NVIDIAは、生命科学向けのAIツール群「NVIDIA BioNeMo Agent Toolkit」を、Anthropicが発表した科学研究向けの作業環境「Claude Science」と連携させると発表しました[1]。研究者が自然言語で指示するだけで、ゲノム解析やタンパク質構造予測といった重い計算を、GPUで高速化されたワークフローとして実行できるようになります。モデルの設定やインフラの構築に手を取られず、研究そのものに集中できる環境を目指す取り組みです。

Claude ScienceにNVIDIA BioNeMoが統合

Anthropicは現地時間2026年6月30日、科学研究向けのAI作業環境「Claude Science」を公開し、同日からパブリックベータを開始しました[2]。研究者がエージェント(自律的に作業を進めるAI)と自然言語で対話しながら、文献調査から多段階の解析、図表や論文原稿の作成までを一つの環境で進められるのが特徴です[2]。

このClaude Scienceが、研究の流れの中から呼び出せるリソースとして組み込んだのが、NVIDIA BioNeMo Agent Toolkitです[1]。同ツールキットは、NVIDIAが加速させた各種の計算能力を「呼び出し可能なスキル」として束ねたもので、Claude Scienceは状況に応じて適切なツールを選び、正しい入力を準備し、ワークフローを実行します[1]。実行にはどこに配置されたNVIDIAの計算資源でも接続でき、NVIDIAの各種モデルやライブラリ、推論基盤「NVIDIA NIM」のマイクロサービスを、研究と同じ環境の中から直接利用できます[1]。

生命科学の分野では、創薬・ゲノミクス・医用画像・分子設計・タンパク質工学といった研究でNVIDIAの技術が広く使われています。NVIDIAによれば、世界の製薬企業の上位20社のうち18社がBioNeMoを利用しているとのことで、すでに業界に深く浸透していることがうかがえます[1]。

エージェントが使う「加速されたツール群」

AIエージェントは、推論し、計画を立て、ツールを使ってタスクをこなします。生命科学では、そのツールが専門的な計算ワークフローそのものになります[1]。自律的に動く研究エージェントは、化合物ライブラリの特徴づけ、有望な候補の絞り込み、ゲノム文脈の解析などを次々にこなす必要があり、各工程はそれぞれの計算ツールの速さに依存します。つまり、エージェントは使うツールが動く速さ以上には速く働けません[1]。

BioNeMo Agent Toolkitは、こうしたエージェントに高速なツールを与えます。ゲノム解析を担う「NVIDIA Parabricks」は、従来は数時間かかっていた処理を数分にまで短縮します[1]。1細胞解析向けの「RAPIDS-singlecell」では、130万細胞分の前処理とクラスタリングが52分から25秒に圧縮されたといいます[1]。化合物の類似検索や立体配座の生成といったケモインフォマティクスの処理を最大3,000倍に高速化する「nvMolKit」も含まれます[1]。タンパク質構造予測などに使われるモデルとしては、Evo 2、Boltz-2、OpenFold3といった生命科学向けモデルにアクセスできます[1][2]。

これらのモデルは「NVIDIA NIM」のマイクロサービスとして、すぐに使える推論用の窓口(API)の形でも提供されます[1]。ツールキット自体はオープンで、特定のエージェント基盤に縛られない設計のため、同じ科学スキルを異なる研究プラットフォームでも使えます。ツールキットと各スキルは、NVIDIAの開発者向けリソースおよびGitHubから入手できます[1]。

がん標的の阻害剤探索という実例

NVIDIAが挙げる具体例の一つが、がんに関わる代表的な標的に対する、より優れた阻害剤の探索です[1]。研究者は、がんを引き起こす抗原の変異を起点に、Claudeへ多数の阻害剤候補の設計を依頼します。Claude ScienceがBioNeMo Agent ToolkitやNVIDIA NIMのマイクロサービスと連携し、大量の候補について阻害剤の予測・最適化・検証を高速に進めます[1]。

研究者は出力された結果を確認し、問いを練り直し、次の一手を決められます。科学的な思考と、加速された計算作業との間で反復ループが回り、研究者は科学そのものに集中し続けられる、というのがNVIDIAの説明です[1]。

研究者向けの提供形態

Claude Scienceは、macOSとLinux向けに提供され、Pro・Max・Team・Enterpriseの各プランで利用できます[2]。タンパク質や分子構造を画面上にそのまま表示でき、すべての結果は再現可能でコードまで追跡できる点も特徴とされています[2]。UniProt・PDB・ChEMBLを含む60を超える科学データベースを参照します[2]。

なお、Claude Scienceは新しいAIモデルではなく、すでに提供中のClaudeモデル(Opus 4.8など)の上に構築された、ワークフロー重視のアプリケーションです[2][3]。モデルの新規開発ではなく、研究者の実際の作業の流れに寄り添う点に重心が置かれています[3]。Anthropicは学術機関や非営利のラボ向けに割引席を用意し、最大50件の研究プロジェクトに対して1件あたり最大3万ドル(約490万円)相当のクレジットを提供するとしています[2]。※1ドル162円換算

NVIDIA BioNeMo Agent Toolkitに対応したワークフローは、本日からパブリックベータに入るClaude Scienceを通じて利用できます。Anthropicはベータ期間中、研究者が必要とする追加の専門分野や連携についてのフィードバックを募っています[1]。

まとめ

NVIDIAは、生命科学向けのAIツール群BioNeMo Agent Toolkitを、Anthropicの研究向け作業環境Claude Scienceと連携させました。自然言語の指示から、ゲノム解析やタンパク質設計といった重い計算を、GPUで高速化されたワークフローとして呼び出せます。ParabricksやnvMolKitなどでツールの実行速度を底上げし、AIエージェントが「科学の速さ」で動ける環境づくりを狙う取り組みと言えるでしょう。

出典:https://blogs.nvidia.com/blog/claude-science-bionemo-agent-toolkit/

出典:https://www.anthropic.com/news/claude-science-ai-workbench

出典:https://techcrunch.com/2026/06/30/anthropics-claude-science-bets-on-workflow-not-a-new-model-to-win-over-scientists/