NVIDIAは2026年7月15日、ロボットやエッジAI機器向けの新しい組み込みモジュール「Jetson T3000」と「Jetson T2000」を発表しました[1]。いずれも同社のThorアーキテクチャをベースにした製品で、研究段階から量産・実用の段階へと移りつつあるヒューマノイドや自律機械に、小型かつ省電力なAIコンピューターを供給する狙いです。最上位の「T5000」ゆずりの性能を、より扱いやすいサイズと消費電力にまとめた点が特徴です。
量産ロボット時代に向けた新モジュール
汎用ロボットや自律機械は、研究室から実際の市場へと広がりつつあり、基盤モデル(ファウンデーションモデル)を機器側で動かせる、小型で電力効率の高いAIコンピューターへの需要が高まっています。今回発表されたT3000とT2000は、この需要に応えるための量産向けモジュールという位置づけです。
土台となる「Jetson AGX Thor」は、すでに次世代のヒューマノイドやロボットシステムを支える存在になりつつあります。NVIDIAによると、1XやAgile Robots、Amazon Robotics、Boston Dynamics、ファナック、日立、Techman Robotといった各分野の主要企業が、このプラットフォーム上で開発を進めているとしています[1]。
T3000の性能と構成
中核となるのが「Jetson T3000」および産業向けの「IGX T3000」モジュールです。コンパクトな筐体で865 FP4テラフロップスのAI演算性能を発揮し、そのサイズと消費電力は上位のT5000のおよそ半分に収まります[1]。構成は、NVIDIA Blackwell GPUに8コアのNeoverse Arm CPU、32GBのLPDDR5Xメモリー、273GB/sのメモリー帯域、そして25ギガビットイーサネット接続を組み合わせたものです。
産業用途のIGX T3000は、同じ性能に機能安全(ファンクショナルセーフティ)を統合し、人と並んで働くロボット向けの安全システム「NVIDIA Halos for Robotics」をそのまま動かせます。小さな筐体ながら、大規模言語モデルや視覚言語モデル、視覚言語行動モデル、世界基盤モデルといったマルチモーダルな処理で、T5000に近い推論性能を実現するとしています。メモリー価格が高止まりするなか、T3000への移行はコスト削減にもつながると説明しています。
幅広いエッジAIを狙うT2000、拡張するJetsonファミリー
もう一方の「Jetson T2000」は、Thorアーキテクチャをより広い範囲のエッジAI機器に届けるためのモジュールです。400 FP4テラフロップスの演算性能と16GBのメモリーを備え、視覚AIエージェントや自律移動ロボット、産業用マニピュレーターなどを手がける開発者にとっての入り口となる構成です[1]。
今回の2モデル追加により、NVIDIAのエッジAIプラットフォームは70 TOPSから2,000テラフロップスまでの性能帯をカバーすることになります。用途に応じて性能とコストを選べる幅が広がり、ほぼあらゆるエッジAIのワークロードに対応できるとしています。
エージェントスキルとCosmos 3 Edgeでソフト面も強化
ハードウェアだけでなく、開発を助けるソフトウェアも同時に拡充されました。新たに提供される「Jetson agent skills」は、これまで手作業と専門知識が必要だったメモリー最適化やシステム設定、デプロイ作業をAIエージェントが自動化する仕組みです[1]。Jetson ThorとJetson Orinを含むJetson製品群全体に対応し、数週間かかっていた最適化を数日に短縮できるとしています。
実際に、ヒューマノイドロボットを手がけるUBTechやAgile Robots、産業ソリューションのConnect Techは、メモリー使用量を最大15GB削減し、Jetson AGX Orin 64GBから32GBモジュールへの移行を実現しました。スマートリテールのSandStarは最大4GBを削減し、LOVOTを開発するGROOVE Xも異種混合のAIアクセラレーターを活用してメモリー使用量を抑えています。交通分野のNoTrafficは、Jetson TX2 NX上でメモリー使用量を30パーセント削減し、ハードを増やさずにAI機能を追加する余地を生み出したといいます。
あわせて、Thorプラットフォーム向けの軽量な世界基盤モデル「Cosmos 3 Edge」も投入されました。40億パラメータのこのモデルは、機器側の推論で周囲を認識し、リアルタイムで判断して動作を生成することを助けます。開発者は特定のロボットやセンサー向けにおよそ1日で追加学習でき、Jetson Thor上でのリアルタイムの映像解析や動作制御に展開できるとしています。
開発の始め方と提供時期
新モジュールはThorファミリーとチップアーキテクチャやソフトウェアスタックを共有するため、開発の移行がスムーズに行えます。開発者は、販売パートナー経由で入手できる「Jetson AGX Thor開発者キット」を使い、今日からT3000とT2000の性能をエミュレートしながら開発を始められます[1]。
T3000のエミュレーションモードは、今月後半に「JetPack 7.2.1」で利用可能になり、T2000のエミュレーション対応は今後のリリースで続く予定です。肝心のモジュール本体、Jetson T3000とT2000の提供時期は、2027年第1四半期が予定されています。ADLINKやAdvantech、AAEON、Aetina、Connect Tech、Seeed StudioといったエコシステムパートナーもすでにThorベースのソリューションを提供しています。
まとめ
Jetson T3000/T2000は、T5000ゆずりの性能を約半分のサイズと消費電力にまとめ、量産ロボットとエッジAIの普及を後押しする新モジュールです。エージェントスキルやCosmos 3 Edgeといったソフトウェア面の強化も同時に進み、開発者は開発者キットで先行して着手できます。提供は2027年第1四半期の予定で、ヒューマノイドや自律機械の実用化がさらに進むかが注目されます。
出典:https://blogs.nvidia.com/blog/jetson-thor-robotics-edge-ai-agent/
