AI向けデータセンターを手掛けるFluidstackが、Jane Street Capital主導のラウンドで15億ドル(約2,310億円)を調達しました。企業価値は180億ドル(約2兆7,700億円)と評価されています。同社の特徴は、GPUを1枚も自社で保有しないまま、Anthropicの大規模な計算基盤の建設を任されている点にあります。
※1ドル154円換算(2026年9月8日時点)
GPUを買わない事業者が2兆円台の評価を受けた
いわゆるネオクラウドと呼ばれる新興のAI計算事業者は、これまで保有するGPUの量で評価されてきました。CoreWeaveやNebiusのように、NVIDIA製アクセラレーターを大量に購入し、その資産価値と稼働率で企業価値を積み上げるやり方です。
Fluidstackはこの前提を外しています。同社が手掛けるのは、電力の確保、データセンターの設計と建設、そしてその中で動くソフトウェアの開発と運用までで、肝心のシリコンは顧客側が用意します。つまり在庫としてのGPUを抱えないため、特定世代のチップが陳腐化しても資産が痛みません。今回の調達で累計調達額は26億ドル(約4,000億円)を超えました。数か月前の評価額が75億ドル(約1兆1,600億円)だったことを考えると、上昇のペースはかなり急です。
直近1週間で見ると、AI関連では競合のCrusoeがシリーズFで30億ドル(約4,600億円)を確保した案件に次ぐ規模になります。計算資源そのものではなく、それを置く場所と動かす仕組みに資金が向かっている流れが、続けて2件出た形です。
Anthropicの500億ドル計画を担う立場
Fluidstackの位置付けを決定づけたのは、2025年11月にAnthropicが公表した米国AIインフラへの500億ドル(約7兆7,000億円)の投資計画です。この計画でAnthropic専用のデータセンターをテキサス州とニューヨーク州に建設する役割を担うのがFluidstackで、拠点は2026年を通じて順次立ち上がる予定になっています。
Anthropicにとっては、Amazon Web ServicesとGoogle Cloudという2つのクラウド事業者との関係の外側で結んだ、最大級の独立系インフラ契約にあたります。汎用クラウドは幅広い用途に最適化されている分、フロンティアモデルの学習という一点に絞った要求には合わせ込みが効きません。専用設計の建屋を別に用意する判断は、そこに理由があります。
この契約を受けて、Fluidstackは2025年12月に本社をロンドンからニューヨークへ移しました。2026年3月にはフランス政府が進める100億ユーロ規模のデータセンター計画から手を引いており、米国市場に絞る姿勢が鮮明になっています。
6か月で建てる仕組みと、チップを選ばないソフトウェア
同社が繰り返し掲げているのは、ギガワット級の計算資源を6か月で用意するという目標です。一般的なデータセンターの新設には18か月から24か月かかるとされており、その工期を工場で作った規格化済みのモジュールを現地で組み上げる方式で圧縮します。計算需要が1年で倍増しかねない研究所にとって、この短縮そのものが商品価値になります。
建屋の中で動くソフトウェアも自社製です。ベアメタル基盤のAtlas OSはサーバーのイメージ展開を自動化し、KubernetesやSlurmの環境を数日で用意します。通常のクラウド導入で数週間かかる作業を短縮する狙いです。監視側のLighthouseは性能を実時間で追いかけ、学習ジョブが落ちたときに自動で再開し、故障したハードウェアを予備機と入れ替えます。数千枚規模のクラスターでは1枚の不調が全体を止めるため、この自動復旧が実効的な稼働率を左右します。
Atlas OSとLighthouseはどちらも特定のチップに依存しません。NVIDIAのH100、H200、B200、GB200に加え、AMDのMI300XやMI355Xにも対応し、いずれも理論性能の95パーセント以上を出せる状態で検証していると説明されています。クラスターは既定でシングルテナント、つまり顧客ごとに完全に分離され、ノード間はInfiniBandで結ばれます。他社の処理と計算資源を取り合う心配がない構成です。
チップメーカーのどこにも肩入れしない立場は、GoogleがTPUを外部のクラウド事業者へ広げようとしている局面で効いてきます。AnthropicはGoogleのTPUを最大100万個規模まで使う計画を2025年10月に明らかにしており、NVIDIA以外の選択肢を運用できる事業者の希少性が、そのまま評価額に反映されているように見えます。
Oxfordの学生プロジェクトから9年
Fluidstackは2017年、Oxford Universityに在籍していたGary Wu氏とJames Cox氏が立ち上げました。当初の発想は、データセンターや研究室で遊んでいるGPUを集めて開発者に貸し出すというもので、当時はGPU版のAirbnbと呼ばれていました。
2022年末のChatGPT登場で状況が変わります。フロンティア研究所が求めたのは余剰資源の寄せ集めではなく、専用に設計された大規模なクラスターでした。同社は仲介から設計・建設・運用まで担う体制へ切り替えます。英国での会計報告によれば、売上は2022年の180万ドル(約2億8,000万円)から2024年には6,620万ドル(約102億円)まで伸びました。
投資家向けの資料では、2026年の売上を6億6,000万ドル(約1,020億円)と見込んでいます。2025年の2億ドル(約310億円)から3倍を超える計算です。同じ資料は2030年までに17ギガワット超の設備を運用する想定を置いており、これはAmazonとMicrosoftが現在米国内に持つデータセンター容量の合計を上回る数字にあたります。あくまで投資家向けの見通しであり、電力の確保と建設が計画どおりに進むかどうかは今後の実績で確かめるほかありません。顧客にはAnthropicのほか、Meta、Mistral、Poolsideといった名前が並んでいます。
まとめ
Fluidstackは15億ドルを調達し、評価額180億ドル、累計調達額26億ドル超となりました。GPUを保有せず、電力と建屋とソフトウェアだけで成立させる構造が、チップの世代交代に左右されにくい事業として評価された形です。Anthropicの500億ドル規模の建設を担う立場と、NVIDIAにもAMDにも寄らない運用基盤が、その裏付けになっています。学習から推論へ需要の重心が移り、電力の制約が計算資源の伸びを縛る局面が続くなら、チップを持たない事業者の存在感はさらに増していきそうです。
