OpenAIは2026年7月27日、AIが働き方をどう変えているかを分析した新しい調査シリーズ「Work at the Frontier」の第1弾を公開しました[1]。米国のChatGPT利用者による80万件超のメッセージを調べたところ、職種に固有の仕事に関するメッセージのうち43.5%が、本来は別の職種が担ってきた仕事に関するものでした。営業担当者がデータ分析に踏み込み、マーケターが自力でサイトの不具合を直すように、AIは「誰がどの仕事をするか」という業務の境界そのものを溶かしつつあります。
職種をまたぐ「タスククロスオーバー」とは
OpenAIの経済リサーチ部門は今回、80万件を超える米国のChatGPT利用者のメッセージを分析しました[1]。その結果、仕事関連のメッセージ全体の16.8%、そして職種に固有のメッセージに絞ると43.5%が、利用者本人の職種とは別の職種に結びつく作業に関するものだったといいます。
同社はこの現象を「タスククロスオーバー(task crossover)」と名付けています。これは、これまで特定の職種に紐づいていた仕事が、別の職種の人のAI利用の中に現れる状態を指します。分析にあたっては、文章作成や要約、スケジュール調整のように多くの職種で共通して使われる作業を「汎用的なもの」として先に切り分け、残った職種固有のメッセージについて、それが本人の職種の内側か外側かを判定しました。外側に該当したものが43.5%に達したことになります[1]。
OpenAIは、多くの研究がある職種の「作業リスト」を固定したうえでAIがそれをこなせるかを問うのに対し、今回の調査は「誰がどの作業を引き受けるか」自体が変わりつつある点を示すものだと位置づけています。
顧客対応・デザイン・人事で顕著な「借りてくる仕事」
職種の外側にある作業の割合は、いくつかの職種で特に高く出ています[1]。汎用的な作業を除いたうえで、職種固有のメッセージに占める「職種外の作業」の比率は次の通りです。
顧客対応(カスタマーエクスペリエンス)の従事者では77%、デザイナーでは75%、人事担当では69%、法務では56%、マーケターでは53%が、本来は別の職種に結びつく作業でした。これらの職種は、他の役割の仕事を「借りてくる」形でAIを使っていると言えます。従来なら担当者に引き継いでいた作業を、最初にその必要に気づいた本人がその場でこなす。そうした分業の変化が、AI利用の中に表れているという見立てです。
具体的なタスクに目を向けると、財務計算と技術的なトラブルシューティングは、分析対象となった他の7つの職種グループすべてで、外部から持ち込まれる作業の上位3位以内に入っていました。マーケティング関連の作業も広く波及しており、販促物の作成は他の5つのグループで確認され、特にデザイナーの利用で目立ったとしています[1]。
「持ち込む職種」と「供給する職種」
タスクの流れを大きな束で見ると、2つの方向性が浮かび上がります[1]。他の職種から多くの作業を持ち込む職種と、自分たちの作業が多くの職種に広がっていく職種です。
デザインは前者の典型です。デザイナーのメッセージのうち約35.2%が他職種に関連する作業である一方、デザインの作業が他の職種のメッセージに占める割合はわずか1.7%にとどまります。デザイナーは外部の作業を大きく取り込む一方、デザインそのものは他の場所ではあまり現れません。
エンジニアリングはこれとほぼ逆の構図です。エンジニアのメッセージのうち他分野の作業は18.5%にすぎませんが、エンジニアリングの作業は他職種のメッセージの7.4%を占めます。ソフトウェアのトラブル解決や技術システムの扱いなど、エンジニアリングは他の人々が引き受ける仕事の重要な供給源になっています。
マーケティングは両方向で存在感を示します。マーケター自身は24.3%のメッセージを他職種の作業に充てつつ、マーケティングの作業は他職種のメッセージの8.9%を占め、これはサンプル中で最も高い「外向き」の割合でした[1]。
組織の規模が変える使われ方
会社の規模や構造も、AIによる働き方の変化に影響します[1]。大企業では専門チームや確立された業務フロー、社内サービスを利用できますが、小さな組織では問題に最も近い人がそのまま抱え込む場面が増えます。
平均的な利用者で見ると、職種外の作業が占める割合は、2〜5席のワークスペースでは18.9%だったのに対し、100席を超えるワークスペースでは16.3%へと下がりました。一方で、最も利用量の多いヘビーユーザーでは同じ一方向の傾向は見られなかったとしています。OpenAIは、専門リソースが乏しい環境ほど、AIが汎用的なツールとして特に役立つ可能性があると指摘します[1]。
見えてくるのは「変化の予兆」
こうした利用データは、仕事がどこへ移りつつあるかを示す先行指標だとOpenAIは説明します[1]。企業が職務内容を書き換えたり新しい肩書きを作ったりするより前に、働く人々が新しい作業の組み合わせを試している様子が見えるためです。従来の労働市場統計が後から捉えるであろう職種の変化を、AIの利用パターンが早い段階で映し出しているという解釈です。
第三者の見方も出ています。米メディアAxiosによると、OpenAIのチーフエコノミストであるRonnie Chatterji氏は、AIによって「職種の間の境界はすでに柔軟になりつつある」と述べています[2]。ただし今回のデータはあくまで「利用者がChatGPTに何を尋ねたか」を映すものであり、その作業が高い品質で完了したかまでを保証するわけではありません。境界をまたぐ利用の広がりは、成果の証明というより、働く人々が新しい役割を試している実験の広がりとして読むのが妥当でしょう。
まとめ
OpenAIの新しい調査は、ChatGPTの職種固有の利用の43.5%が本来は別の職種の作業に及んでいることを示し、顧客対応やデザイン、人事で特にその傾向が強いと報告しました。AIは「どう仕事をするか」だけでなく「誰がその仕事をするか」を変えつつあり、その変化は職務内容が正式に書き換わる前の予兆として利用データに表れています。今後の「Work at the Frontier」シリーズが、この構造変化をどこまで継続的に描き出せるかが注目されます。
出典: https://openai.com/index/how-ai-is-expanding-what-people-do-at-work
出典: https://www.axios.com/2026/07/27/openai-chatgpt-work-specialists
