI Label」とNVIDIAの「Auto3DSeg」を用いてセグメンテーションモデルを学習させたことで、熟練研究者が4時間かけていた作業が数秒で完了するようになりました[1]。
先天性心疾患は全出生の約1パーセントで見られ、同じ症例は二つとないとされます[1]。過去には2度の修復手術が失敗していた症例で、3Dモデルが解剖構造を明確にし、3回目の手術で初めて成功した例も報告されています[1]。
Newtonが実現する、ほぼリアルタイムのデバイス適合シミュレーション
可視化だけでなく、実際にデバイスを体内に留置した際の挙動を事前に把握することも目標に掲げています[1]。そこで用いられるのが、NVIDIAの「Warp」を基盤とするオープンソース物理エンジン「Newton」です[1][3]。GPUアクセラレーションにより、従来は最大4時間、複数条件の比較では一晩がかりだったデバイスシミュレーションを、ほぼリアルタイムまで短縮しました[1]。臨床医は子ども一人ひとりの解剖に合わせて複数のデバイスの適合度を比較し、その日のうちに治療方針を決められるようになるといいます[1]。
CHOPはすでに、心臓の穴を塞ぐクロージャーデバイスへのWarp・Newton活用を始めており、今後はカテーテル型弁のシミュレーションへの応用も目指しています[1]。さらにNVIDIA Omniverseの技術を用いたデジタルツインの結合も開発中で、将来的にはVR環境や視覚言語モデル(VLM)を組み合わせ、臨床医が子どもの心臓の解剖を直感的に操作しながら検討できる仕組みを目指しています[1]。
オープンソースが切り拓く、小児心疾患医療の未来
米国では約240万人が先天性心疾患を抱えて生活しているとされますが、患者数が少なく症例も多様なため、従来の医療機器ビジネスの投資対象になりにくい領域でした[1]。Jolley氏は「オープンソースは、少人数かつ多様な集団に対して、通常の経済合理性の枠を超えた協力と前進を可能にする」と述べています[1]。
現在、SlicerHeartの技術は全米20以上の小児病院で導入されており、ボストン小児病院では年間約500件、全体の半数以上の心臓手術でモデリングが活用されています[1]。CHOPも今年、約200件のモデル化を見込んでいます[1]。スタンフォード大学やボストン小児病院の研究者もツール開発に加わっており、次世代の共有モデリング基盤を構築する全米規模のコンソーシアムも結成されつつあります[1]。
まとめ
CHOPの事例は、NVIDIAが手がけるMONAI・Newton・OpenUSDといったオープンソース基盤が、小規模で多様な患者集団を対象とする医療分野において、企業単独では成し得ない開発体制を実現しつつあることを示しています[1]。研究段階だった心臓モデリングは、複数の主要小児病院で標準治療の一部となりつつあり、今後もカテーテル治療やVRを取り入れた診療支援への応用が期待されます[1]。
出典:https://blogs.nvidia.com/blog/childrens-hospital-open-source-ai-cardiac-care/
