中国のXPengが8月24日、ロボット事業として9億ドル(約1,430億円)を超える資金を調達したと発表しました。調達後の企業価値は63億ドル(約1兆円)を上回り、同社は中国の身体性AI(エンボディドAI)分野で過去最大の単独ラウンドだとしています。狙いは、人型ロボット「IRON」を2026年内に量産へ持ち込むことです。

※1米ドル=159円換算(2026年8月24日時点)

出資したのはIDG Capital、TencentとAlibabaも戦略投資家に

今回のラウンドは、XPengのロボット事業が複数の投資家と株式譲渡契約を結ぶ形で成立しました。リード投資家はIDG Capitalで、Gaorong Venturesが参加し、TencentとAlibabaが戦略投資家として名を連ねています。中国のEVメーカーの一部門に、国内を代表するテック大手2社が同時に付いた格好です。

XPengはニューヨーク証券取引所と香港証券取引所に上場していますが、ロボット事業は今回の調達後も引き続き同社が支配権を持ち、グループの連結対象として残ります。つまり分社化して手放すのではなく、独立した企業価値を付けたうえで内部に抱えたまま資金を厚くする、という設計です。

IDG Capitalは、身体性AIの業界が「技術的なブレークスルーから、量産と商用展開へ移る転換点にある」との見方を示しました。研究段階の華やかなデモではなく、工場で何台作れるかが問われる段階に入った、という認識が投資判断の背景にあります。

IRONは全身76自由度、片手だけで21自由度

資金の使い道の中心にあるIRONは、XPengが自社で一貫開発している人型ロボットです。骨格や駆動系からAI・制御まで、ハードウェアとソフトウェアの主要な層をすべて内製でそろえたと同社は説明しています。チップ、コントローラー、モーションモジュール、器用な手(デクスタラスハンド)といった中核部品も自前です。

可動性の面では、全身で76自由度、片手だけで21自由度を持ちます。外装には全面を覆う柔軟なラティス(格子)構造を採用し、人に近い見た目と安全性の両立を狙っています。人型ロボットのデモでよく見る剥き出しのフレームとは、方向性がかなり違います。

頭脳側は、自社設計の「Turing AIチップ」を3基積み、実効で最大2,250 TOPSの演算性能を確保しました。この演算力によって、フィジカルAIの基盤モデルをロボット本体の上で直接動かせるようになり、遠隔操作なしで複雑な作業をこなせるとしています。推論の遅延が小さく、データが機体の外に出ないという副次的な利点もあります。

人型ロボットのデモンストレーションでは、カメラの外にいる人間が遠隔操作しているケースが珍しくありません。XPengが端末側での自律動作をあえて強調しているのは、そこと線を引きたいからでしょう。実際にどこまで自律的なのかは、IRONが顧客の手元に渡ってからの評価を待つ必要があります。

量産は2026年内、まず自社店舗と拠点から

調達した資金は、ソフトウェアとハードウェアの研究開発、フィジカルAIモデルの学習と改良、高品質な学習データの生成、量産設備の整備、そして海外を含む商用展開に振り向けられます。

スケジュールとしては、IRONは2026年内に量産へ入る見込みです。最初の商用配備先はXPeng自身の店舗と事業拠点で、そこで運用しながら仕上げ、2027年に正式発表と中国および海外市場への納入を始めるという段取りが示されています。自社施設を最初の現場にするのは、想定外の挙動が出ても被害を抑えられるうえ、実運用データを一気に集められるからです。

XPengは、IRONが実世界に出て量産と配備が進むほど「データ・モデル・アプリケーション」の循環が回り始め、ロボットの学習速度そのものが上がっていくと見ています。

EVで積み上げた製造力を人型ロボットへ

XPengの主張の核にあるのは、スマートEVで築いた設計・サプライチェーン・量産の能力を、そのまま人型ロボットへ移せるという点です。自動車と同じ品質基準と量産・納入体制を持ち込めるメーカーは、人型ロボットの分野ではまだ多くありません。

規模の裏付けもあります。同社の2026年第2四半期の車両納入台数は103,295台で、6月単月では40,126台を記録しました。実物のハードウェアを月に数万台という単位で作り続けている企業が、その設備と調達網を隣の事業に流用しようとしているわけです。

何小鵬CEOは、12年にわたって全スタック内製にこだわり、物理世界の基盤モデル、Turing AIチップ、AIインフラという土台を築いてきたとし、IRONを「人にとって信頼できるパートナー」にすることを目標に挙げています。

一方で、人型ロボットの供給網はまだ成熟しておらず、量産の難易度は自動車の比ではありません。2026年内の量産開始という期限まで残り4カ月ほどで、宣言どおりに行くかは見通しにくいところです。

まとめ

XPengのロボット事業が調達した9億ドル超という金額は、中国の身体性AI分野では前例のない規模です。全身76自由度のIRONと、3基の自社チップによる端末側の自律動作、そしてEVで培った量産力という組み合わせが、投資家に評価された形になります。焦点は2026年内の量産開始と、2027年の実納入が予定どおり進むかどうかです。人型ロボットの競争は、デモの完成度から出荷台数へと軸足を移しつつあります。