NVIDIAが、AI工場(AIファクトリー)の電力供給を800ボルト直流(800VDC)へ移行させる取り組みを改めて示しました[1]。ボトルネックは消費電力の絶対量ではなく、電力網からGPUへ届くまでの経路にあるという主張です。既存のAC設備をそのまま活かせるMGX対応の電源ラックが2026年後半に登場し、行単位・施設単位へ段階的に広げるロードマップも公開されています[1]。

多段のAC変換が電力を削っている

従来の給電では、電力網から届いた交流(AC)が何度も変換を繰り返してからラックに入ります。変換のたびに損失と構成の複雑さが積み上がり、ラックの高密度化が進むほどその負担が効いてきます[1]。次世代のAI演算が要求する電力水準になると、わずかな非効率でも短期間で無視できない差になります[1]。

800VDCは、この経路そのものを短くする考え方です。より高い電圧の直流で配電することで、電力網とアクセラレーターの間に挟まる変換段数が減り、使える電力のうち演算へ届く割合が増えます[1]。NVIDIAは、ラックレベルの54VDCや施設レベルの480ボルト交流(480VAC)と比べて、電流・銅の使用量・ケーブルの太さを大きく減らせると説明しています[2]。開閉装置や分電盤、ブスウェイもコンパクトにでき、設置スペースと構成の複雑さの両方が下がるという整理です[2]。

移行の道筋そのものは、NVIDIA DSXのリファレンスデザインが担います。現行のAC設備からハイブリッド構成を経て、完全な800VDCネイティブ施設へ至るまでを設計図として示す位置づけです[1]。

建物の電気設備に手を入れずに始められる

今稼働しているAI工場のほとんどは、AC配電を前提に設計されています[1]。ここで橋渡しになるのが、2026年後半に登場するMGX対応の800VDC電源ラックです[1]。

このラックは既存のAC設備の中に差し込む形で設置され、同じ列の演算ラックへ800VDCを供給します。建物側の電気設備を改修する必要はないとされています[1]。稼働中の施設に、次世代のラックスケール性能を後付けできる構成というわけです。

NVIDIAでデータセンターインフラ担当バイスプレジデントを務めるVladimir Troy氏は、800VDCが大規模AIに必要な演算性能と電力密度を解き放つと述べ、OCPを通じて80社を超えるエコシステム企業と協力し、将来像ではなく現実的な移行経路をAI工場へ示していると説明しています[1]。

サイトの所有者にとっての意味は、これまでの投資が無駄にならない点にあります。土地、電力の権利、建屋のインフラといった既に確保した資産を維持したまま、演算密度だけを引き上げられるためです[1]。

電源ラック、行電力センター、DCパワーブロックの3段階

800VDCへの移行は、成長段階ごとに入り口が用意されています[1]。

多くの事業者が最初に手を付けるのが電源ラックです。ハイブリッド構成と両立する近い将来の選択肢として、高密度化への足がかりになります[1]。

AI工場専用の環境を構築する事業者向けには、行電力センター(row power center)が用意されます。ラック1列分をまとめて賄う集中型の電源で、頭上に通した800VDCのブスウェイで複数のラック列へ配電を広げます。1列あたり最大2メガワットに対応し、提供は2027年の見込みです[1]。

新設施設の設計向けには、DCパワーブロックがあります。電力網の電力を1段階で直接800VDCへ変換する施設規模のユニットで、中電圧からの直接変換を大規模に実現します。今後10年を見据えたAIインフラの設計図という位置づけです[1]。

OCPの共通仕様が生んだ80社超のサプライチェーン

800VDCの仕様は、NVIDIAが単独で決めたものではありません。NVIDIA、Google、Microsoftの3社がOpen Compute Project(OCP)を通じて共同で開発し、2026年3月に共同ホワイトペーパーを、2026年7月にLVDC固体変圧器仕様v0.3を公開しています[1]。

仕様は共通インターフェースを定義しており、異なるベンダーの電源機器を同じ800VDC施設の中で組み合わせて動かせます[1]。すでに80社を超える機器メーカーとインフラ企業がこの仕様に沿った製品を開発しており、オープンな標準を軸にサプライチェーンが形成されつつあります[1]。NVIDIAが挙げるパートナーには、ABB、Eaton、Schneider Electric、Siemens、Hitachi Energy、Vertiv、Delta、Infineon Technologies、Texas Instruments、Renesas、ROHM、三菱電機などが並びます[2]。電源半導体から受変電設備まで、層の厚い顔ぶれです。

これらの構成要素はNVIDIA DSXのリファレンスデザインにまとめられ、電力アーキテクチャとラックスケールの演算、施設インフラを結び付けるシステムレベルの設計図として提供されます[1]。

背景にあるのは投資規模です。Wood Mackenzieは、2040年までの世界のAI・データインフラ投資を9兆ドル(約1,420兆円)と見込んでいます[1]。この規模を受け止められるのは、演算需要がインフラの供給能力を追い越す前に電力設計を解決した施設だけになる、というのがNVIDIAの見立てです[1]。

※1ドル158円換算(2026年8月時点)

まとめ

NVIDIAは、AI工場の給電を800VDCへ移行させる道筋として、既存のAC設備に差し込めるMGX対応電源ラックを2026年後半に投入します。続いて1列あたり最大2メガワットの行電力センターが2027年、新設施設向けのDCパワーブロックが後に続く3段階の構成です。仕様はNVIDIA、Google、MicrosoftがOCPで共同開発したオープン標準で、80社を超えるメーカーが対応製品を進めています。建物の電気設備を触らずに高密度化へ踏み出せる点が、稼働中の施設にとっては現実的な選択肢になりそうです。

出典 [1]:https://blogs.nvidia.com/blog/800-vdc-power-architecture-ai-factory/

出典 [2]:https://www.nvidia.com/en-us/data-center/technologies/800-vdc-architecture/