Microsoftが開発者会議「Build 2026」で、自社開発の新しいAIモデル群を披露しました。中心となるのは、文章の指示からソフトウェアのコードを書き起こすコーディング特化の「MAI-Code-1-Flash」と、じっくり考えて答えを導く推論モデル「MAI-Thinking-1」です。これまでOpenAIなどのモデルに頼ってきた同社が、主要な機能を自前のモデルでまかなう姿勢を鮮明にしました。

文章からコードを書く「MAI-Code-1-Flash」

MAI-Code-1-Flashは、Microsoftにとって初めての自社製コーディングモデルです。人が言葉で書いた要望を受け取り、アプリやWebサイトのソースコードを出力します。近ごろは、技術的な専門知識がない人でも自然な文章で指示するだけでソフトを組み立てられる「バイブコーディング」と呼ばれる使い方が広がっており、その需要を取り込む狙いがあります。

設計面では、必要な部分の専門家だけを動かすMixture-of-Experts(MoE、専門家混合)構造を採用しています。全体では1,370億パラメータを抱えますが、1回の処理で実際に動くのは50億パラメータにとどまり、規模と動作の軽さを両立させています。扱える文脈の長さは最大25万6,000トークンに達します。

提供形態も実用重視です。コード補完サービス「GitHub Copilot」と、コードエディター「Visual Studio Code」に組み込まれ、個人ユーザーから順次使えるようになります。Microsoftは料金の低さも前面に出しており、入力100万トークンあたり0.75ドル(約120円)、出力100万トークンあたり4.50ドル(約720円)という水準を公表しています。 ※1ドル160円換算

効率を重視した推論モデル「MAI-Thinking-1」

もう一方のMAI-Thinking-1は、答えを出す前に筋道を立てて考える推論モデルです。同社はこちらでも「高い性能を、低いトークン消費量で」という効率の良さを強調しています。トークンはモデルが読み書きするデータの最小単位で、その消費量がそのまま開発者の支払うコストに直結します。

規模は1兆パラメータ級ですが、1回の処理で動くのは350億パラメータと、こちらも稼働部分を絞った設計です。提供はアプリ組み込み用サービス「Microsoft Foundry」での限定プレビューから始まり、広く一般提供される前に試用を希望する顧客を募る形をとっています。利用者は自社のデータを取り込むことで、推論モデルの精度をさらに高められるとしています。

学習データについて同社は、第三者のモデルから出力を写し取る「蒸留」に頼らず、クリーンで適切にライセンスされたデータをもとに一から学習させたと説明しています。Microsoft AIのトップを務めるMustafa Suleyman氏は、コンサルティング大手のマッキンゼー向けにモデルを調整した事例で、OpenAIの「GPT-5.5」を上回る結果を、10倍優れたコスト効率で実現できたと語りました。

OpenAI依存を薄めるという狙い

今回の発表の背景には、AIをめぐるMicrosoftの立ち位置の変化があります。同社はこれまでクラウド基盤を提供しつつ、OpenAIに130億ドル(約2兆円)、Anthropicに50億ドル(約8,000億円)を出資し、両社のモデルを自社クラウド「Azure」経由で提供してきました。

ところが、最先端モデルの利用コストは上昇を続けています。自前のモデルを持てば、Azure上で動かして外部への支払いを避けられ、その分の安さを開発者に還元できます。先行する形で、Googleは5月に自社データセンターで動くコーディング対応モデル「Gemini 3.5 Flash」を発表しており、各社が自前モデルでコストを抑える流れが強まっています。

同時に、出資先であるOpenAIとAnthropicはともに上場へと動いています。Anthropicは6月1日に株式公開の申請を済ませ、OpenAIも年内の公開を視野に入れているとされます。こうした中でMicrosoftは、モデルを「使う側」から「作る側」へと軸足を移し、AIの基盤そのものに踏み込もうとしています。CEOのSatya Nadella氏は壇上で「今みなさんが目にしたのは、かなり大きな転換だ。すべての企業が、最先端モデルを消費する立場から、最先端の生態系に本格的に参加する立場へ移る時が来た」と述べました。

音声・画像まで広がる新モデル群

今回披露されたのは、コーディングと推論の2つにとどまりません。Microsoftは音声認識、合成音声の生成、画像生成といったクラウド向けモデルも刷新し、あわせてWindows PC上で動作する小型モデルも示しました。用途ごとに自社モデルをそろえることで、AI機能の幅広い層を自前でまかなおうとする構えがうかがえます。

まとめ

MicrosoftはBuild 2026で、コーディング向けのMAI-Code-1-Flashと推論向けのMAI-Thinking-1を柱とする自社開発モデル群を発表しました。いずれも稼働パラメータを絞った効率重視の設計で、低コストを売りにしています。巨額を出資してきたOpenAIなどへの依存を薄め、モデルを作る側として最先端に加わるという、同社の戦略転換を示す動きと言えるでしょう。