Metaが自社のAIデータセンターで、ネットワークケーブルの交換や停止したサーバーの再起動といった保守作業をロボットに任せる試験を進めていることが、2026年8月28日の報道で明らかになりました。試験対象は3社のロボットで、アイオワ州とオハイオ州の施設で実際に動いています。現場の技術者からは、自分たちの仕事がどう変わるのかを不安視する声も出ています。
3社のロボットを作業ごとに使い分ける
Metaが評価しているのは、サンフランシスコのWatney Robotics、カナダ・ケベック州のKinova、スイス・チューリッヒのABBという3社の機体です。1つの万能ロボットを配備するのではなく、作業の性質に合わせて別々の機体を当てているのが特徴です。
アイオワ州アルトゥーナのキャンパスでは、Watney Roboticsの双腕ロボットがケーブル交換の試験に使われています。2025年6月から続いているとされ、腕が2本必要な理由もはっきりしています。ケーブルを挿す作業は、片方の腕でケーブル本体を支えながら、もう片方でコネクターをポートへ導く必要があるためです。片腕の機体ではここでつまずきます。
オハイオ州ニューアルバニーの「Prometheus」キャンパスでは、ABBの4輪台車にリフトとアームを載せた機体が、半分外れかけた部品を挿し直す作業に投入されています。ABBは自動車や製造業の工場で長年ロボットを納入してきた大手で、産業用の実績をそのままデータセンターへ持ち込んだ形です。
Kinovaの「Gen3」アームは、これらとは別にサーバーの電源の入れ直しを担当する候補として評価されています。Kinovaはもともと車椅子に取り付ける支援用アームを手がけてきた会社で、細かく力を加減できる特性が、サーバー機器を傷めずに触る用途と噛み合っています。
なお、より単純な自動化はすでに複数のキャンパスで実運用に入っています。重いサーバーラックを運ぶ自走式の牽引ロボットや、機器をスキャンして点検を助ける車輪型の在庫ロボットがそれにあたります。電源ボタンを押すためだけの、機械の指のような遠隔操作装置を使っている施設もあります。
人の手を完全には代替できていない
一方で、現時点のロボットは熟練した技術者の代わりになっていません。報道では、評価対象のどの作業でも人より遅く、いずれも人の監督を必要とすると説明されています。
つまずいているのは主に4点です。バッテリーの持続時間が短く、サーバーホールの通路には移動ロボット向けの充電設備が想定されていないため、充電のたびに離脱が必要になります。目視点検も苦手で、変色したコンデンサーや焼けた基板の配線といった異常を見分けるには、高解像度の撮影と安定した画像認識が要りますが、照明条件が一定しない環境では信頼できる水準に届いていません。
配線の密集も障害になります。フル実装されたラックには数百本の柔らかいケーブルが垂れ下がり、センサーの視界とアームの動線の両方を塞ぎます。通路の走行そのものも見た目より難しく、狭く、規格外の機器が置かれ、人の技術者が作業していることもあります。
具体的な限界として、在庫ロボットのカメラがグレースケールで、赤と緑のステータスランプを見分けられないという指摘もあります。そのため一部の異常確認は人が引き受けざるを得ず、角やケーブルの上でも動きが鈍り、建屋をまたぐ移動では人が扉を開けて遠隔で誘導する必要があるとされています。
現場が恐れているのは「2段階」の変化
社員の懸念は、ロボットに職を奪われるという単純な話ではありません。報道によれば、社内のチャットグループでは、定型的な保守業務が数年でなくなるのではないかという声が交わされています。
匿名の従業員の1人は、ケーブル交換を確実にこなせるロボットが実現すれば、特定の職種の業務量の最大80パーセントを置き換えうると述べました。ただしこれは本人の見立てであってMetaの見通しではなく、現状の機体は人の速度に追いついていないという注釈も付いています。
より現実的に警戒されているのは2段階の変化です。まずロボットが最も反復的な作業を引き取り、次に、残った作業をAIが生成した手順書に沿って経験の浅い作業者が担う形へ置き換わっていく。この2つが同時に進むと、両方をこなしてきた熟練技術者が上下から挟まれ、賃金の高い役割そのものが縮んでいく、という構図です。
Metaは人手不足を強調、税制をめぐる議論も
Metaはこの見方に反論しています。同社の広報担当者は、米国が第二次世界大戦以降で最大のインフラ建設ブームのただ中にあり、その役割を埋める熟練労働者が大幅に不足していると説明し、必要なのはより多くの働き手であって、より少ない働き手ではないと述べました。
背景には政策側の動きもあります。Microsoft共同創業者のBill Gates氏は8月26日、ロボットとAIのトークンに課税すべきだとする論考を公開しました。人を雇えば給与税がかかる一方、ロボットやAIの購入費用は事業経費として処理できるため、現行の税制が機械を人より安く見せてしまうという指摘です。得られた税収は職を失った人の再訓練に充てるべきだとしています。WIREDがMetaの試験を報じたのはその2日後で、2つの話題は切り離して読みにくくなりました。
推進側の主張も明確です。NVIDIAのJensen Huang最高経営責任者は、データセンターを人とソフトウェアエージェントとロボットが一緒に動かす「AIファクトリー」として描いています。ロボットは人が埋められない役割を担うものだ、という立場です。
動きはMetaだけではありません。Alibabaは6月に、移動・物体操作・物理シミュレーションを対象とする「Qwen-Robot Suite」を公開しました。NVIDIAの研究者も、ロボットの群れを訓練するAIエージェントを提示しています。ACE Robotics会長のWang Xiaogang氏は、機械が物理環境を認識して動く身体性AIについて、2027年末までに「ChatGPTの瞬間」が来る可能性があると語りました。データセンターの外でも、Bedrock Roboticsが建設機械の自律化を進め、Mercedes-Benzが工場の反復作業でヒューマノイドを試しています。
まとめ
Metaがアイオワ州とオハイオ州のデータセンターで、Watney Robotics、Kinova、ABBの3社のロボットを使い、ケーブル交換やサーバー再起動、部品の挿し直しを試験していることが分かりました。現状はいずれも人の監督が必要で、人より遅く、配線の密集やバッテリー、目視点検といった壁も残っています。ただ、AIを動かすために建てられたデータセンターが、そのAIによる自動化の実験場になり始めているのは確かです。ここで人の仕事が増えるのか減るのかは、今後の完成度次第と言えそうです。
