Google が 2026 年 5 月 5 日、Gemini API の File Search ツールに 3 つの大きな更新を投入しました[1]。新たに 画像と文書の同時検索(マルチモーダル対応)、カスタムメタデータでの絞り込み、ページ単位の引用が追加され、検索拡張生成(RAG)システムを開発する際に長年の課題だった「ノイズ低減」と「出典の追跡可能性」へ正面から踏み込んだ格好です。

3 つの新機能で何が変わるのか

第一の柱は マルチモーダル対応 です。File Search はこれまでテキスト中心でしたが、3 月 10 日に公開された Gemini Embedding 2 を内部エンジンに据え、画像とテキストを同じ埋め込み空間で扱えるようになりました[1][2]。Gemini Embedding 2 は 8,192 トークンまでのテキスト、最大 6 枚までの PNG/JPEG 画像、120 秒までの MP4/MOV 動画、音声データを単一のリクエストで受け取り、3,072 次元のベクトルに変換するモデルです[2]。

公式記事では、研究プラットフォームの K-Dense や GIF ライブラリ Klipy、ソースコード文脈基盤の Code Fundi が事例として挙げられています[1]。たとえば Klipy の CEO Givi Beridze 氏は「品質や解像度がばらつく画像内の文字でも認識精度が大きく改善した。モデルが推測を控えてハルシネーションを起こさないため、ユーザーが本当に必要な瞬間の GIF を指定できるようになった」とコメントしています[1]。

第二の カスタムメタデータ は、department: Legal や status: Final といった任意のキー・値を文書に付与し、クエリ時に絞り込みを掛ける機能です[1]。文書を放り込むだけでは規模が大きくなるほどノイズが増えますが、メタデータでスコープを限定することで関連性の低い文書を除外し、応答速度と精度を同時に引き上げられると Google は説明しています[1]。

第三の ページ単位引用 は、PDF などページ構造を持つ文書を扱う際に、回答の根拠となったページ番号を retrieved_context の page_number 属性で取り出せる仕組みです[3]。RAG システムが抱えがちな「どこから来た情報か追えない」問題に対する直接的な答えで、検証可能性を重視する業務利用での採用ハードルを下げる狙いがあります。

価格構造の更新で「無料の RAG」に近づいた

今回の発表に合わせて、ストレージとクエリ時の埋め込み生成は 無料 に整理されました[1][3]。開発者が課金されるのは、初回のインデックス作成時に発生する埋め込みトークンのみで、料金は 100 万トークンあたり 0.15 ドル(およそ 24 円) です[1][3]。検索結果として取り出されたコンテキストは通常のリクエストとして Gemini モデルに渡るため、入力トークン課金が別途発生する点は留意が必要です。

この価格は、自前でベクトルデータベースを建てて Gemini Embedding API を呼ぶ従来構成と比べても十分に競争力があります。Google は File Search が File API と generateContent API の枠内で完結する点を強調しており、チャンク分割・埋め込み生成・コンテキスト注入を抽象化することで、開発者は「検索パイプラインを作る」段階を飛ばして「検索結果をどう使うか」に集中できる、という訴求になっています[1][3]。

※1 米ドル = 約 157 円換算(2026 年 5 月 11 日時点のリファレンス レート)

競合と比べたときの位置取り

File Search の役割は、OpenAI の Assistants API における Vector Stores や、Anthropic の Claude API が持つコンテキスト編集機能とおおむね重なります。今回の更新で Google が踏み込んだのは、画像と文書を同じ場所で扱えるマルチモーダル性と、ページ番号付きの引用が 標準機能 として返ってくる点です。これは別途 OCR パイプラインや独自の引用整形を組まずに、API のレスポンス構造だけで完結するという意味で実装コストの大幅な削減につながります。

一方で、データ主権や検索アルゴリズムの細かい制御を求める用途では、自前のベクトルデータベース(Pinecone、Weaviate、pgvector など)を選ぶ余地は残ります。File Search は埋め込みモデルが Gemini Embedding 2 に固定されており、別系統のモデルへ差し替える運用は想定されていません[1][3]。あくまで「Gemini エコシステムに最適化した、すぐ動く RAG 基盤」と捉えるのが実態に近いといえます。

まとめ

Gemini API の File Search は、マルチモーダル対応・メタデータ絞り込み・ページ引用という 3 点で、検証可能な RAG を構築するための実装負担を一段下げました。ストレージとクエリ時埋め込みが無料化され、課金がインデックス作成時の 100 万トークンあたり 0.15 ドルに集約された結果、小規模な検証から本番運用まで同じ料金体系で扱える点も実利的です。Gemini Embedding 2 の能力を素直に引き出せる「Google がフルマネージドで提供する RAG」として、開発者にとって有力な選択肢が増えたといえそうです。

出典:https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/expanded-gemini-api-file-search-multimodal-rag/

出典:https://blog.google/innovation-and-ai/models-and-research/gemini-models/gemini-embedding-2/

出典:https://ai.google.dev/gemini-api/docs/file-search