OpenAI が 2026 年 5 月 6 日、企業の AI 利用実態を可視化する新指標「B2B Signals」を公開しました[1]。先行する一般向け指標「OpenAI Signals」の企業版にあたり、エンタープライズ・ビジネス・API 各プランの利用データを匿名化・集約したうえで、深さ・エージェント活用・業界別パターンを定期的に公表していくシリーズです。初回レポートでは「フロンティア企業」と「平均的な企業」の差が、過去 1 年で 2 倍から 3.5 倍へ拡大したという数字が前面に出ています[1][2]。

フロンティア企業の差は「量」ではなく「深さ」

OpenAI はトークン生成量を従業員 1 人あたりに換算し、95 パーセンタイルを「フロンティア企業」、50 パーセンタイルを「平均的な企業」と定義しました[1]。この比較で、フロンティア企業は平均的な企業の 3.5 倍の知能を 1 人あたりで消費しており、2025 年 4 月時点の 2 倍からさらに広がっています[1][2]。

注目すべきは、その差の内訳です。OpenAI は「メッセージ送信量だけで説明できるのは差全体の 36 パーセントに過ぎない」と分析しており、残りはひとつひとつの問い合わせがどれだけ複雑で、どれだけ豊かな文脈を含み、どれだけ実体ある成果物を生んでいるかという 深さの差であると説明しています[1]。単純な「打鍵回数」よりも、AI に何を任せ、どこまで情報を渡し、どんな出力を引き出すかという運用の成熟度が競争力に直結している、という見立てです。

エージェント系ツールでこそ広がる差

ツール別の比率を見ると、最大のギャップは Codex でした。フロンティア企業は従業員 1 人あたり、平均的な企業の 16 倍の Codex メッセージを送信しています[1][3]。ChatGPT Agent、Apps in ChatGPT、Deep Research、GPTs といったエージェントや業務文脈を扱うツールでも同じ方向の偏りが観測され、いずれも「会話による補助」から「タスクの委任」へ移行しているチームほど深く使い込んでいる構図が浮かび上がっています[1]。

業界別の傾向も整理されています。Codex 採用率と API 利用強度の双方で 1 位は 専門・科学・技術サービス業、ChatGPT 採用率では大規模導入を背景に 金融・保険業がトップ、1 人あたりのメッセージ強度では 教育サービス業が首位という結果でした[1]。職能別では、IT・セキュリティ部門が手順・ハウツー系の問い合わせに偏る一方、ソフトウェア開発・データサイエンスはコーディング、財務はデータ分析と計算へと、それぞれの中核業務へ AI が染み出している様子が読み取れます[1]。

顧客事例とプライバシー設計

Codex の現場活用例として、OpenAI は Virgin Atlantic(テストカバレッジ拡張と技術的負債の削減)、Ramp(コードレビューの加速)、Notion(新機能開発の高速化)、Cisco(大規模リポジトリの読解)、Rakuten(インシデント対応)を挙げています[1][3]。エンジニアリング以外の領域へも段階的に広がり始めている、というのが OpenAI 側のメッセージです。

データの取り扱いについては、解析対象は匿名化・集約済みの利用シグナルに限定され、メッセージ内容は自動分類器が処理し、OpenAI 社員が個別の企業・ビジネス・API 顧客のデータを分析目的で閲覧することはないと明記されています[4]。さらに、公開される集計値には差分プライバシーで較正済みのノイズを加え、特定の個人や小グループの存在の有無が結果に与える影響を抑える設計です[4]。「企業内の利用実態をベンチマーク化したい」というニーズと、「自社固有のデータを覗かれたくない」という懸念の両立を狙った構成と言えます。

まとめ

B2B Signals が示したのは、企業間の AI 競争が「アクセスの差」から「使いこなしの差」へ移っているという現実です。フロンティア企業の優位性は単発の利用量ではなく、複雑なタスクをエージェントに委ね、深い文脈を渡し、結果を業務に取り込むまでの運用設計に支えられています。次回以降のレポートで業界別・職能別の分解がどこまで進むかは、自社のベンチマーク指標を考えるうえで参考になりそうです。

出典:https://openai.com/index/introducing-b2b-signals/

出典:https://openai.com/signals/b2b/

出典:https://openai.com/index/scaling-codex-to-enterprises-worldwide/

出典:https://openai.com/signals/data/